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Re: 最強次元師!! ( No.665 )
日時: 2011/01/04 23:29
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: jQHjVWGa)

第159次元 妖精の登場


 「キールアァァァ————————ッ!!!!」


 レトヴェール・エポールは叫んだ。
 届かない、どれだけ走っても、


 絶対に間に合わない————。



 
 と・・・その時だった。




 キールアが元魔の咆哮とぶつかる直前、
 キールアの真横を、一筋の光が通る。


 「な・・・何だ!!?」


 その光が通り過ぎる瞬間に、

 バァァァァァァンッ!!!という爆音が鳴り響く。
 キールアはその爆風のおかげで咆哮を弾き飛ばされ、助かったのだ。


 「何だと・・・どういう事だ—————ッ!!?」

 
 (何が起きて—————ッ!?)


 サボコロは起き上がる事もできず、エンは1度咆哮を喰らっていて立ち上がれない。
 レトが届く範囲ではなく、キールアには攻撃手段がない。

 では、一体誰が?


 
 かつ・・・かつ・・・と聞こえる靴の音。
 誰かがキールアの背後にいる。
 冷や汗が頬を流れた時、

 背後の人物が大声をあげた。


 
 「あたしの仲間に何してんだアァァァァ——————————ッ!!!!」



 少女は叫ぶ、 
 その黄緑の髪を揺らして、大声で。

 
 
 「嘘・・・」

 「ロ・・・ク・・・・!!?」

 「何故此処にいる・・・—————!!?」


 
 右目を閉じ、ロクアンズ・エポールは佇む。
 腰に手を当てて、堂々と。
 だが・・・先程の技は『雷撃』でも『雷柱』でも、『雷弾』でもない。
 では、ロクは何を使ったというのだ?
 まるで砲撃のような一撃。
 その一撃は巨体である元魔の腹部を綺麗に貫いた。
 
 「ガ・・・ァ・・・ア・・・・—————」


 元魔はその場で倒れる。
 その振動で周りの砂や石も飛び散る。
 これほどの威力を放つロクの砲撃とは・・・。


 「雷・・・砲・・・・?」


 レトは思わず口に出した。
 聞いた事もない、ロクの技の名を。


 「雷砲・・・?」
 「・・・次元級は八次元———————秒速13,7㎞の世界最速の次元技」
 「秒速13,7・・・㎞!!?」

 現在世界最速の次元技—————雷砲。
 炎、水、緑、雷、風、地、毒、氷、光、闇…。
 十大魔次元の1つでもある、『雷』の属性は、現在は世界で最速の魔次元とされている。
 元々、技の速度や強度、効果などは次元師本人の努力により変わるもの。
 始めから強い次元技など・・・存在しないという事だ。

 「どうして・・・動けないんじゃ・・・・!?」
 「んぁ?・・・あぁ、らしいね」
 「らしいって・・・!!」

 その時、別の部屋からも少女が現れた。
 ピンクの髪を揺らし、息を切らしながら。

 
 「み・・・んな・・・・?」


 この状況に何も言えないミル・アシュランは、
 博士とも呼べる男の方に顔を向けた。


 「どういう事ですか・・・?何で蛇梅隊の部隊の者が・・・!!!」
 「・・・計算外だよ。・・・ちょうどいい、君が始末してくれ」
 「——————!!?」

 己の造り上げた元魔を倒されてしまっては打つ手がないのだろう。
 顎に触れ、片目が砕けている白ぶちの眼鏡を上げ、男は言い放つ。
 果たして、蛇梅隊戦闘部隊所属、第五番隊のミル・アシュランに、出来る事だろうか?


 「・・・承知致しました」


 ・・・これは現実だろうか?
 今まで仲間として接してきた者が、
 仲間を排除する・・・などと。
 あってはならぬ——————“事実”。


 「・・・嘘・・・・」
 「そういう訳か・・・っ!!」

 何とか立ち上がったエンとサボコロも身構える。
 女とは言え・・・蛇梅隊内でも有名な次元師。
 手を抜く訳にはいかない。


 「・・・・あ、ミルってば・・・此処にいたんだ?」


 ロクからの爆弾なる発言。
 この状況をうまく把握してないのか、
 空気の読めない言葉を発した。


 「・・・・そうだよ?」
 「この頃いないってフィラ副班が言っててさぁーっ。良かった良かったっ。・・・あれ?帰んないの?」

 
 誰かこいつに簡潔でより簡単な説明をしてやれ。
 レトは呟く。しょうもない妹の言動に。
 
 「お前なぁ・・・・」


 「あたし、戦わないよ?」


 ロクは言う。
 先程までの怠けではなく、
 次元師としての—————顔で。

 「帰ろう?もう暗いし」
 「・・・あたしが今から何するか、貴方分かってるの?」

 ミルは少しだけ片手を上げる。
 まるで・・・もう技を仕掛けるかのように。
 レトもエンもサボコロも攻撃体勢だというのに、ロクは何の身構えもしなかった。

 「・・・皆、待って」

 ロクは近づく、幸罰の少女に。
 最早仲間意識すらしていない—————残酷な少女、に。


 「あたし、戦わないって言ったよ?」
 「じゃあ此処から出て行って、今すぐに」
 「それもやだ」
 「・・・・」
 「だってミルは仲間だし・・・連れて帰るために来たんだし?」

 ロクはなんの躊躇いもなく、敵に近づいているのだ。
 レトはロクを助けに行こうとするが、体が動かなかった。
 恐怖か、ただ怯えているのか・・・分からない程、動かなかった。

 「近—————づかないで・・・っ!!!!」

 ミルは後ずさりして、次元技を放つ。 
 まるで糸で操っているかのように、剣を舞わせながら。
 直線的に、それもストレートに曲がる事なく目の前のロクに向かう。
 

 

 だが、ロクは避けなかった。



 
 「・・・・え・・・?」


 「ロク——————ッ!!!?」
 

 レトはまたしても叫ぶ。
 飛ぶのは、レトの声と、紅蓮なる血飛沫。
 少し掠めたのか、腕にだけ痛みを感じた。


 「・・・どうしたの?殺さないの?」

 
 ロクはミルと視線を外さずに、腕を抑える事もなく、ただ見つめる。
 ミルの両腕は・・・微かに震えていた。

 
 「・・・もう1度だけ忠告するわ。・・・此処から出て行って—————ッ!!!」

 
 それでもミルはロクに再度忠告を言い渡す。
 汗を止まらせる事もなく、獣のような目で、目の前の神に牙を向いた。
 ロクは何も言わず、ただミルに歩み寄る。


 「仲間だもん・・・傷つけらんないってっ」


 そしてまた笑った。
 満面の笑みで、少しの悲しさも感じさせぬ程に。
 ミルは・・・笑う事なく俯いた。



 (あたしには———————、こうするしかないんだから————ッ!!!!)


 ただ懸命に、思いを胸に抱いて。
 ・・・自分の瞼に滴が乗っている事など——————知らずに。