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- Re: 最強次元師!! ( No.753 )
- 日時: 2011/03/14 15:23
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: jBQGJiPh)
第167次元 十一次元発動
「・・・え・・・・・」
突然のミルの行動に、ロクは一瞬驚いた。
男の胸倉を掴み、怒りの表情を浮かべるミル・アシュラン。
彼女は全てを知ってしまったのか、博士に向かって牙を向く。
冷たい空気に見舞われたこの研究所で、たった1人、少女は怒りの矛先を白衣の男へと向けた。
「・・・そうだ、十一次元なんて端から嘘だったんだよ—————ッ!!!」
「・・・・!!」
「何・・・!?」
「できる訳がない・・・、そうだろ?だから利用して———————」
その時、ミルは口元を歪ませて、ふっ、っと笑みを零した。
そしてゆっくりと男の胸倉を掴んでいた右手を離し、1歩、後ろへと下がった。
「・・・言ったわね?」
「・・・な・・・何・・・・?」
「今・・・『十一次元なんて出来る訳がない』って、言ったよね?」
「それがどうし・・・!!!」
「ふふふ・・・ホントバカですね、博士?」
一体どうした事だろうか。
いきなりにも彼女は笑い出した。
まるで相手のついた嘘に、
もう1つ、嘘があると言っているかのように。
「な・・・・!?」
「・・・今までのは全部演技ですよ、博士」
「何、だと・・・!?さっきまであんな事を・・・!?」
「——————貴方は次元師ではない、だから気付かなかった」
演技だった。
ただ博士に自分から『今までの事は全て嘘だった』と言わせる為の、
巧妙な、実に迫力のある演技。
彼女は先程まで笑っていた声を、突然低くし、博士に言った。
「貴方は次元師の“可能性”を知らない。次元師がどういう風に戦って、強くなっていくかを、知らない」
「それは既にデータで・・・!!」
「データ上だけでは分からない、そう、絶対にね?」
「・・・!?」
「あたしが今まで何もしなかったとでも?ハル達を殺した貴方を恨まないはずがないじゃない」
「じゃあ何か・・・!?」
「あたしは“制御”と“圧縮”をマスターした。それが出来れば367人分の元力なんてものともしないわ」
「・・・な・・・・」
「次元師ってのはデータ上だけじゃ理解できない“可能性”を秘めてるの」
「・・・・・」
「ただの科学者なんかには—————絶対に分からない」
瞬間、冷たい空気がミル達の頬に触れた。
その風はそのまま東の方向へと流れていく。
“制御”と“圧縮”。
“圧縮”、というのは以前、レトとロクが修行したものと同じ。
風船の内側に圧縮された元力を送り込んで風船を破裂させる、というものだ。
だが“制御”というのは別ものだ。
自分が扱える元力の数値を増やす為に、何度も元力を使わなければ分からない、というのが条件だろう。
その莫大な元力を扱うのに、相当な時間と労力は必要な筈だ。
「・・・じゃ、じゃあ・・・・!?」
「あたしは、貴方に感謝してるんですよ」
「!?」
「ハルと出会わせてくれて・・・本当、嬉しいです」
「・・・・」
「でも、それと同時に・・・ハルとあたしを引き離したのも貴方です」
ミルは近寄った。極限まで、あの憤怒の溢れた顔で。
白衣の男からは先程までの威勢は感じられない。
肩が小刻みに震え、冷や汗が風に触れて腕がどうしても寒く感じてしまう。
それが一層、ミルへの恐怖心を抱いた。
「・・・悔やむのですね、博士」
「・・・・・!?」
「——————————自分の与えた最強の次元級に打ち負かされる事を———ッ!!!!」
ミルの迫力のある怒りに、更に博士は震え上がる。
恐怖心のあまり腰を抜かし、床に手をついてミルを見上げた。
死にたくない、生きたいなどという、欲望だけが込み上がる。
「・・・ロクちゃん、皆、離れてて?」
「え・・・」
「傷つけたくない——————————ごめんね?」
これが、本当のミルの笑顔。
偽りなきその微笑みに、少しだけ寂しさを感じたのは何故か。
今まで何度泣いただろう。
今まで何度苦しんだろう。
今この時を持って——————————ミル・アシュランは憎むべき相手に手を翳す。
「第十一次元発動————————————————————」
彼女に迷いなど、なかった。
ハル・アシュラン。
その人物の想いは、たった1人の少女に受け継がれた。
ただ、幸せになりたかっただけなのに。
「罰孤兜導—————————————————浪心冥界門ッ!!!!!」
ミル・アシュランがその次元技を叫んだ瞬間、
博士の真後ろから紫色の気体がむわむわと上へと上昇した。
その気体はやがて渦を巻き、1つの形になっていく。
この部屋の天井についてしまう程巨大な門。
その門の真ん中を中心にし、真っ白な骸骨がまるで招いているかのような姿をしていた。
ギラギラとした大きな金色の玉が所々に埋め込まれ、その姿と言ったら、
まるで地獄へと誘う憎悪の塊を表したかのようなものだった。
「嫌・・・だ・・・・ぃ、嫌・・・・・っ」
「・・・・」
「死に、たくない・・・!!私はまだ——————————ッ!!!!」
博士が全て言い終わる事なく、扉はゆっくりと開かれた。
先程のような紫の空気がむわりと博士を包むように襲ってきた。
気持ちの悪いその空間に、ずるずると引き込まれるように博士が呑みこまれていく。
恐怖という感情だけが、博士の脳裏を過ぎった。