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Re: 最強次元師!! ( No.749 )
日時: 2011/01/26 17:34
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: jQHjVWGa)

第166次元 9年間の想い

 (あ、れ・・・?)

 ミルはふと我に帰った。
 さっきまでずっと昔の事を思い出してたんだろう。

 「あ・・・・」

 目の前には長い間ずっと裏切り続けてきた神。
 その神が今、最低最悪の人間に牙を向いている。

 「こんなところまで来てML368でも助けに来たのかぁ?なぁ、神よ」
 「当たり前じゃん。それ以外に何か理由でも?」
 「くっくっく・・・くははははッ!!」
 「・・・!?」

 白衣の男は笑っていた。
 仲間を助けに来たという神の言葉に、まるで狂ったかのように。

 「助けに来たぁ!?ずっと貴様の事を裏切ってきたというのに!?」
 「・・・・」
 「貴様の個人情報のデータを全て見知らぬ男に渡していたというのにか————!!?」

 さっきロクに殴られた衝撃で片方だけ割れた眼鏡越しに、ロクの事を睨み付けた。
 バカらしい、なんとバカな神だろう、と。 
 狂うように笑いながら。

 「・・・それが、どうしたの?」
 
 ロクのたった一言で、この研究所は一瞬音を失った。
 響き渡るの遠くの方から聞こえる無機質な機械音。
 心の奥から、本気でそう言ったロクの言葉を聞いて、白衣の男は笑うのをやめた。

 「・・・なんだと?」
 「だから・・・それがどうしたのって聞いてるの」
 「まさか・・・なんとも思ってないとか言うんじゃないだろうーねぇ?」
 「・・・ふっ、バカバカしい」
 「・・・!?」
 「誰が憎むの?今まで仲間として生きてきた人に対して・・・そんな感情は沸いてこない」
 「・・・なん・・・だ、と・・・・」
 「ミルに何があったか、なんて知らない。でも・・・ミルの気持ちを利用するんだったら許さないッ!!!」

 迷いのない眼の視線が白衣の男に突き刺さる。
 憎んでいる訳がない、怒ってる訳がない。
 今までずっと仲間だったのだから——————。

 「ロク・・・ちゃ・・・・」

 ミルは思わず声を上げた。
 ロクは何も知らない筈だ。
 ハル・アシュランの事も、十一次元の実験の事も、ましてやミルの想いなんて・・・とても。
 
 でも、分かる。
 それが心の神だからなのか、そうではないのか。
 例えそうだとしても、きっと分かる。
 ロクは人の心を見透かす“何か”を秘めているから———。

 「何も知らない君に何ができる?・・・・もうこの実験は止まらない!!」
 「・・・・実験?」
 「そうさ——————最大なる実験だッ!!」

 ミルはその言葉を聞いて、少し疑問を抱く。
 自分の中に十一次元覚醒のプログラムが埋め込まれている。
 もう十一次元を手にしているのに・・・どうしてロクアンズ・エポールのデータが必要だった?
 仮に、自分の中に367人分の元力が元々なかったとしても、
 ロクに着目する理由はない。
 それなら・・・何故?

 
 「あ・・・・・」

 
 ミルは、気づいてしまった。
 今までの実験が、どういう意味を齎し、ロクを巻き込んでまで博士がやりたかったのは。

 神を創造する・・・という事ではないだろうか?
 
 だが、幾年か前にその実験は永久凍結となった筈だ。
 少し前に“完璧なる神を創造する”とぼやいていた博士のあの言葉は、
 もっと別の意味があり・・・それが、

 【十一次元覚醒実験】となんの関わりも持たなかったら————————。


 
 「・・・・まさ、か・・・・・」

 
 
 ミルの鼓動は次第に速くなる。
 気付いてしまった、分かってしまった。
 そうだ———————元々、簡単な事だったかもしれないのに。
 そんな事に気付けなかった自分が悔しくて、仕方が無かった。

 「・・・待ちなさい、よ・・・」

 小さい声で、ミルは言う。
 自分でも敬語が外れているのは良く分かった。
 それはきっと・・・もう敬うべき相手ではないと、認めたから。

 「どうしたML368・・・お前もこの神を—————」
 「神・・・?ML368・・・?何を言ってるの、貴方は」
 「・・・?ど、どうした・・・・」

 ミルは鼻で笑った。
 バカにしたように、まるで哀れ者を見るかのように。
 
 「最低ね・・・貴方。あたしとハルを利用して、最終的に何の関係もなくて」
 「・・・・・?何を言っ・・・————」
 「ふざけないでッ!!!!」

 啖呵をきったミルの言葉に、この場にいた全員が肩を震わせた。
 靴の音を鳴らし・・・ミルは博士に近づいた。
 何の音も聞こえないこの広間で、ミルの靴音だけが響いた。

 「最初からこれが狙いだったんでしょ・・・?あたし達の思いを利用し、踏み躙って・・・」
 「・・・・・?」
 「最初から【十一次元覚醒実験】なんて外見だけの実験だったくせに—————!!!」
 「・・・!?」
 「十一次元なんてあり得ない。あり得る筈がないの。・・・なのに」
 「・・・」
 「貴方は367人の人間を犠牲にして、あたしを戸惑わせて、神のデータまで欲したなんて、バカらしいわね?」
 「何をふざけた事を・・・、私は——————」
 「十一次元の実験を放り投げたあんたに・・・、神のデータが手に届く訳ないじゃない——————!!!!」

 その時のミルの表情は、まるで泣いているようで、それでも怒りをぶつけているようだった。
 ずっと好き勝手にされて、利用され続けて。
 それでミル・アシュランこと、幸罰の少女が許す筈もない。
 まるで目の前の罪人の犯した罪を拷問する———————正義と秩序だけを守ってきた警察官のように。
 ミル・アシュランはその憤怒の感情を白衣の男に、言葉と共に殴りつけた。