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コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 彼と彼女が、似ている理由。 (1) ( No.21 )
- 日時: 2016/07/01 22:41
- 名前: あさぎの。 ◆TpS8HW42ks (ID: MwvvJcXZ)
「……え」
何でなゆが、そんな顔するの。
そんな、出かかった疑問を、喉の奥へと押し戻す。
聞いちゃ駄目。私の直感がそう告げたから、私は今にもこぼれそうな言葉を必死でこらえた。
手、大切なのになあ。
頭の中で、その言葉がぐわんぐわんと響く。
世界にその音しか存在しないみたいに、私の頭の中にはその言葉しか流れていなかった。
壊れたレコードみたいに、延々と、淡々と、その言葉だけを繰り返す。やめて、なんて誰に届くわけでもない叫びを、心の中で吐き出した。
伏せられた目。
きつく結ばれて、噛みしめた唇。
自嘲気味に、震える声で紡がれた呟き。
視線、表情、仕草。何もかもが、あのときの絢都にそっくりだった。
抱いてはいけない劣情を抱えて、それを幾度も幾度も殺している。そんな絢都に、そっくりだったのだ。
「鏡?」
なゆが、私の名を呼ぶ。
ハッと我に返ると、彼女は心配そうに私を見ていた。
どうやら、さっきの呟きは無意識に漏れてしまったようで、言った本人は分かってないらしい。
何でもないよ、と笑うと、なゆは「そっか」と笑った。
先ほどの影はもう息をひそめて、なゆの笑顔はいつもの、見る人すべてを温かさで包む、太陽みたいな笑顔だった。
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