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Re: 最強次元師!! ( No.472 )
日時: 2010/07/27 16:14
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: mwHMOji8)

第106次元 感謝と御免の言葉

 「あれほどダメって言ったでしょーーッ!?」

 医療室でロクとレトは見事に叱られていた。
 その横でキールアが寝息をたてて静かに眠っているというのに。

 「大体貴方達はねー・・・」
 「だって無茶しねぇとあれは倒せないぞ?」
 「しかもあいつは新元魔。2つのタイプを携えた新しい元魔だったの」
 「今回は本当に無茶した。でも、そうじゃなきゃキールアは護れなかった」
 「・・・そう、だったの」
 「あぁ」
 「実はキールアちゃんに無理言って貴方に薬を届けてもらったの」
 「あれは班長命令なんじゃ・・・」 
 「ええ、班長命令よ」
 「それって・・・、まさか・・・」
 「キールアちゃんをわざと戦場に出し、その力を目覚めさせた、そうだろう?」
 「ッ!?」
 
 レトは壁によっかかっている班長の姿に驚いた。
 そして、グッ!!っというように班長の襟元を掴んだ。

 「何をする?」
 「ふざけんな。キールアをわざと戦わせたのか?」
 「そうだ、と言ったら?」
 
 ガタンッというベッドの勢いの音が鳴り、レトは嫌悪な顔をして班長を睨む。

 「これ以上、犠牲者を増やすか?」
 「ッ!?」
 「もしキールアちゃんがこのまま次元技に目覚めなければ戦争から逃れられる、とでも?」
 「・・・・ッ!!」
 「だがそれはこの世の運命に背く事。決してキールアちゃんは逃げられないんだ、次元師なかぎり」
 「でも・・・・ッ!」
 「それとも何だ?お前はキールアちゃんを護りながら戦ってられるのか?今回も護れなかったのに」
 「・・・・今回、も・・・?」
 「前回、キールアちゃんの過去についてキラーの件があっただろう?」
 「・・・・、ッ!?」
 「君は、少しでもキールアちゃんの涙を止められたというのか?」
 「ッ!!?」
 「できなかったじゃないか、君は。キールアちゃんの憎しみさえ消せない君には護りながら戦えない」
 「・・・・・」
 「これが1番の方法だったんだ。もう犠牲者は・・・」
 「班長」

 レトが小さく言い、班長の言葉を遮った。
 
 「それじゃああんたは戦力のためにキールアを無理やり次元師にしたって言うのか?」 
 「無理やりじゃない。あれはキールアちゃんの意思だろう?」
 「キールアをあんなに危険にあわせてまで、あんたは神族に勝ちたいのかッ!!!」
 「そうだッ!!!神族は我々の敵ッ!!それなのに目の前にある可能性を手放せというのかッ!!?」
 「てめぇ————————ッ!!!」

 レトが班長に殴りかかろうとしたその瞬間・・・———————、

 「やめてッ!!レトッ!!」
 「ッ!?」
 
 レトの背中にキールアが思い切りしがみついた。

 「放せッ!!こいつは・・・ッ!!」 
 「誰かを傷つけるなんて、レトらしくないッ!!」
 「・・・ッ!?」
 「レト、言ったよね?『俺はこの世の正義のために戦う』って。もう随分前だけど・・・」
 「それ・・・」
 「そう、あたしの家族が殺されたその夜。レトの家で泣きじゃくってたあたしにかけてくれた言葉」
 「・・・・・」
 「それがレトの正義ならあたしは許せない。それに、あたし・・・」
 「・・・・?」
 「次元師になって、別にいいと思ってる」
 「何言って・・・ッ!!」
 「これでやっと、レトとロクとの繋がりができたみたいでさ」 
 「え・・・・・」
 「あたし、いつも置いてけぼりだった。でも、それでもいいって思ってた」
 「・・・・」
 「でも気付いたのッ!!もしこの力が誰かを癒すためにあるのなら、あたしは生かして生きたいッ!!
  もしそれがどんなに危険でも、あたし思うんだ」
 「・・・?」
 「今まで弱く泣いてきたあたしにまわってきた、強くなるためのチャンスなのかな、って」
 「キー、・・・ルア・・・」
 
 キールアはそっと腕を下ろして、班長に深く礼をした。
  
 「わざとっていうのは受け入れられませんが、どうかよろしくお願いします」
 「・・・あぁ、宜しく」
 「・・・・くそッ!」
 
 レトは颯爽と医療室から出て行ってしまった。
 その姿を見て、キールアは白衣を着て医療室を出た。
 その光景を見て欠伸をしていたロクと違って。
 
 「・・・なんなんだよ」

 レトが向かったのは、もう夕日が沈む前の景色が良く映る屋上だった。
 遠い夕日をただ1人眺めてさっきの事をなにやらぶつぶつと言っていた。

 「俺は絶対認めないんだからな、あんなの・・・」
 「なーにが『絶対認めない』よ」
 
 屋上のドアを開け、白衣姿のキールアがつかつかとレトの元へ歩み寄った。
 
 「・・・なんだよ」
 「しかめっ面、あんたには似合わないよ」
 「あー、そうかい」
 「・・・、ねぇレト」
 「ん?」
 「ありがとう、ね」
 「へ?」
 「班長さんに、あんなに怒鳴ってくれるとは思ってなかったから」
 「お、起きてた、のか?」
 「まぁね。あんまり五月蝿いから起きちゃった。それで全部聞いた」
 「あぁ、そか」
 「なぁーんか、納得いかなそうな顔ね」
 「当たり前だろ。わざとだなんて聞いたらさ」
 「そか、じゃああたしからも二言あげる」
 「二言?」
 「『ありがとう、そしてごめん』」

 キールアはふいに感謝と謝りの言葉をレトに告げた。
 
 「え・・・・」
 「ほら、あたし勝手に決めちゃったじゃない?だから。そして感謝はそのままの意味」
 「よく分からんが・・・」
 「いいんだよ、分かんなくたって。それに、思い出しちゃって」
 「何を?」
 「さっきの、正義の時のレトの言葉」
 「俺、なんて言ったっけ?」
 「えー?覚えてないのー?」
 「あ、あぁ・・・」
 「確か・・・、」

 『この世の正義って、やっぱ間違ってると思わねぇか?』
 『え?』
 『無実の罪で殺したりして、それってこの世の正義なのか?』
 『違う・・・、と思う』
 『だろ?だから俺、本当の世界の正義ってやつ、見つけてみたいんだ』
 『本当の正義?』
 『あぁ、この世の正義。俺が正しいって事、世界に証明してやるんだッ!!』
 
 「その時気付いた。レトは今までこの世の正義のために戦ってきたって事」
 「そう・・・、だったかな」
 「でもあんなレトを見て正直驚いた。だってレトが人を傷つけるなんて、あんまりないじゃない」
 「・・・・まぁ」
 「だから、お願い。世界の正義を剣闘族に見せ付ける時は、あたしも皆と一緒に戦う」
 「・・・・・」
 「ほーらさっさと行かないと夕飯に遅れるよ?それともロクにアップルパイたいらげてもらおうか?」
 「ば、バカッ!それ禁止ッ!」
 「ははっ、んじゃあ追いついてみーなさーいッ!」

 キールアは屋上から出て行った。
 レトはため息をついて、ロクのアップルパイ完食を阻止するために走り出した。