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Re: 最強次元師!! ( No.775 )
日時: 2013/02/09 13:17
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: y7oLAcgH)
参照: http://www.kaki-kaki.com/bbs_m/index.html

第182次元 神である資格

 「んぁ……?」

 少年は大きく口を開けて薬品だらけのこの部屋の空気を吸い込んだ。
 口を閉じるのと同時、自分の負った傷跡を生々しく睨む。
 そうか、と一言呟いて。
 
 「レト……?」

 ドアの端からちょこんと覗いていたその少女へと目を向けた。
 少年、いやレトヴェールは軽い布団を退かし、手で招く仕草をとる。
 
 「何こそこそしてんだよ、お前」
 「別に……こそこそなんかしてないけど」
 「……ふーん……」
 「でも……、ごめんね」

 ベッドの横にあった、ベッドの高さに合わせた椅子に腰を下ろしたロクは、そう言った。
 顔が曇っていて良く見えない。どうやら震えているようにも見えた。
 ロクはレトの傷を見て……酷く心を打ち込んでしまったようだ。
 
 「あたしのせいで……、こんな事になっちゃって……」
 「……」
 「傷つけるつもりなんてなかったの……、ただ、ずっとレトに甘え、て……—————」 
 「それ以上言うなよ」
 「……っ!」

 震えて声も掠れていたロクは、途端にレトの声を聞いて顔を上げた。
 その顔はまだ、ロクが責任を感じていると物語っている。

 「傷つけるとか、甘えるとか……そんなんどうでもいいだろ」
 「でも……!」
 「俺は言ったよ、『お前らしく生きればいい』って。……そんなに、俺の事信じられないか?」
 「……」
 「俺がお前を責める理由なんてないだろ。大体兄貴ってのは下の奴を守る為にだな——————」

 その言葉を発する直前、ロクの瞳に確かな滴を感じた。
 流れ出す事のない小さな小さな滴。
 掴む事さえ許さない—————、哀しみの証。

 「ちょ、ロ……っ」
 「あたし……心の神、なんかじゃない……」
 「……」
 「自分の心さえ動かせない情けない神様なんて……、人の心に触れる資格ない……!!」
 「そ……そんな事言っ—————」

 遂に止まらなくなってしまった涙を、ロクは必死に拭った。
 何度何度目を擦っても、想いは止まらない。
 それを横で見ていたレトは、ロクの頭に手をぽんと置いた。
 その優しげな仕草に、ロクの涙は一瞬止まった。

 「……んな事、言うな」
 「……」
 「ガネストとかラミアとか……、皆俺が呼んだんじゃない。自分達で助けに来たんだよ」
 「……だ、誰を……?」
 「お前に決まってんだろ。剣闘族に殺されかけたお前を、な」
 「……」
 「そんな皆の気持ちを、お前は踏み躙るつもりか?折角お前を仲間として認めたあいつらを、裏切るつもりか?」
 「ち、違……!!」
 「違うだろ? 信じてるだろ? ——————誰より人を愛してきたお前なら分かる筈だ、違うか?」

 レトの言葉がじわりとロクの心に溶け込んだ。
 その大きな瞳から溢れ出した涙は……止まらない。
 幾つもの思いを募らせてきたロクは————、義兄の言葉で視界を潤ませた。

 「皆好きなんだよ、心優しいお前の事が。紛れもなくお前は心の神だよ、誰の心も溶かし、救ってきた」
 「あたし……でも……っ」
 「キールアも言ってただろ? 1人で背負うなって、皆で分けようって……皆同じ気持ちだよ、きっと」
 「……」
 「こんな事で挫けんな。俺達を待つ運命って奴は——————思ってるより手厳しい」

 ロクは小さく頷いた。
 それでも承諾したと伝えるように、強く強く頷いた。
 此処で負けちゃダメなんだと、前に進まなくてはならないんだ、と。
 心の中で何度も何度も唱えた。

 「……おっと、そろそろパーティに行かねーとまずいぞ、ロク」
 「うん」
 「ある飯全部食って良いってよ」
 「ホント!? んじゃ全部あたしが……!!」
 「いや、そりゃ流石にやばい」
 「……はは、そうだね! 楽しみだなぁ……」

 少し上の空で顔を浮かべながらも、ロクはそう答えた。
 別に何を見ている訳でもなく、ただ目の前の何かを見たくて。
 
 「……ねぇ……あたし、本当に行っていいのかなぁ?」
 「何言ってんだよ……第一……」
 「……?」
 
 レトは一度頭をくしゃりと掻きまわすと、簡潔にこう言った。

 「———————、ボケがいねぇと突っ込みは働けねぇんだよ」


 冷たい廊下の突き当たり。
 大きな扉を開けると、そこはまるで不思議の国…かもしれない。
 多くの人で賑わい、ワインを片手に話している人や思い切り食事にがっついてる人も見られる。
 ステージで大々的に演説をしているのはどうやら班長らしい。

 「すっごい賑わい……」
 「半年以内に4人の次元師が入ったんだもの。そりゃ賑わうわ」
 「フィラ副班っ」
 「まぁ……凄い事よ、それって」

 フィラ副班も片手にワインを携えていて、キールアと気ままに話していた。
 ロクとラミアは相変わらず火花を散らして大食い対決。 
 レトはエンと2人で静かにその様子を観戦し、他の皆もそれなりに楽しんでいる。
 
 「ねぇフィラ副班? あっちで一緒にワインでも飲まない? 景気づけにぱぁーっとさ」
 「え……い、いえ私は遠……」 
 「んな事言わないでさぁ……もう用意してあるんだ、君の分は」
 「は、はぁ……」
 「メッセル副班もすげぇっすねー……」
 「あらあらヴぇイン、情けないですね。口がぽっかり開いてましてよ?」
 「え……、あ、いや、き、気のせいだろ、ハハハ」
 「あらあら、目に見えてる嘘は逆効果でしてよ? ヴェイン」
 「……やっぱり?」
 
 メッセル副班に手を引っ張られ、フィラ副班は気の進まない顔で違う場所へと行き、
 ぽっかり開いた口を指摘され、マリエッタから風の如く追いかけられ、会場を走り回るヴェイン副班。 
 傍から見れば愉快に見えるこの会場も、裏では顔の引き攣る人々が現れている。
 
 「ルイル、お菓子大好きー!!」
 「ちょ、ルイル……すぐにいなくならないで下さいよ?」
 「ねぇレトっ! あたしと一緒に回ろうよ、あっちにいっぱい珍しいものあるよー?」
 「あ、あぁ……いいけど。……あれ?」
 「ん?」
 「その赤い眼鏡、前まで頭にやってたっけ?」

 レトはミルの頭に乗せられていた赤い眼鏡を指差した。 
 ミルは、あぁ、と言って一度眼鏡を下ろした。

 「これ、あたしの親友のなんだ。……この間の研究所のやつだよ。一緒に過ごした友達の物」
 「……そっか」
 「うん……大分前からつけるようにしたの。忘れないようにねっ」
 「そうか、元気で良かったよ」

 ミルは少し頬を赤く染めて答えると、嬉しそうにまた眼鏡を乗せ直した。
 活気溢れるこの会場内で、沢山の人が笑顔になっていく。
 つい前まであれ程暗い空気が立ち込めていたこの蛇梅隊が。
 新しい仲間を加え、ロクへの信頼を抱き、
 今正に、本来の姿を取り戻した景色が———————、この場所にある。