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Re: 最強次元師!! ( No.432 )
日時: 2010/07/21 10:03
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: mwHMOji8)

第096次元 悲しみの一筋

 「・・・・・ッ!!?」

 キラーは発信機の音を聞こえなかったようにレトの目の前で止まってしまった。
 すると、音は切れ、キラーは体勢を直した。

 「・・・今回はお前もシーホリーの娘も見逃してやる」
 「・・・・・」
 「次は、容赦はしないぞ、レトヴェール・エポール」
 「・・・・ッ・・・」
 「あと、1つ教えてやろう」
 「・・・?」
 「あのシーホリーの娘は、次元師だ」
 「・・・ッ!!?」

 (次元・・・・、師!!?)

 キラーは一瞬にしてレトの目の前から消え去った。
 レトは、腰を抜かしたのかその場から動けずにいた。

 「・・・心臓・・・、止まるかと思った・・・」

 レトは立ち上がろうとしたが体が言う事を聞かず、ぱたりと倒れてしまった。
 レトは傷つきすぎた。
 そして、ゆっくり目を閉じて眠りについた。

 

 「ん・・ぁ・・・?」

 レトはむくりと起き、まわりの状況を上手く把握しきれなかった。

 「なんで・・・、ここ・・・」

 とレトが周りをきょろきょろと見回すと、

 「いでぇッ!!?」

 グギッ!!という不快な傷の音にまたしても倒れた。

 (何で・・・こんなに痛いんだっけ・・・?)

 レトがベッドの上でくたくたと寝ていると、横からひょこんとコールド副班とフィラ副班が顔を出した。

 「っ!?」
 「やっと起きたわね。もうー・・・」
 「ロクが運んでくれたんだ。感謝しろよー?」
 「運んで・・・?」
 「寝てただろ?街の真ん中で」
 「警備員の人が教えてくれたわ。キラーとやりあったんでしょ?」
 「そうだ、俺キラーと戦って・・・ッ!!」
 「事情は後でだ。お前はいつも医療室にいるよなぁ」
 「無茶は禁止っ!いいわね?」
 「あ、あぁ・・・」

 フィラ副班は優しく微笑むと、医療室から出て行った。
 コールド副班は横で煙草を吸っていたが。

 「これも青春の1つなのかねぇ。ロクも疲れたって言ってたぞー?」
 「ロクは何処だ?」
 「任務だ。あいつも休んではいられないらしい」
 「ロクとは合流しなか・・・」
 「どうした?レト」
 「キールアは?キールアは何処にいるんだ?」
 「キールアちゃんか?確か自室に・・・」
 「あいつ、足に怪我してたんじゃ・・・」
 「あぁ、ちゃんと応急処置したから平気だ。にしても何で怪我を・・・」
 
 (やっぱり・・・、キラーにやられたか・・・)

 「俺、キールアに会いに行きますッ!」
 「ま、待て!お前まだ動けな・・・」
 
 コールド副班が言う間もなく、レトは傷ついた体で医療室を出た。
 三階に上がり、キールアの自室の目の前まで来て、レトはそっとドアノブに手をかけた。

 「・・・・キールア?」
 
 レトがキールアに話しかけても、返事は戻ってこなかった。
 ドアノブをまわそうと思った時、動かないのに気付いた。
 鍵がかかっていたのだ。

 「キールア、お願いだから全部話してくれないか?」
 「・・・・・」
 「嫌・・・かもしれないけど」
 「・・・シーホリー家には先祖がいたの」
 「キールア・・・」
 「でも、その人が【悪魔の血】というものを覚醒させてしまったせいで、街がめちゃくちゃになった。
  それで、千年経った今、剣闘様が言ったんだって。「始末しろ」って」
 「それで・・・か」
 「それでね、何であたしだけが生きているか。やっと分かったの」
 「・・・?」
 「あたしの家族は元々3人だった。でも新しい子を産んだの。あたしの弟のセリス・シーホリー。
  それで剣闘族は3人だと勘違いした。それで3人だけを殺された。でもそれだけじゃない」
 「え・・・」
 「あたし、その時昼ご飯を買いに家を出て行ってた。昼ご飯を待ってる皆の顔を想像しながら。
  それで、戻ってきたら待っていたのは皆の笑顔じゃなくて残酷な現実。あたし、それで思った」
 「・・・」
 「皆は、あたしの犠牲になったのかもしれないって」
 「いや、でも・・・ッ!」
 「あたしは今まで何か悪い事でもあったのかと思って強く生きてきたのッ!!
  でもあんなの卑怯だよッ!!何も悪くないのに、悪魔の血なんて知らないのにッ!!
  ・・・・あたしは・・・1人で生きてきてやっと分かった」
 「でも、俺だって家族いないようなもんだし・・・」
 「レトにはロクだっていればお父さんだっているッ!!ちゃんとした家族がいるじゃない!!
  でもあたしは世界中何処を探し回ってももういないのッ!!何処にもいないのッ!!」
 「・・・・・ッ」
 「何年も・・・・、ずっと考えてた。あたし・・・」

 扉越しに、何かカチャカチャと音が鳴っている。
 それに気付いたレトは思い切り扉を叩いた。

 「キールア・・・、お前・・・」
 「あたしは家族が大好きだった。本当に大好きだったの。もし死ぬのなら、同じ理由で死にたいッ!!」
 「やめろ・・・、キールアッ!!」
 「もう生きる意味なんてないッ!!シーホリー家なんてどうでもいいッ!!あたしは1人の人間なのッ!!」
 「キールアッ!!!」

 キールアが首にナイフを突きつけた時、
 レトは必死になって扉の鍵穴をこじ開けた。
 
 (やばい・・・、間に合え・・・—————ッ!!)
  
 ガシャンッ!!という金属音が響いた時、キールアの持っていたナイフが床に落ちた。
 レトの右手は血だらけになっていて、どうやらナイフをはらったらしい。

 「・・・・あ・・・」
 「俺は、今のキールアでいいと思うぞ?」
 「・・・・」
 「お前は医者になりたくて誰よりも多く勉強してきた、努力してきた。
  なのに、報われない事はないし、死ぬ理由もない。勝手に決めたのはあいつらなんだ。
  例えお前が自分で死にたくても、俺は絶対死なせないぞ?」
 「レト・・・・」
 「お前に助けを求める奴だっているし、誰も死んでほしいとなんか思っちゃいない。
  俺はよく分かんないし、今のキールアに言ったらいいか分かんないけど、でも、これだけ言える」
 「・・・・?」
 「俺は今のキールアが一番好きだ。医者として仕事真っ最中っていうお前の方がな」
 「・・・・ご・・、めん・・・・」

 ふいに流れ落ちた涙。
 その流れにそって床に座り込んだキールアは、涙を抑える事ができずにレトに思い切り抱きついた。

 「うわあああああああああああああッ!!!」
 
 家族を無実の罪で殺された悲しみ。
 自分までもを責められた孤独な悲しみ。
 キールアに対する悲しみは誰が思うより深く、厚かった。
 
 強く生きて欲しい、笑顔でいてほしい。
 そういうレトの思いが届いたのか、キールアの思いは止められなかった。
 悲しみと共に流れて欲しいと願う一筋の涙が、誰よりの願いだったと、レトは心の奥底で思っていた。