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- Re: SCORE【参照300感謝】 ( No.12 )
- 日時: 2014/12/26 12:00
- 名前: 咲奏 (ID: YKgE9blb)
- 〈5ページ目〉 
 アルトのその声はとても美しくて……。
 いつもはソプラノの声しか聞こえないのに、俺の耳には彼女の声しか……もう聞こえなかった。
 「どうしようかな」
 心で思っていたことがポロリと口から漏れる。
 もうあと少しで文化祭というのに、「あの曲」は演奏できない。
 ヴォーカルもだが、水無月が来てくれないことには何も言えない。部長のくせに、本当情けないな、俺。
 「……あのっ」
 後ろから女の声が聞こえた。
 俺に女の子が話しかけてくる……?いったい誰だろうか、と軽い気持ちで俺は後ろに振り返った。
 「なに?……ってはぁぃ!?え、っと……、日下ぁ、さん」
 「見たらわかるでしょ?さっき話しかけてきたのはそっちなんだから」
 「あ、そうですけど……。えっと、何のようでしょうか……」
 「敬語はやめて。ウザったるいから……。ってそれよりっ何の用って?そ、それは、……さっき、あんまりちゃんと話も聞かないまま怒っちゃったから、あれは悪かったかなぁって。まぁ、そっちが悪いんだけど!!」
 ……ん?
 何が言いたいんだろうか。
 日下は少し赤らんだ顔を見せながら、ぶつぶつと呟く。
 「私は、合唱部の部長としてちゃんとしなきゃいけないし、あなたの望みをかなえてあげられるとは思わない。
 私は……歌があまり上手くないし、人との付き合い方が下手で……人には嫌われやすいからっ……。
 だからね、一応誘ってくれたことには感謝してるのよ」
 「日下は歌、上手いよ」
 「……え」
 「俺、去年の文化祭の時のお前の声、いまだに耳に残ってる。その透き通るようなきれいなアルト……。俺がお前を誘ったのはただ何となくじゃなくて、ちゃんと理由があるんだぞ?俺はお前の声が好きだ、お前の歌声が好きだ。
 人との付き合い方が苦手っていうならうちの部の奴らも同じだよ。仲良くなれるんじゃないか」
 俺がにこりと笑うと、彼女は肩を小刻みに震わせた。最初は怒ってるのか、と思ったけど違った。
 「ありがとう」
 小さな声で日下は俺にお礼を言ってきた。小さすぎて、あんまり聞こえなかったから、意地悪半分で「なに?」と聞き返すと、彼女は伏せていた顔をゆっくりあげて涙ながらの笑顔で
 「……ありがとうって言ってんのよ。分かんないっ?」
 と、上から目線でまた二度目のお礼を言ってくれた。
 健気な子の少女のお嬢様っぷりを、なんだか俺は可愛いなぁと思ってしまう。
 「あー、もう。明日でもいいから曲の音源聞かせなさい」
 「え。どういう……」
 「察しなさいよ。やってあげるって言ってんの、ヴォーカル。本当は超いやだけど、しかも合唱部のみんなからにらまれちゃうけど。でも、あんたの頼みっていうなら、聞いてやらなくもないってこと」
 いーっと歯を見せながら笑う彼女。
 俺は自然と笑って「あぁ」と頷いた。
 「じゃぁ、また明日」
 「うん。また明日ね。って、あんた名前なんて言ったっけ」
 名前……、そういや言ってなかったな。
 俺は日下のほうに向きなおって、
 「桐谷っ、桐谷皐月。軽音部の部長」
 と精一杯の声で叫んだ。届いたかな、彼女に。
 ***
 「桐谷……皐月、かぁ。べっ別に、私は……違うもの。絶対っ!!」
 文化祭まで、あと二週間とちょっと。
