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Re: 最強次元師!! ( No.755 )
日時: 2011/08/08 22:45
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: SLKx/CAW)

第169次元 曇天に向かう想い

 あの白衣の男の行方はいざ知らず。
 白衣の男の本当の目的は、“神族のデータを収集し、研究し、神族を造る”だったという。
 本物のデータを使用すれば神を超える事ができる…という馬鹿馬鹿しいもの。
 後に、ミルから知らされる事になるとは言わなくても良いだろう。

 そしてその後、ミル・アシュランを残して本部に帰還した5人は医療室で寝そべっていた。
 サボコロは疲れ果ててそのまま就寝。
 エンは自分の不甲斐なさに自分を責めつつあり、
 キールアはそんな2人とロクとレトを朝から晩まで看病していた。
 
 「・・・ミル、大丈夫かな」
 「んぁ・・・、お前が心配するこたないだろ・・・それより」
 「・・・?」
 「俺はお前の方が心配だな。怪我治ってないだろ?」
 「あぁ・・・うん、元力の方もね。もうピンチかも」
 「かもって・・・お前なぁ・・・」

 ミルを残して来てしまい、ロクは不安を抱えていた。
 だがそんな事を考えられる程の体力などなく、すぐにくたっとしてしまい、ため息をつく。
 あの時、どうしてロクはミルの元へと向かったのだろうか。 
 そもそも何も知らなかったロクには、己の体を無理やりに動かしてまでミルを追う必要はなかったはずだ。

 「・・・あたしね、見ちゃったんだ」
 「見たって、何を?」
 「あたしの看病をしてたのか・・・椅子の下に変なレポート用紙があってね」
 「レポート用紙・・・?」
 「うん。それが落ちてたから拾ったら・・・実験の事とか、【十一次元】の事も、全部全部書いてあって」
 「実験・・・」
 「あぁ、知らないならいいけど。・・・それでミルが危ないんじゃないかって思って・・・追いかけたの」
 「そうだったのか・・・ちょっと不思議に思ってたんだ、俺も」
 
 そして必死になってミルの元力を辿って、ロクは研究所へと向かった。 
 扉が開いている事で、中に人がいると確認したロクはそのまま奥へと行き、
 あの大広間の扉の目の前にきたのだ。
 何故か明るくなっているため驚いて、ロクは扉の奥を覗き込んだ。
 そしたら咄嗟にも、元魔の咆哮がキールアに襲い掛かろうとしているのを目撃し、雷砲を放った。
 
 「あたし・・・行って良かったのかな」
 「当たり前だろ、お前が来なきゃキールアはやられてた」
 「・・・・そか・・・・そうなら、いいんだけど・・・」
 「何か考え事でもあんのか?」
 「・・・いや・・・・・」

 レトの質問に小さく答えたロク。
 その顔は何処か憂鬱で、暗い雨の下にいるかのような表情を見せた。
 そして実際に外に降る雨なんかを見つめながら、ロクは目を細めた。
 雨の滴る一瞬一瞬の音を、聞きながら。

 「変な事考えんなよ」
 「・・・え?」
 「お前はお前だ、お前らしく戦えばいい」

 レトは分かっていた。
 ロクが今、感じ、思っていた事を。
 
 忘れる訳がない。
 街の人達に反感を受けた、あの日の事を。
 自信がなかったのだ、ロクには。
 人間に好かれる自信が、神族の自分が人族を護りきれるという、自信。

 「・・・今回の一件じゃ、まだ分かんねぇけどさ」
 「・・・うん」
 「言っただろ、少なくとも俺は見方だって」
 「・・・うん」
 「胸を張れ、堂々としてなくちゃお前じゃない」

 義兄からの言葉が、どれだけ心に響くのだろう。
 自分を信じてくれる人がいる、
 たったそれだけの喜びを噛みしめながら、ロクはうんと頷いた。

 「久しぶりに俺達で任務行くか?」
 「え・・・でも、違う部隊だし・・・」
 「平気だろ、今まで俺達だったんだし。副班達も許してくれるだろ」
 「・・・大丈夫かな・・・」
 「心配すんな、今はその方が都合いいだろ?」
 「ん・・・まぁ」
 
 体が動けるようになったら行こうな。
 レトはロクにそう告げた。
 ロクはまた、うんと頷いて、
 そして空を仰ぐ。
 曇天の空を・・・青空でもない濁ったガラス越しの空を、
 まるで向日葵のように太陽に向かって、仰ぐ。

 「どんな任務がいい?」
 「んー・・・遠出がいいかも」
 「だよな。・・・じゃあ砂漠の向こうだなっ!!」
 「そんな遠く?」 
 「いいじゃん、砂漠も悪くない」
 「まぁ・・・偶にはね」
 
 2人はまた笑い出す。
 近々色んな事があったのに、この義兄妹が笑う。 
 どんなに周りに否定されても、変わらない。
 ずっと隣で笑い合えるような存在になりたい。

 2人はその時、強く願った。


 違う種族で違う家族で・・・血も繋がってない2人が、

 ただ懸命に、お互いを強く想い合う。


 
 
 班長室へ向かう為、1人の副班は足早に歩いていた。
 フィラ副班は肩に紅色の小さな蛇を乗せて、扉を開ける。
 目の前にいたのは、糖類ゼロのブラックコーヒーを啜りながら分厚い書類を片手に持つやや長身な男。
 そう、この蛇梅隊本部の班長だった。
 
 「班長」
 「んー?何だー?」
 「次の会議の予定・・・なんですが」
 「あぁ、支部共々集まるやつね」
 「実は、支部の方の次元師が1人、こちらに移るとか」
 「え・・・それ、本当?」
 「はい。年は現在14。内気で、ちょっとドジな子、らしいのですが・・・」
 「そりゃ楽しみだなぁ。・・・よし、写真を・・・」
 「あぁ、それと一切撮影はご遠慮下さい。その絶対的なロリコン主義をそろそろ卒業頂かないと」
 「・・・・絶対て・・・・」

 フィラ副班からの一喝を喰らい、班長はぐでっと椅子の背に凭れかかった。
 流石昔馴染みの副班長、フィラ・クリストンだ。
 これから班長の起こす行動など、目に見えている。 
 肩を竦めてため息を漏らすフィラ副班は再度気を取り直し、書類を片手に話し始めた。

 「・・・ふーん・・・・忙しいなぁー・・・」
 「頑張って下さい、これは皆の為なんですから」
 「そう言われてもなぁー・・・、あぁ・・・面倒臭い」
 「ったく・・・写真撮るのは好きなくせに・・・」

 頬を膨らませたフィラ副班は、もう1度ため息をついてからくるっと方向転換をした。
 まだ机でだらだらとしていた班長を見て少し微笑み、ゆっくりとドアを開けて、

 「では、失礼します」

 と丁寧に言ってからまた廊下を歩き出す。
 藍色の綺麗で純粋な髪の毛を秋風に靡かせて、美しい足取りで冷たい廊下を気にもせずに歩くその姿は、
 春に、街中を透き通った美しい声で満たしていく、鶯を連想させた。

 その時、本部の門が開いた。
 
 その先にいたのは・・・偽りなき笑顔で微笑む、幸罰の少女の姿だった。