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- Re: 【住民参加型】カキコ学園2年カオス組!!【偶像劇】 ( No.94 )
- 日時: 2017/09/16 15:51
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: yCPJRH6h)
- ACT:5-A 烏丸凉 
 
 
 
 なんか知らないが巻き込まれた。
 
 
 「それでは裁判長、開廷の宣言をお願いします」
 
 
 かたわらに控えているのは、面白そうな匂いを嗅ぎつけてにやにやとした笑みを浮かべている野島治人だった。そもそも、しばらく競技がないからじっと座って待っていたら、何故か彼に「緊急事態だから協力してくれ」ときたものだ。
 なにごとかと思ったら、椅子のみを使った即席の法廷に裁判長として参加させられる始末。治人は自称『裁判長の秘書』らしい。
 どちらが検察でどちらが弁護士か分からないし、この即席の法廷にはなんと被告が存在しない。一体なにを裁判せよというのか。
 
 「それでは第一回、『体育祭での公開処刑競技はパン食い競争か飴食い競争か!?』」
 「!?」
 
 驚くほどしょうもない理由の裁判だった。今すぐ放棄したい。
 凉の向かって右側に小田原博人、反対側に史岐彩が静かに椅子に腰かけている。二人の間に言いようもできない緊張感が漂っていた。漫画だとおそらく二人の間にバチバチと火花が散っていることだろう。
 裁判長の椅子から動けない凉は、もうポカンと彼らの様子を見ているほかなかった。自分ではこの場を収束できない。
 
 「ちなみに傍聴席の記者役として佐々木宗近さん、裁判の様子を絵に描く人に十五夜康介さんをお呼びしています」
 
 なんというか、司会役が板についてきた治人は、朗々と傍聴席らしき立ち位置にいる二人の男子生徒を紹介した。カメラを装備した佐々木宗近は、意気揚々とボイスレコーダーなんかも取り出している。隣に座っている十五夜康介は無理やり押しつけられただろうスケッチブックに、飛び立つ鳩の絵を描いていた。言葉には出さないが、彼らしい平和を促すやり方というか。
 どうにでもなれ。
 凉は淡々とした口調で、「……開廷」とだけ告げる。
 そもそもこの議題がおかしいのだ。なんだ、体育祭の競技の中で公開処刑に当たるものはって。そんなことを言ったら今行われている借りもの競争だって公開処刑ではないか。
 C組で一番の馬鹿だとされている八雲優羽は進んで処刑台に上っていったが、彼に巻き込まれる形で宇野響と堂条里琉が処刑台へと送り込まれた。これを公開処刑と言わずしてなんとするのか。凉は静かに合掌した。南無三。
 
 「えー、まずは飴食い競争が公開処刑だとおっしゃる史岐彩さんからどうぞ」
 
 用事は済んだとばかりに治人がノリノリで司会進行するので、凉は静かに傍観を決め込むことにした。なんなんだろう、この茶番。
 指名された彩はスッと立ち上がると、凛とした声で自分の主張を述べた。
 
 「女子にとって飴食い競争ほど公開処刑に当たる競技はないわ。何故ならあの競技は白い粉の中から飴を探すのよ。顔を上げたら白粉を塗りたくったように、顔面が真っ白になります。中には顎だけ白い、額だけ白いといった一部分だけが中途半端に白いというパターンも存在します。これは立派な公開処刑です」
 
 そもそもパン食い競争と飴食い競争ってなんだろう。どちらもカキコ学園の種目にはなっていなかったような気がする。
 
 「異議ありだ」
 
 小田原博人が挙手して反論した。パン食いVS飴食いなどという不毛な争いを率先してやっているということは、なにか意味があるのかないのか。
 
 「たかだか粉に顔を浸すぐらいで恥ずかしいだと? 情けない。その点、パン食い競争は女子だけではなく男子にも該当する公開処刑だ」
 「パン食い競争如きが公開処刑になるとは考えにくいわ」
 「考えてもみたまえ。日本男子の身長は小柄に分類される。身長の低い男子が目の前に吊るされたパンを取る為に懸命にぴょんぴょん飛び跳ねているのだ。その光景を公開処刑と称さずになんとする? 『うわ、あいつ背が低いから取るのに苦労してるぜプークスクス』とか周囲は思っているに違いない」
 「それは違うわ。きっとそういう子に限って、周囲は応援してくれるはずよ。飴食いの方が男女ともに恥ずかしい思いをするわ。やーさんだって飴食いの方が恥ずかしいって言うに決まってる」
 「どうだろうか。やーさんは自ら白い粉の満たされた桶の中に顔を突っ込み、顔面どころか胸元まで真っ白にして、さらに鼻の穴まで真っ白にするだろうさ。私が保障しよう」
 
 この場にはいない問題児の名前まで出して議論は白熱していく。
 傍聴席側にいる佐々木宗近は瞳を輝かせて「いいぞー、もっとやれやれー」などとヤジを飛ばしている。一方で十五夜康介の方は早々に飽きているのか、それとも最初から興味がないのか、自作漫画の扉絵を描き始めた。相変わらず絵が繊細過ぎて上手い。
 パン食いだとか飴食いだとかそういう単語が飛び交っていると、自然とお腹が空いてきた。お昼までだいぶ先だが、どちらかというと凉はパンが食べたくなってきた。飴だと腹の足しにもならない。
 すると、そんな白熱した議論を展開させる二人の間に、銀色のなにかが割り込んだ。
 
 「ヒロ、一緒にきてくれ」
 「どうした、やーさん。私はそういう考えを持っていないのだが?」
 
 どうやら借りもの競争で、『好きな男子(はーと)』と出てしまったらしい優羽は、博人を連れていくことにしたらしい。まさかそういう関係だとは。
 ところが優羽は珍しく頭のいい発言をした。
 
 「『LOVE』じゃなくて『LIKE』も好きだろ。俺、ヒロはそっちで見てるつもりだけど?」
 「どうした、やーさん。珍しく頭が回るではないか」
 「姉貴の朝飯を食ったからかな」
 
 そんなこんなで、博人は優羽の背中に乗せられてゴールへと連行されてしまった。
 残された法廷(仮)は、一応裁判長としての責務を果たす為に凉が静かに告げる。
 
 
 「いったんCMです」
