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Re: 最強次元師!! ( No.762 )
日時: 2011/03/02 19:50
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: yycNjh.Z)

第173次元 運命を背負いし橙の少女Ⅳ

 レトヴェール・エポールの部屋で寝息をたてながら静かに眠っていた2人の眠りを、見事妨げた人がいた。
 扉を荒々しく開け、その人物は叫んだ。

 「おい・・・【元力略奪事件】だッ!!!」

 コールド副班は汗の滲む右手で資料を掴んで叫ぶと、呼吸を整えた。
 大きな声に驚いて起き上がった2人は目を擦りながら首を傾げた。

 「・・・【元力略奪事件】?」
 「んだよ・・・それ」
 「詳しい話は俺の家で、だ。————まずいもんに巻き込まれたぞ、お前ら」

 コールド副班にそう言われ、2人とも後をついて行った。
 副班の足取りは重く、何かを抱えている冷や汗も掻いていた。
 蛇梅隊から出歩いて8分。茶色のレンガの家の前に来た3人はそこに入る。 
 流石男性の部屋だと思わせる程の…というものはなく、
 きっちりと整理整頓された部屋が目の前に広がった。

 「おぉー・・・」
 「副班の部屋ってこうなってたんだぁー」
 「関心するな、それが目的じゃねぇんだから」
 「んで、さっきの【元力略奪事件】って?」
 「あぁ・・・その事だが」

 コールド副班は淡々と話し始めた。
 もしかしたら聞かなかった方が良かったかもしれない、その“事件”を。

 
 今から数ヶ月前、その発端は数人の柄の悪い集団からだった。
 この街でも良く知られていたその数人のグループはある日まるで消えてしまったように悪事が途絶えていた。
 でもそのすぐ数日後、この街には見た事もない小さな研究所が聳え立っていたようだ。
 それが、今回の事件現場とでも言う冪か。
 始めは好奇心で始めた…【次元師を襲う】という事件。
 名の通っていない無能な次元師を襲い、自分達の名を上げようとしたのが元だった。
 だがそれが日に日にエスカレートしていってしまい、次第には【元力略奪】にまでなってしまった。

 “元力があれば、もしかしたら次元師になれるのではないか?”

 そんな事まで考えるようになってしまった男達は始めのターゲットとして1人の少女を狙う事にした。
 小さな村にいた、気の弱そうな少女を。
 その被害者が…『セルナ・マリーヌ』という事だ。
 残念ながらその男達の身元はまだ判明していない、何処にいるのかも掴めない状況だそうだ。
 
 「・・・っていうのが今までの最新情報ってとこだな」
 「そんな・・・っ」
 「そんなの、すぐに捕まえちゃえば———っ!!」 
 「・・・ダメなんだ、そいつらは他の人間より身体能力が優れすぎている」
 「んじゃどうしろっていうんだよ・・・」
 「今までで襲われた次元師はまだ4,5名で・・・【元力略奪事件】に狙われているターゲットは・・・1人」
 「だからセルナはあたし達を巻き込みたくないって・・・」
 「俺達が次元師なのを知って、それでも言おうとしたけど、自分の良心がそれを拒んだ」
 「どうしてどんな大事な事・・・」

 気弱そうで、見ていて不安になる、1人の少女。
 でもその少女が背負うには重すぎる現実が立ちはだかっていた。
 他の次元師を巻き込む訳にはいかない。ましてや今有名な次元師など…。
 2人は小さく顔を頷かせて、ガタンッ!!、と音を鳴らせて椅子から立ち上がった。
 救いに行く、助けに行く。
 セルナにこれ以上重いものは背負わせない——————。

 「・・・2人とも?」
 「わりぃな副班」
 「あたし達・・・こういう性分だからさ」
 「・・・そうか。死ぬんじゃねぇぞ、2人とも」

 副班の言葉に自信のある目で応えた2人。
 自然に目に力が入ったような、そんな気がした。

 「「———————————了解ッ!!!!」」

 

 晴天と太陽の光を受けて、2人は飛び出した。
 街の中を必死に駆け巡る2人が目指した先は———小さな研究所だ。
 そこに数人の男がいるとなれば・・・話は簡単だ。
 国際指名手配犯の4人組・・・それがもしセルナや他の次元師を襲った犯人ならば。

 次元師としても、人間としても、神としても、
 許す訳にはいかなかった——————。


 「ここかよ・・・」
 「物騒だけど・・・大丈夫、だよね?」
 「怖かったら逃げてもいいんだぞー?」
 「あれれー?それはレト君じゃないのかなぁ?」

 何度も2人で地獄の中を彷徨ってきた。
 今更怖気づくなんて、そんな恐怖感はうまれない。
 ただ少しでも多くの人間を救えるのであれば・・・過ちや危険の道は避けない。
 堂々と真正面からぶつかって戦う——————それがエポール義兄妹なのだから。

 「もしかしたらセルナはもう捕まってるかもしれねぇな」
 「うん・・・あの路地で、もう捕まりそうだったのに」
 「兎に角進むぞ・・・双斬、一応もう武器になってくれねぇか?」
 「へ?あぁ・・・いいけど」
 「雷皇も頼むね」
 「分かったっ」

 奥へ奥へと進んで行く2人。
 進む度、足を運ぶ度、次第に鼓動は速くなる。
 ギシギシ・・・と床の軋む音が聞こえる。
 前に進んできた2人は、既にドアノブの破壊されている扉の前に立った。
 扉越しに聞こえてくる数名の男の声。
 息を呑んで、いざ。
 レトは扉を押した———————————。