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Re: 最強次元師!! ( No.760 )
日時: 2011/03/02 19:51
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: yycNjh.Z)

第172次元 運命を背負いし橙の少女Ⅲ
 
 紅い空から仄かに紫へと変色しつつある夜空を見上げ、2人は溜息をつく。
 あれから3時間、休暇をとる事なく探したが、セルナ・マリーヌは見つからなかった。
 既にこの街に滞在していないか、隠れているかの選択肢に迫られた。

 「はぁ・・・、もう6時まわってんな・・・」
 「うん、全然見つからなかったしね・・・」

 街中を走り回って収穫はゼロ。
 疲れ果てた2人はその喫茶店に戻り、飲み物を飲んで休んでいた。
 帰るか、と言ってレトは席を立ち、ロクも立ち上がった。
 
 (・・・・っ!?)

 途端、ロクの脳裏に何かが過ぎる。
 顔を真っ青にし、バッ!!っと振り返ったが誰もいない。
 いるのは客と喫茶店の店員のみ。
 にも関わらず何かを感じた。
 “殺気”のような、禍々しい何かを。

 「・・・ロク?」
 「あ・・・何でもない」
 「ならいいけど・・・なんかあったか?」
 「い、いや・・・」

 だがそれはたったの一瞬に過ぎず、変な気配も殺気も消えてしまった。
 気のせいか、とロクは心の中で呟き、喫茶店の扉を潜った。
 辺りはもう真っ暗になっていて、雲も薄暗い灰色に包まれていた。
 街の街灯が目立ち、その中を2人は悠々と歩いた。

 「セルナって言ったっけ?・・・あいつ、何処行ったんだろ・・・」
 「そうだね・・・・、あんなに寂しそうな目してたのに・・・」
 「兎に角、実験に関わってる可能性が高いから、次元師としても見逃せねぇよな」
 「うん・・・もう、嫌だからね」

 幾度となく実験に関わってきた2人。
 未だ実験として良き結果を得られた事はないのに、それでも人間は神に打ち勝つ為に実験を繰り返してきた。
 例えそれが人の道を外れたとしても。
 
 



 「・・・実験?」

 義兄妹からの言葉で酷く悩まされていたコールド・ペイン副班長。
 コールド副班はレトとロクから聞いたセルナの関わっているであろう実験の事について迫られていた。
 
 「んー・・・今のとこだと何の報告も受けてないが・・・」
 「そこをなんとかっ!!」
 「んな事言われてもなぁー・・・」
 「なぁコールド副班、まさかまだ未発見の実験があるとか・・・聞いてないか?」
 「未発見、か・・・。よし、調べてみようか」
 「おお!?太っ腹ぁーっ!!」
 「まぁ、俺だって一番隊の副班だしな、可愛い教え子が青春に向かおうとしているのならば・・・」 
 「一応言うが、青春と実験は無関係だぞ」
 「・・・はいはい、ったく・・・レトヴェールはきっついなぁーっ」

 軽く頭をくしゃくしゃっ、っと掻き、コールド副班は廊下を歩いて行った。
 もしかしたらつい最近の実験かもしれない、その線もあるだろう。
 未だにセルナの関わっている実験の内容が不明で、その実態も分からない。
 果たして、見つける事ができるのだろうか。
 
 「・・・ねぇレト」
 「ん?」
 「セルナ・・・何で狙われてたんだろ」
 「あー・・・何か理由でもあるんじゃねぇの?」
 「ん・・・そうかも、だけど」
 「・・・?」
 「“巻き込みたくない”って・・・セルナは言ったよね」
 「あ、あぁ・・・」
 「やっぱり何かあるんだよ————————あたし達も知らない、何かが」

 自分達も知らない何か。
 それを突き止めるべく、実験の事を詳しく調査しているのだ。
 セルナと出会ってしまった以上、もう“他人”としては接していけない。
 今、正に目の前で何かが起っているのならば、救うしかなかった。

 「・・・あれ?2人とも何してんの?」

 その時、突然にもあの綺麗な声が2人の耳を突き抜けた。
 2人の幼馴染、キールア・シーホリーだった。
 金髪の髪を2つに結い上げ、蛇梅隊指定の医療部隊の白衣を羽織り、何かの資料を片手に歩いていたのだ。
 ふと2人を見つけ、キールアは話しかけた。

 「いや、あんまりそれといった事はしてないけど・・・」
 「ふーん・・・ま、何かに巻き込まれてるんだろうけどね」

 (う゛・・・っ)

 「あんまり無茶・・・しないでね?」
 「え・・・」
 
 あまりに子犬のような可愛らしい瞳で寂しげに言ったので、一瞬2人の心臓はドクリ、と大きな音を鳴らした。
 相変わらずの大きな瞳を覗く度、何かと胸が高鳴ってしまう。
 それは老若男女問わず、同じだったと言える。

 「そ・・・そこまで心配する程じゃ・・・————」
 「・・・だってあたしの仕事増えてめんどくさいし?」

 満面の笑み、完璧な笑顔。
 右手の人差し指を立て、にこっ、っとキールアは微笑んだ。
 そうだと思った、キールアは普段、2人の心配はしないのだから。
 何か可笑しいと思えば、キールアの策士だった。

 「やっぱそっちかよ・・・」
 「何か言った?」
 「いえ、何も」
 「にっしてもキールアってホント働きものだよねぇー・・・。ってか、次元技使ってるの?」
 「いや、あたしは特に使ってない。元力の数値も少ないみたいだし・・・使う必要もないかなって」
 「そっかぁ・・・」
 「・・・?何か悩みでも、あるの?」
 「いいや、別にないけどねっ」
 
 微妙な苦笑いをしたロクに少し疑問を抱いたが、キールアは自分の仕事がある為にその場を後にした。
 取り残された2人は、ただコールド副班の帰りを待つのも疲れるので、しょうがなく自室に戻った。
 何故こんなに必死にもセルナの事を知りたいのか・・・、2人はそうとも思っていた。 
 ただ懸命に思う。ただ必死に願う。
 セルナの無事を・・・心から。