コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 金色の絆 ( No.49 )
- 日時: 2010/03/08 22:34
- 名前: ルシフェル ◆gB/tgam99I (ID: dCakVx3H)
〜25〜
「あのぉ……」
五木が恐る恐る内ノ宮さんに話しかけていた。
多分、さっきの‘会長事件’。
会長が、内ノ宮兄妹とどういう関係なのかってことをまわりがそう呼んでた。
そういえば、あの日……彼女をいじめていたときに怒られて、殺されそうになったのに生かされ
たっていうのにはそういう裏事情があるのかなぁ……?
「会長とどういった関係なのでしょうか……?」
自然と教室が静かになった。
みんな、気になっているのだ。
まぁ、普通は変って思うけどね。
だから、今五木が丁寧語になったことさえもみんな気が付かない。
「……どういった関係って……?」
内ノ宮さんがいつもの愛らしい声で聞き返してきた。
うっ……と五木が言葉に詰まる。
「だからさ、会長と付き合ってるのかって話」
むすっとした声で笹川が言った。
なぜか怒っている。
いや、理由はなんとなく予想できるけど、まだ会って数週間だしね?
あんま、つっこんじゃいけないって思うわけよ。
「付き合うって? 恋愛的な意味で?」
内ノ宮さんがきょとんとした声で聞いた。
……いつ聞いてもかわいらしい声だな、っておもう。
「そう」
あーあ……せっかく話すチャンスだったのに、五木ったら……
完全に笹川に負けてんじゃん……
「……鏡介と私が?」
『鏡介』といったところで、笹川をはじめ五木、クラスの女子、他クラスの女子までもが一瞬殺気
を放った。
誰に、とは言わないが……
「……そうだよ」
笹川がさっきよりもイライラした声で言った。
「……ありえないよ? 鏡介と私は友達……というか親友? だから。実とクーリとテンリと……」
「クーリ? テンリ?」
やっと口を開いたね、五木。
でもさ、明らかに男の子っぽい名前の子のこと聞いちゃ駄目でしょ……
ショック受けちゃうような内容かもしれないのに……
「親友」
二文字で片付けられちゃったよっ!!
でも、まぁ、恋人とかじゃなくて良かったねっ!?
あぁーもう。
わたしは完全無視かよー
わたしは五木が好きなのに、あんなに安心したような顔してさー……
もー……やーだー……
でも、やめられないんだよね……
内ノ宮さんと一緒にいるのも五木が好きなのも。
だから、我慢しなくちゃいけないんだ。
あぁ……なんて面倒な道を選んでしまったのだろう。
いっそ、あのままわたしも、彼女も、嫌いなもの同士でいればよかったのかもしれない。
そうすれば、彼女のことを恨み、憎むことが出来たのかもしれないのに。
彼女と純たちはいまだにそういう関係。
そっちのほうが気楽に生きていけたのかもしれないね。
こんなこと、考えちゃいえないんだろうけど、やっぱりわたしも人として感情を持ってる。
こうだったらよかったのに、そう思うことだってある。
もし彼女がいなかったら、と考えてしまう。
五木はわたしのことを好きになっていたのではないか、と。
そして、彼女がいなくなればいいのではないか、と。
わたしがきちんと見張っておかないと彼女は勝手なことをするんじゃないか。
彼女から五木を奪わなくてはいけない。
誰にもとられるわけにはいけないんだ。
だから、五木と中のいい人にきちんとついていなくてはいけない。
いままでは、こういうことにならずにすんだ。
五木がわたしに恋するように仕向けた。
五木のことを好きな子を片っ端からつぶした。
そうやっていままで生きてきたのに……
それなのに……
どうして入ってこれたの?
わたしよりも五木のことを知らない彼女が。
わたしよりも五木のことを好きじゃない彼女が。
わたしよりも五木のことを信じてない彼女が。
どうして五木の心には入れたというの?
五木はわたしの声を聞いてくれた人なのに!
わたしの大切な人なのにっ!
そう考えるうちに目に涙が溜まってきた。
どうしてわたしがこんな思いをしなくちゃいけないの、と。
そう思ってしまったから。
五木は大切な人。
でも……
「……寿さん? 具合でもわるいんですか」
内ノ宮さんがわたしに声をかけてきた。
口調は変わらず平坦で、そっけない感じがした。
わたしが急に黙ってしまったから心配してくれてたんじゃないかなぁ?
うん。
やっぱり、一週間見てきて分かった。
彼女は人の動きに敏感だ。
それはとても生きづらいことだと思う。
おせっかいだといわれたことが何回あるのだろう。
敏感になりすぎて疲れてしまわないのだろうか。
こんな性格嫌だ、と何度思ったのだろうか。
でも、彼女のそういう性格は悪いばかりじゃない。
さっきだって最悪で、醜く、下劣なことを考えていたわたしを心配してくれた。
そういう優しさは好き。
声を聞いてもらったわけじゃないけど、それと同じぐらい嬉しい。
さっきまで考えていたことは嘘ではないし、むしろ本音だと思う。
でも、優しいって思うのもまた事実で、揺るぎがたいものだから。
わたしはひとつ、大きなため息をついた。
そして、思い出したように思う。
わたしは五木のことを好きで、彼女に勝っているかもしれないけれど……
五木は彼女のことを好きで、それはわたしの好きと同等な価値を持っているのだと。
そして、わたしはそのことを忘れてはいけないのだと。