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Re: 最強次元師!! ( No.739 )
日時: 2011/01/19 17:54
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: jQHjVWGa)

第165次元 白銀の少女Ⅴ

 「ハル〜っ!!こっちこっちーっ!!」
 「待ってーっ、ミルーっ!!」

 今だから思い出す、これまでの記憶。
 この9年間の鮮明なところまで、きちんと覚えてるんだ。

 朝から晩までボロボロになって廊下を駆け回り遊んだ鬼ごっこ。
 1人1人の力を合わせて作り上げた大きなクリスマスツリー。
 時には爆発まで起こした誕生日ケーキ作り。
 何度も繰り返した喧嘩と仲直り。

 春には皆で一緒に外の桜を眺めながら花見をしたし、
 夏には夜に368人全員で室内花火をやった。
 秋には大きな部屋を借りて運動会もやったし、
 冬には大々的にクリスマスをした。
 
 1年を通して、何度も何度も、
 あたし達はかけがえのない時間を過ごした—————。
 
 9年間・・・1度だって“不満”を抱えた事はなかった。
 せっかく人を信じられるようになって、
 絶えない幸せに浸ってたのに。

 

 「何だぁ・・・?その生意気な顔はぁ?」
  
 「ふざけないで・・・こんな事やっていいとでも思ってるの!?」

 「思ってるよ?当たり前じゃない———」

 
 あたしはグッ!!と博士の胸倉を掴んだ。
 許せなくて。
 どうしようもなく、許せなくて—————。

 
 「そんな事するくらいなら元力も十一次元もいらない———————ッ!!!!」

 「そう言うなって・・・、どうしてもっていうなら方法もなくないけど?」

 「・・・!!」

 「その代わり、君が最後まで協力してくれたら————の話だけど」

 「ハルや他の皆の為なら・・・あたしはどうなったって構わない」

 「・・・威勢がいいなぁ。んじゃあ、まず言うとだな」

 「・・・?」

 「お前の体内には1つのプログラムが入ってる。それは・・・言わば必要な容量を押さえ込む為の道具さ」

 「必要な・・・容量・・・・」

 「それを取り除くには削除データを送り込む必要がある。もし言う通りにしてくれるならやるけどな?」

 あたしはその言葉を聞いて、
 一切迷ったりはしなかった。

 「・・・いいですよ。本当に削除データをくれるのなら、協力します」

 「良い子だなぁ・・・ML368。———じゃあ、今から言う事に従ってくれ」

 あたしはこくんと頷いた。
 ハルや皆の努力は犠牲にしたくない。
 でも——————こんなデータは使いたくないから。

 「お前・・・ロクアンズ・エポールは知ってるな?」

 「ロクアンズ・・・エポールですか?」

 「あぁ・・・今どこの国でも有名なエポール兄妹の義妹の方だ。その人物のデータが今、必要なのだよ」

 「何故ですか・・・?普通の少女だと聞きましたが・・・」

 「我々科学者は今、その人物に着目している。・・・その子には何か秘密があるんではないかと」

 「・・・何故?」

 「ロクアンズ・エポールの元力の数値は————————普通の人間を超越している」

 「・・・!?」

 「それは普通の次元師の約3,2倍・・・。絶大な元力だ」

 「3,2・・・!?」

 「だから何としてもその少女のデータが必要なのだ・・・分かるか?」

 「待って下さいっ!!一体どうやって・・・」

 「ロクアンズ・エポールは兄と共に総合次元師収集所蛇梅隊本部に入隊した。そこに潜り込めばいい」

 「潜り込むって・・・あたしが、ですか?」

 「そうだ・・・お前は次元師だからな」

 それが、あたしが蛇梅隊に入った理由だった。
 誰にもバレないように、誰にも悟られないように、
 あたしはただ笑顔を作って入隊したんだ—————。
 まぁ、その前にレトに出会ったのは偶然だったけど。
 
 「・・・じゃあ、期待してるよ?ML368」

 「あ・・・————————っ」

 あたしの小さな声を掻き消して、博士は颯爽と去っていった。
 その後姿を何より恨めしく思い、あたしはハルや皆の笑顔を思いだす。

 その時、ふと・・・頬に温かい何かを感じた。

 
 目の前にいる皆の姿。
 昨日まで、あんなに綺麗に、あんなに楽しそうに笑ってて、
 この日を・・・今日を、

 あれほど楽しみにしてたのに———————。

 
 「ひ・・・っク・・・・・う・・・っ・・・うわぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

 
 泣くしかなかった。
 悲しむしかなかった。
 
 見たくない、信じたくない。
 ついさっきまで・・あんなに笑顔だったのに——————っ。


 「ヒック・・・ごめ・・・ね・・・・ッグズ・・・ヒッ・・・ごめんね・・・・?」


 謝っても目を覚ます訳じゃない。
 謝っても戻ってくる訳じゃない、のに。

 
 あたしはこの日、何度も皆の名前を呼んだ。
 何度も何度も、忘れぬように、
 まるで自分の罪を償うかのように、  
 涙でぐしゃぐしゃになった髪や服なんか気にしない。
 どうしても—————名前を呼んでいたかった。

 振り返ってくれるって・・・ずっと信じてた。


 
 あたしの次元技は、幸福と処罰。


 どうして・・・あたしに幸福を与えて・・・後に処罰を下したりしたんだろうか。


 どうせこんな結末を生むくらいなら、

 いっそ—————処罰で終わらせて欲しかった。


  
 あたしが本当に求めた幸せは、
 
 こんなにも儚くて、脆い。


 簡単に散っていく夢と、

 簡単に埋もれてく現実。


 あたしはその中を——————————まるで這うように彷徨い続けた。