コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 最強次元師!! ( No.776 )
日時: 2013/02/09 14:28
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: y7oLAcgH)

第183次元 昔のままの幼馴染

 「ねぇ……キールアちゃん?」
 「ひぇっ!? ……あぁ、み、ミラル副班……?」

 お酒を片手に若干酔ったミラル副班が頬を染め、キールアの肩を叩いて話しかけた。
 驚いたキールアもきょとんとし、目を大きく開いていた。
 ひっく、と一度声を裏返させると、ミラル副班は火照った体をキールアにすりつけ、小声で呟く。

 「……んで、どこまでいってるの?」
 「……え?」
 「惚けないでよ〜レト君よ、レト君」
 「レト? 何の事ですか?」 
 「んもー……もしかしてもう付き合ってるとか?」 
 「いや、ないですって……てか飲みすぎてますよ、ミラル副班っ」
 
 半分怒った表情で、キールアはミラル副班の言動に動揺した。
 少しだけ頬が赤いのは気のせいか…ミラル副班はそう考えていた。
 ふんっとそっぽを向いたキールアは喉を鳴らし、持っていた飲み物を飲み干した。
 
 「あれ? キールアちゃん、もうないの?」
 「え、あ、はい……そうみたいです」
 「あたしが持ってきてあげるぅ〜、親切でしょ〜?」
 「あ、ありがとう……ございます……」

 気が進まないも、持って来る手間が省けたので良しとするキールア。
 少し短い溜息を吐いて、ちらっとレトの方へ顔を向ける。
 エンと2人で何かを楽しげに話しているようだ。 
 2人とも同じ部隊なのですぐにうち溶けたらしい。
 思わずじっと見つめていたキールアの視線に、レトも気がつく。
 キールアは少し驚いたが、すぐに笑って手を振った。
 
 「……キールア・シーホリーと言ったか、あの娘」 
 「へ? あぁ……うん」
 「お前の幼馴染と聞いたんだが、本当にそれだけの関係か?」
 「おい、その質問は何故だか不穏に聞こえるんだが」
 「……ふ……まぁいいか」 
 「……んだよ……ったく」

 ロクとラミアの大食い勝負観戦を楽しみながらも、レトとエンはそのまま話し続けていた。 
 キールアはふっと笑う。レトが楽しそうに話してるのを見るとほっとする。
 そう思っていた時、帰ってきたミラル副班がぬっと飲み物を指し出した。
 
 「はいっ、キールアちゃん」
 「あ……ありがとうございます」

 ミラルから受け取ったコップを手で包んで礼をするキールア。
 彼女は渇いた喉を潤すべくジュースを飲み込んだ。
 喉越しの良い、深い音が鳴る。横で小さく笑ったミラル副班の事など……気にもせず飲み続けるキールア。

 「あ、あれ? これちょ、っと……苦くありませんか?」
 「そう? でもそんなもんよ、パーティの飲み物なんて」
 「へぇー……」

 その時、キールアの喉がひくっと音を出す。
 何か暑いような……そう思ったキールアは着ていた服の胸元をぱたぱたと仰ぐ。
 そしてもう一度、キールアの喉元が踊り出す。

 (あ、あれ……?)

 遂には顔まで火照り出し、その場でふにゃっと潰れ、キールアは近くの椅子に座り込んでしまった。
 不思議がったフィラはメッセル副班の肩に蛇梅を置き、そっとその場を抜け出した。
 ぎゃーッ!!っと騒ぐメッセル副班の気を留める事なく、火照ったキールアの肩に手を置いた。

 「どうしたの? キールアちゃん」
 「……んぁ……ふぃー……」
 「?」

 再度キールアの喉がひくりと音を出したので、フィラ副班はぴんときてしまった。
 酔っている。
 酒を飲んで……正にキールアは酔っていたのだ。

 「……ちょっとミラル?」
 「はい?」
 「未成年に酒を飲ませるとは……いい度胸ね、貴方」
 「な、何の事かしらーっ?」
 「……蛇梅に噛まれるか自首するか、好きな方を選ばせてあげる」
 「……あ、あたしがやりました」

 見事な戦術でミラル副班に自首へと追い込み、フィラ副班はキールアの顔を覗き込んだ。
 明らかに火照り、酔っている。
 喉奥がひくっひくっ、っとまだ鳴り続けていた。
 
 「ったくー……、何でこんな事したのよ」
 「だってキールアちゃん、ガード固いんだもん」
 「誰がベッドまで運ぶの? ……ん?」

 フィラ副班はふいに振り返った。
 目の前に映ったのは、レトが怯えている景色。
 明らかにこちらを向いてびくびくと震え上がっている。

 「……どうしたの?」
 「い、いや……俺……」
 「?」
 「……そ、そのキールア……マジで苦手なんですけど…」 
 「な、何で?」
 「何でって……昔キールアが酒飲んで酔ってレトに————」
 「って、ロク!?、大食い勝負は?」
 「勝ったよ、5杯差だったけど」
 「あぁ……そう」

 向こうに見えるのは大食い勝負で負けて悔しんでいるラミアの姿だった。
 積み上げられた皿の数は数えられない、そんな根性は沸いてこなかった。
 ロクはふふん、っと口元を歪ませながら勝ち誇った笑みを浮かべている。
 
 「まぁ、その時のレトが見たいならキールアの事はレトに任せた方がいいよ?」
 「そう、なの?」
 「ほら、キールア起きちゃった」

 ロクが指差した先にいるのは、酔って火照り込んだキールア。
 キールアはまるで子犬のような仕草で目を擦り、顔を見上げる。

 「あれー……ここどこ?」

 いつもより小さな声。 
 キールアは瞳に小さく涙を浮かべてうにゃりと声を上げる。
 記憶が曖昧なのか、その場でぽーっとして動こうとせず、周りをきょろきょろと見回しているようだ。
 レトは大きく溜息を吐く。

 「あ、れ……れ、と……」
 「……何ですか、キールアさん」
 「ここ……どこぉーっ!!」

 そこで思ってもいない事態発生。
 キールアはびえーんと泣き出した。
 目からはぽろぽろと涙が溢れ、溢れ出る涙を必死に拭って泣き叫んでいた。
 今の強きなキールアの面影が、失われた瞬間だった。 
 
 「え……何これ……この子泣いてるんですけどォッ!?」
 「ちょっとレト君!? これどういう事なの!!?」
 「あーいや……その、キールアって酔うと昔のあいつに戻るっていうか……」 
 「「「「つまり?」」」」
 「うん、泣き虫キールアになる」
 「「「「早く言えよそれをォォォ————ッ!!!!」」」」
 
 会場中が一部除いてパニックに陥った。  
 キールアの泣き声に満たされる会場はもう戦闘部隊の面影を消している。
 皆が慌しく叫び始め、キールアの背中をさする者も出てきた。
 まぁロクはそんな事気にも留めずに己の求めるべき飯へと吸い込まれているのだが。
 レトはこれが嫌だから、キールアにアルコールの入った物は飲食させないようにしていたのに。
  
 「やだぁーっ!! 部屋帰るーっ!!!」
 「レト君……キールアちゃんが泣きやんでくれないんですけど……」 
 「んー……」 
 「こらミラル!! あんたが責任持って運びなさい!!」
 「えーっ!? あたしなのーっ!?」

 どんちゃん騒ぎの中で、レトは一人溜息を零して、キールアの前にしゃがんだ。
 キールアはひっくひっくと泣いている。 
 レトはくるりと振り返る。
 
 「……もう俺連れていきますから。副班達は引き続き楽しんでて下さい」
 「へ? 良いのレト君?」
 「まぁ、幼馴染ですから」

 場数踏んでるんですと言わんばかりの笑顔で、よいしょとキールアを持ち上げる。
 レトは泣いたままのキールアを背中に乗せて、会場の重たい扉を開いた。
 損な役回りだなと、レトはほんの少し笑う。