コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 先輩【15】 ( No.51 )
- 日時: 2015/04/25 15:39
- 名前: ゴマ猫 (ID: RnkmdEze)
- 図書室に着き、持っていた分厚い本の山を近くの机に降ろすと、彼女は俺の前に回り込みぺこりと丁寧なお辞儀をする。 
 「本当にありがとうございます。本当なら私が1人でやらなければいけないのに……」
 本当に申し訳なさそうに、俯いてそう言う彼女。
 「さっきも言ったけど、俺が勝手にやっただけだ。だから気にしなくていい」
 「でも……!?」
 これ以上続けても、この会話は平行線のまま終わらなそうだ。——なら、ここはさっさと退散するにかぎる。彼女の話しの続きを強引に切るようにして、図書室入口の扉に手をやる。
 「あ、あの!!」
 「俺の用は済んだから」
 そう一言だけ言って、振り返る事も、話しの続きを聞く事もせずに扉を開け、図書室を出た。本当に俺には珍しいくらい余計なお世話をしてしまったと思う。親しくないやつと、まして初対面の相手と長々話すのは、はっきり言って苦手だ。普段の俺なら無視して終わりだろう。——気まぐれ……だろうな。
 ***
 「おい、準一。昼休み新谷さんと会ってたろ? 何してたんだ?」
 教室に戻ってきた早々に涼に問いかけられる。
 ちなみに新谷さんとは、渚の事だ。涼は渚の事をなぜか名字で呼ぶ。前に一度理由を聞いた事があったが、はぐらかされてしまった。涼は渚と別に幼なじみではないが、付き合いも長い訳だし名前で呼んでも違和感はないと思うんだが。ってか、何で知ってるんだ? 情報が早い。
 「聞くな。思い出したくない」
 椅子に腰をおろすと同時に返事を返す。あぁ、この紙袋を校内で持ち歩くなんて危険度が高すぎる。これ以上あらぬ誤解を招いては本当に取り返しがつかない。俺は涼に気付かれぬよう、さり気なく自分の鞄に紙袋をしまう。
 「おい、準一」
 「な、なんだ?」
 見られたかと思い、内心冷や汗をかきつつ、少し声がうわずってしまう。しかし、涼は教室入口に視線をやり、なにやら物珍しそうに何かを見ている。——ん? あれはさっきの。俺も視線を教室入口にやると、そこには先ほどの彼女が立っていた。
 「綾瀬先輩が2年の教室に来るなんて、珍しいな」
 涼がふいに呟く。その一言にふと疑問が浮かんだ。
 「涼、あの人の事知ってるのか?」
 俺のその一言に、涼は口をあんぐり開けるとオーバーなリアクションで肩をすくめ、ため息をつく。
 「……準一、本気で言ってるのか? だとしたら、ちょっと引くぞ?」
 「悪かったな。冗談は言わない主義だ」
 涼の問いかけに、俺は真顔で返す。 あの綾瀬って人は、そんなに有名人なのか? 先輩って事は、年上か。
 「この学校じゃ知らないやつは居ないんじゃないか? 容姿端麗、成績優秀、温和な性格、さらにお金持ちらしいぞ」
 「ふーん」
 どうやらかなり有名らしいな。だけどハッキリ言って興味がない。あと、最後のお金持ちってのは人気に関係ないだろ。
 「完璧なのに、気どらないとこも魅力なんだそうだ」
 「本当に完璧な人間なんて居ないさ。居るとしたら、それは人間じゃなくて神様だろ」
 完璧な人間なんてありえない。あるとしたら、そう見えているだけだ。表面だけをなぞって、内側を見てない証拠だろう。
 「そりゃそうかもしれないけど……ってか、準一。今日のお前、俺にあたりがキツくないか?」
 「……そうか?」
 いつも通りのはずだが、知らず知らずのうちに口調がキツくなってたのかもしれない。少し反省。
 「まぁいいけど。それより綾瀬先輩、準一に用があるんじゃないのか?」
 「うん?」
 涼の一言で綾瀬先輩に視線を戻すと、なにやら言いたげな、でも話しかけられず困ったような視線を俺に向けている。 これは、あれか? やっぱり話しかけないとダメなパターンだよな。少々面倒だが、仕方なく教室入口まで歩いて尋ねてみる。
 「何か用ですか?」
 「あ、あの、さっきは、ろくにお礼も言えないまま帰ってしまったので」
 そんな事でわざわざ名前も知らない俺の教室を調べてきたのか。律儀な人だな。——ん? でもよく考えると、あの短時間で俺の教室を調べるなんて、そんな事が可能だろうか?
 「どうやって俺の教室調べたんです?」
 「これ……です」
 先輩は恐る恐るといった感じで、ある物を差し出した。
 「俺の生徒手帳」
 制服のポケットに入れていたのが落ちてしまったんだろうか? 偶然にしては出来過ぎな気もするが、それなら納得もできる。学年と名前がわかれば、あとは誰かに尋ねればいいわけだから。
 「お返しします」
 「どうも」
 両手で丁寧に差し出された生徒手帳を、受け取る。そのまま立ち去ろうとすると、か細い声で引き留められる。
 「あ、あの!! な、何かお礼がしたいので、私にできる事はないでしょうか?」
 「ないですよ」
 ただの気まぐれで手伝っただけで、お礼だなんだと言われては罪悪感すら覚えてしまう。先輩が律儀なのはわかったけど、お礼をしてもらう理由がない。それに、もし気まぐれじゃなかったとしても、お礼を求めて手伝ったりはしない。ちょうどその会話を切るように予鈴のチャイムが鳴るのだった。
