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Re: 最強次元師!! ( No.768 )
日時: 2011/03/19 13:45
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: jBQGJiPh)

第176次元 運命を背負いし橙の少女Ⅶ

 「たす・・・、ける・・・?」
 「うん、そうだよ・・・、でも、ちょっと我慢してほしい」

 ロクアンズはそう言ってそっとセルナから離れ、持ってきていた白い布のような物でレトの応急処置を始めた。
 そして通信機でキールアに来て欲しい、と一言告げると、そのまま切ってセルナの方へ戻った。
 今から応戦に来るとなると、最低でも10分は掛かる。
 それまでの間になんとかセルナを救い出さなければいけなかった。

 「・・・セルナ、もう時間ないから落ち着いて話を聞いて欲しい」
 「は、はい・・・」
 「あと、何分持つ?」
 「もう・・・何分という単位じゃないんです・・・55・・・、54・・・、もう1分きっちゃ、って・・・っ」
 「・・・分かった、じゃあセルナ、じっと目を瞑って—————多少痛いけど、我慢して」
 「ロクさんは・・・な、何を・・・?」
 「——————————————貴方の体内にある爆弾を射抜く」

 突き抜けたような、凛とした眼差しがセルナに向けられる。
 光沢のない機械の瞳。
 開く事のない、閉ざされた右目。
 そのロクアンズという存在全てが—————セルナの心をも射抜く。
 
 「ねぇ・・・、どうして爆弾なんか?」
 「わ、私が・・・逃げてたから・・・です」
 「逃げてた?」
 「は、はい・・・。それで怒って、逃げたら爆発させる・・・って・・・、それで・・・怖くて・・・っ」
 「分かった・・・、爆弾の場所は何処?」
 「胸の、下辺り・・・です・・・」

 静まり返る部屋。
 ロクが静かに目を閉じて機械音のする位置を把握すると、右手でそれを示すかのように、撃つ体勢に入る。

 だが。

 「あの・・・ロクさ・・・っ」
 「ん?」
 「気持ちは分かりますけど・・・でも」
 「・・・」 
 「それではロクさんが死んでしまう————————っ!!」

 セルナの叫んだ言葉は、ロクの脳裏を過ぎった。
 これ程までに至近距離で雷砲を放つと、ロクにも被害が出てしまう。
 かと言って遠距離だと…狙いが定めにくい。
 
 「・・・大丈夫」
 「・・・・え・・・」
 「あたしは死なない———————、死ぬ訳にはいかないから」
 
 刻々と迫る時刻。
 ロクはもう1度深呼吸をすると、右手を構えた。
 途端、失敗するのではないか、誤ってセルナを殺してしまうのではないか。
 そういう不安が、ロクの頭を過ぎる。

 「大丈夫————————」

 だがロクは、1つ冷や汗を掻いただけで、
 戸惑いなど、しなかった。

 「————————————、きっと、また笑えるよね?」

 一瞬、セルナの瞳にはロクの背後に別の人格が見えた。

 笑っている女性。

 とても美しい緑の髪をした——————————、それはもう、女神のような女性が。

 

 「雷砲———————————ッ!!!!」



 細い光がセルナの胸を下辺りを突き抜ける。
 瞬間、突き抜けた後の雷が部屋の壁を突き破って外へと出る。
 大きな爆音が鳴り響き、外の明かりも漏れてきた。
 突き抜けた位置は実に正確で、綺麗に小さな穴が開く。
 たった少しの間だけ痛みを感じたが、セルナは安心をしたのか、倒れ伏せた。

 (さっきの人・・・、ロクさん、じゃ・・・・な、か・・・っ)

 思い留めながらも、セルナは目を閉じて倒れてしまった。
 反動が大きかったのか、飛び散った雷の破片がビリッっとロクの体を襲い、見事痺れてしまった。
 あんな至近距離で雷砲を放つのだ、無理もない。
 少し焼けた体を支え、ロクは援助を待つ。

 (やば・・・、無茶苦茶痛いし・・・、疲れたし・・・、もう・・・・————)

 そして、ロクがばたりと意識を失い倒れたのと同時、
 髪の毛を2つに結わえた少女が、この3人に救いの手を差し伸べる。



 
 
 真っ白な部屋に響く時計の音。
 その針は、実に4時の方向を指し示していた。
 うっすらとぼやける視界を広げ、きょろきょろと辺りを見回す。
 軟らかなベッドの上…どうやら助かったらしい。

 「はぁ・・・」

 ロクは1つ、大きなため息を零すと、またベッドに倒れこんだ。
 横で寝ているのは自分の兄だという事が分かったが、セルナがいない。
 別の部屋にいるのか否か…そんな事を思っていた。

 「あ・・・・っ!!」

 部屋の扉が開いた途端、少女の凛とした声が部屋に広がった。 
 片手に書類を抱えた少女、キールア・シーホリーは駆け足でロクのベッドへと向かってきた。

 「ロク・・・、もう起きて大丈夫?」
 「あ・・・、うん。・・・それより、レトは?」
 「あぁ・・・審査の結果、かなり胴体に損傷が見られるの。刃物か何かで・・・突き刺されたんでしょ?」
 「うん、近くにいたのに・・・ごめん」
 「大丈夫だよ、レトってほら、結構タフだからさっ!!・・・それに、2人が助かってホント良かった」
 「あと、もう1人・・・」
 「え?」
 「あともう1人、いなかった?眼鏡かけたオレンジ色の髪の・・・女の子」
 「あぁ・・・いたけど、治療が終わったらすぐにどっかに帰っちゃったよ?」
 「そ、っか・・・」
 「あと、『本当に有難う御座います』って・・・何かしたの?」

 ううん、特に、とロクは目を逸らして笑顔で言った。
 そっか…無事なんだ、と小さく安堵して。
 キールアは少し不思議がると、レトの方の様子を見て、さっさと何処かへ消えてしまった。
 部屋にぽつりと、残されたロク。
 だが、悪い気はしない。
 損傷もしたし、僅かな元力も削ってしまった。
 もうこれ以上使えないな…とため息交じりにそう漏らし、また窓越しの空を見つめる。

 「また何処かで・・・会えるといいな」

 そう、ロクは願いを空に託した。
 まさかその願いが、

 数日後、叶えられるとも知らず。