コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 金色の絆 ( No.40 )
日時: 2010/02/06 00:29
名前: ルシフェル ◆gB/tgam99I (ID: dCakVx3H)

〜24〜

  「で? 鏡介、何の用だったんだよ?」
  僕が言った。
  相変わらず苺は空を眺めていたけれど、鏡介は僕の問いに答えた。
  きっと、僕が聞くのを待っていたのだろう。
  「ねぇ、知ってる?」
  いきなり言われたって分からないだろ……普通。
  僕は分からないって意味をこめて首をかしげた。
  「苺さ、一週間いじめられてたんだよね」
  「……あぁ。そのことね」
  苺がいじめられていたことは過去に数えきれないほどあるけど、鏡介が言ってるのはついこの
  間の笹川純をはじめとした寿由梨やその他多数の女子達からのことだろう。
  「やっぱり知ってた?」
  「まぁ……一応」
  手助けとかはしてないけど。
  苺なら大丈夫だって思ってたしね。
  いつも手助けするのが正しいってわけじゃない。
  信じることだって大切なんだってことを僕は知ってる。
  「その一件で、聞きたいことがあるんだけど……いい?」
  「いい? って聞かれてもなぁ……内容による、としかいえないかな」
  僕だって完全に把握しているわけじゃないしね。
  苺は、あれ以来この一件に関しては何も言ってこない。
  終わったこと、として片付いているのだろう。
  今までのように。
  「安心してよ、実。大した事じゃないからさ」
  「大した事じゃない……ねぇ……言っとくけど、僕の知ってる範囲内ね」
  「勿論。実が知らなかったからって、苺に聞いたりしないよ」
  流石僕の親友だ。
  僕の思っていることをきちんと分かっている。
  僕は『苺の身に起こったことは、無理やり聞き出さない』というルールを作ったんだ。
  苺が僕に話したいなら話せばいいし、話したくないなら話さなくてもいい。
  双子だからって全てを話さなくたっていいんだ。
  全てを知っていなくたって、僕達の関係は変わらないから。
  そして、僕はこのルールでその人との関わり方を決める。
  違反してたら関わらないし、別に違反をしているわけではなければ普通に接する。
  きちんと守っていたら僕はその人を認める。
  まぁ、このルールを人に話したことはないから、その人の本当の性格を見定めるために使うって
  とこかな。
  それでも、今までには三人もこのルールを自然に守ってくれた人がいる。
  全員『双子』って言うことを理解してくれてる。
  多分、自分達も双子だから分かるんだろうけど……
  そして、そのうちの一人がこいつ、天堂鏡介だ。
  こいつにも色々な事情があって大変だったけど、きちんと分かってくれた。
  だから僕らは親友だ。
  ……もしかして、元親友ってことになっちゃってんのかな……
  それは少し残念だけど、しばらく会っていなかったし、しょうがないのかもしれない。
  三年は、僕らにとって長すぎるほどの時間だからな。
  「あー……うん。実、ひとつ聞かせて? これがはっきりしてないと、これをするかしないか決める
  ことができないからね」
  「ん? あぁ。いいけど、何?」
  「……あのさ、俺ら、三年も離れてたわけじゃん?」
  鏡介は心配そうな顔で僕を見てきた。
  ついでに、鏡介は場面によって一人称をかえている。
  仕事用が『僕』、僕らといるときが『俺』。
  これは、おそらく、中学のときから変わっていないだろう。
  「それで、さ……気になることがあってさ……?」
  「? なんだよ?」
  「俺らって、親友……だよな?」
  ……あぁ……
  鏡介も、「同じ」だった。
  不安だったんだ。
  鏡介は、確かに人当たりがいいから、<友達>と呼べるものが多い。
  けれど、それは‘表’の鏡介であり、本当の鏡介を知っているわけじゃない。
  だから……親友は僕らとあの二人だけなのかもしれない。
  不安。
  親友がいなくなる、不安。
  味方がいなくなる、不安。
  きっと、かんじてるんだ、鏡介も。
  僕は親友について、はっきりとした何かを知っているわけではない。
  でも、こういう気持ちを持てるやつのことを親友って言うんじゃないかな。
  もし、それが世間の人に受け入れられなくても、僕はそう思ってるから。
  そう思っていたいから。
  「何いってんだよ?」
  「っ……」
  鏡介が少し傷ついた顔をした。
  「僕は、親友ってものがなんなのか、良くは分からないけど、僕の今の気持ちと鏡介の気持ちが
  一緒な気がするから……僕は、鏡介がいなくなるって……親友がいなくなるって考えてだけで
  不安になる。苺もおんなじなんだ。鏡介、君はどうなの?」
  鏡介は僕の顔をじっと見て、少し考えてから言った。
  「俺は……俺も、俺もそう思う。とっても、不安……なんだ」
  「おんなじ気持ちを持ってる鏡介と、僕と苺は親友って呼べるんじゃないかな?」
  「実……」
  うん。
  もし、違ったとしても、俺や苺は、鏡介や、あの二人と一緒にいたいから。
  だから、僕は信じるよ。
  この気持ちをね。
  「そう、だな。三年で変わるわけがなかったんだ。俺らが」
  「うん」
  変わっていないわけじゃない。
  僕らも、鏡介も、あいつらも変わったよ。
  でも、変わっていない部分もあるんだ。
  その変わっていない部分は僕らにとって大切なものなんだ。
  だから、なくしたくないし、変えたくもない。
  そういうものなんだ。
  きっと……
  「分かった。じゃあ、ひとつ<提案>をさせてもらおうか」
  「提案?」
  「あぁ。提案。苺がいじめられていたときに、俺が少し‘裏’を見せてしまってね。そのせいでそ
  の人たちに恐がられている部分があるんだ。そこを少し利用しようかと思ってね」
  「何に?」
  「苺の友達作りにだよ」
  「苺の……友達?」
  「あぁ。苺にはいつも笑っていて欲しいからね」
  それには僕も同感だったが、鏡介の話はやたらと難しい単語が出てきて頭が混乱した。
  「ってわけなんだけど……分かった?」
  「あー…つ、つまり……えーっと…いじめたやつらを寄せずに、鏡介のファン達に話しかけても
  らう、ということか?」
  「うん、まぁ、そんなかんじかな? 勿論、返事は急がなくていいからね」
  「あぁ」
  「話はそれだけっ! あー…すっきりした!」
  「そりゃ、まぁ、あんだけしゃべればな……」
  僕はうんざりした顔をしたが、鏡介は、清々しく笑っていた。