コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: Gimmick Game ~僕たちの歯車を狂わせたのは君~ ( No.21 )
- 日時: 2015/05/12 18:42
- 名前: 逢逶 (ID: 6k7YX5tj)
episode2
title シェフ
光は仕事のため帰って行った。
体の痛みやダルさのせいでベッドから起き上がれずにいた。
何もせず、ただ真っ白な天井を眺めていた。
日も沈み始めて、お腹も空いてきた。
「…どっか食べに行こうかな」
脱ぎ捨ててある服を着て、コートを羽織って外に出た。
比較的街中にある私の家は、少し歩けば店が沢山立ち並ぶ通りに出る。
今日は…どこに行こうかな…
「…あ、ここいいじゃん」
そう呟いてしまうほど魅力的な店があった。
全体は薄い黄色で、出入り口の扉は青。赤い三角屋根で、喫茶店のような雰囲気。
見た目だけで落ち着けるようなそんな店。
〝TADY〟という看板が立っていて、どんな店かはわからないけど、入ってみたくなった。
導かれるように、店へ入った。
「いらっしゃいませー。予約されていた方ですか?」
「いえ」
「カウンター席でよろしいですか?」
「はい」
どうやらレストランのようだ。
内装も素敵で、アンティークな小物が置いてあって絵本の中にいるみたい。
カウンター席には小太りのおじさんや若い女の子が座っていて、美味しそうに料理をほうばっていた。
カウンターの前では調理が行われている。
「ご注文は何になさりますか?」
若い男のシェフ。
カウンターに手をつき、私を見つめる。
「…えっと、おすすめってありますか?」
咄嗟に聞き返してしまった。
失礼だったかな…?
「はは笑 面白いね笑 おすすめは、オムライスなんだけど…それで良いかな?」
「はい」
「かしこまりました」
にこっと笑って、再び調理に取り掛かった。
美味しそうな匂いに包まれる店内。
「…はい、お待たせしました」
数分後…オムライスがカウンターに置かれた。
「いただきます」
湯気の立つ温かいオムライス。
見た目は至って普通だけど、味は…
オムライスを口に運ぶ。
…え、美味しい!
思わず目を見開いてしまった私。
こんなに美味しいの食べたことない…
「お味はどうですか?お客様」
そう尋ねるシェフは不安そうな顔をしている。
おすすめならもっと自信持てば良いのに。
「すんごーーーーーい美味しいです!今までで一番美味しいオムライスです!」
「良かった。でも一番はお母さんの味でしょ?笑」
「母と住んでなかったので…母の手料理は食べたことないです」
母は…私が生まれてすぐに父と離婚した。
母は精神疾患を患っていたため、親権は父のものになった。
…でも、父親は…女と遊び呆けて、家に帰ってくるのは月に一度あるかないか。
お金は置いて行ってくれたからあまり困らなかったけど。
「…そっか。じゃあ、俺のオムライスぶっち切り?」
「そうですね笑」
オムライスを完食して、満腹。
結構、量あったな…って食べ終わってから思うけど、食べてる時は夢中で。
「美味しかったです。ありがとうございました」
シェフに軽く礼をした。
「もう、帰っちゃうの?」
「え?…はい」
「お金は良いからさ、これ貰っといて」
そう言われて渡されたのは小さな紙。
開こうとすると、だめ、と止められた。
「それは店出てから見て?」
「はい…でも、お金は払います」
「本当に良いって、ね?俺、嬉しかったし」
「…はい。すいません」
そう言って店を出た。
渡された紙を開くと、沢山文字が書いてあった。
〝あなたは、素敵な女性です。
俺の一番の自慢のオムライスを美味しそうに、
女性には多めの量なのに完食してくれて嬉しかったです。
また会いたいです。また食べに来てください。
余計なお世話だと思いますが、
あなたがお母さんの話をしている時とても悲しそうでした。
いや、ずっと悲しそうな、寂しそうな、辛そうな顔をしていました。
あなたは素敵です。とても素敵な女性です。
だからあなたに悲しげな表情は似合いません。
だから、あなたのそんな表情を無くしたいです。
無くしてみせます、だから俺に会いに来てください。〟
きっと私が食べてる間に書いたんだと思う。
涙が出そうだった。
でも…
シェフの優しい言葉を完全に信じきれないのは、私がまだゲームから抜け出せていないからだ。