コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 花屋「凛花」 ( No.1 )
- 日時: 2015/10/24 12:58
- 名前: 夏目々 (ID: XoSwXWp.)
雨がしとしとと降る。
梅雨前線はあと5日ほど日本に滞在するようだ。
雨が降り、人の心が暗くなると、花を買いに店に来る人が格段に減る。
早くやまないものか。
憂鬱だ。
店の中にパチン、パチン、とはさみの音だけが響いている。あと、雨の音。
そして、パタパタという足音。
足音?
入口の方に目を向ける。そこには小学生低学年ほどの男の子がいた。
「いらっしゃいませ。」
手を休め、男の子の方へ向かう。
男の子も私に気づいたようだ。じっと私の顔を見つめてくる。
「何かお探しですか?」
「…お姉さんも目、悪いの?」
「目?…ああ、これね。」
そっと自分の左目だったところに手を当てる。
「うん。昔、悪くしたの。」
「へぇ〜。お母さんとおそろいだね!」
少し笑って男の子が言う。
「僕のお母さんも目が悪いんだ〜。今、あっちの方の大っきな病院に入院してるの。」
「そうなんだ。じゃあ、お花をお母さんにあげるの?」
「うん。きれいな花束とかないかなぁ。あ、」
男の子が床に置いてあったバケツから一束の仏花をとる。
「これとかいいかも!僕のおこずかいでも買えるし。」
「いや、それはダメ。死んだ人にお供えする花だから。」
「えー。そっかぁ。」
よく見たら男の子は右手に封筒を握っていた。
おこずかい…か。
「君はどんなお花をあげたいの?」
「君じゃなくて修哉」
「悪い。修哉君。」
修哉君はこぶしをあごの下にあて、うーん、とうなる。
「花束。花束あげたい。」
「そう。じゃあ、こっち。」
修哉君の手を引いて花束の並んでいるコーナーに行く。
「ここが花束売り場。」
「でも…おこずかい、足りない。」
「いくら持ってきたの?」
「500えん。」
ワンコインか。確かに花束を買うには足りない。
基本的な花束の相場は一束3000〜4000円だ。
でも…
「なあ、修哉君。子供料金ってしってるか?」
「うん。ディ●ニー●ンドとかU●Jとかのチケット売り場に書いてあるやつでしょ?『大人』と『小人』って書いてあるやつ。」
「そうそうそれそれ。うちの花屋も子供料金があるの。だから、ここにある花束全部500円。」
「ほんと?あれも?」
「うん。」
「あっちのあれも?あれも?あの大きいのも?」
「ああ。全部ワンコイン500円。」
「…やったぁ!お得だぁ!」
うん。店的には痛手だけど。2000円ちょい赤字だけど。
…まあ、いいか。こんなに喜んでくれている修哉君を見れたから良しとしよう。
その後、修哉君は悩みに悩んだ。
30分ほど悩んで、明るい紫のアジサイの花束を選んだ。
私はその花束を緑の包み紙で包んだ。
「はいよ。転ばないように気を付けてもっていってね。」
包んだ花束をビニール袋に入れて手渡す。
「うん!ありがとう、おねーちゃん。」
修哉君は傘をさし、小雨になった雨の中をパタパタと走っていった。
続く、かもしれない。