コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: _ほしふるまち 【短編集】 ( No.9 )
日時: 2014/04/08 19:59
名前: 村雨 ◆nRqo9c/.Kg (ID: A.2cGB4E)

【 別れ話 】


「ねえ健人っ、今度二人でどこかに出掛けない?」
「……今度って、いつ?」
「そうだなあ、明日は?」
「明日はバイト」
 そう言って健人は、携帯型ゲーム機の液晶画面に視線を戻す。

 私と健人は、高校三年のときに初めて同じクラスになった。たまたま席が近くになることが多かったから自然と話す機会が増え、そして高校の卒業式の日に私から告白した。
 もうすぐ、付き合い始めて二年になる。
 最近は、健人のアパートで一緒に過ごすことが多い。大抵私は小説を読み、健人はゲームをして過ごす。別に恋人らしいことをするわけでもなく。
 私のほうからデートに誘っても、面倒臭いとか言って断られることが増えてきた。不満といえば不満だ。

 私は液晶画面に夢中になっている健人の横顔をみつめる。

「バイト忙しいの?」
「あー、うん」
 素っ気ない返事。

「次の休みっていつ?」
「…………」
 無視、ですか。

 付き合いたてのころは、寡黙で誰にも媚びないところが格好良いと思っていた。でも今は、そんなところがかえって嫌に思えるときがある。

「あ、そ、そういえばこの前の飲み会で先輩がねっ、」
「香織、ちょっと黙ってて」
「…………何でよ」
「今ラスボスと戦ってるから」


──────賑やかなゲームの効果音が部屋中に虚しく響く。私の頭の中で何かが、切れた。


「ばっかじゃないの!? 大学生にもなって、そんなゲームのどこが楽しいのよ!」

 自然と声が大きくなる。健人は私の異変に気付いたのか、さすがに画面から目を離した。なのに、わざわざ一時停止ボタンを押すところが目に付いて、苛々した気持ちに拍車がかかる。

「何だよ、急に大声出して」
「健人が悪いんでしょ」
「どういう意味だよ」
「分からないなら別にいい」

 私はむくれて黙り込む。今の自分が駄々っ子に過ぎないことは分かっていた。でも、既に後に引けなくなっていた。

「香織の思ってることなんか……そんなの、言葉にされないと分かるわけないって」

 正論を言われた。追い詰められた私は、最後の切り札を出す。


「…………別れよう」


 そう言って、健人の顔も見ずに立ち上がる。背中を向けたときに名前を呼ばれたけど、何も答えずに靴を履き、外に出た。
 ほとんど駆け足で階段を降りる。────嫌い、大嫌い、あんな奴。冷たいし、人の話聞いてないし、ゲームオタクだし。
 ああ言って正解だったんだよ、と自分に何度も言い聞かせる。

 *

 アパートを後にするとき、一瞬振り返って部屋の窓を見た。もしかしたら健人が私を追いかけてくるかもしれない、という淡い期待が胸をかすめる。

 何を期待してるんだ私、ばっかみたい。






-----





別れ話、ということで切ない感じにしたかった。
でも重くなり過ぎないようにしたかった((