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Re: 最強次元師!! ( No.777 )
日時: 2013/03/26 21:01
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 2DX70hz7)

第184次元 君と良い夢を 

 「うーん……」
 「もう眠くなったかい? 姫さんよぉ」 
 「んー……うん……」

 泣き疲れた彼女を背負って、レトは歩く。
 酔った勢いで泣き、叫び、そうして今眠りにつこうとする彼女。
 そんな彼女はこくんと眠たそうに頭を打っている。
 少しだけ微笑むレトは、キールアの部屋のドアノブに手をかけた。
 然しそのノブは、回らない。

 「……あれ」

 鍵がかかっている事に気がついたレトは、自分の背中で寝息をたてるキールアを見てさらに溜息。
 これは班長に見つかったら殺されるかもしれない。
 そんな念を抱いて、自分の部屋へ帰る。
 そう、キールアを背負ったまま。

 「ったく……だから止めてほしかったのに……」
 
 レトは自分のベッドにキールアをそのまま寝かせる。
 自分はというと重たい隊服を脱ぎ捨てて伸びをし、そのまま外へ出る。
 中からは、キールアの小さな寝息が聞こえてくる。
 
 「……今夜は寒いな、おい」

 自分の扉の前で、腰を下ろす。  
 他にも休憩室などあるが、キールアがまた泣き出したらいけないので此処で待機。
 というより、ここで夜を明かすつもりだろうか。 
 まぁ幾らなんでも女の子と同じベッドの上では寝れないだろう。
 そう考えたレトの背中に、ドアがとんとあたる。
 
 「……————レト?」

 小さな声と、甘い響き。
 キールアは、ドアノブを掴んだままレトを呼び込んだ。 
 レトは思わずびっくりして目を見開く。

 「お前寝たんじゃ……っ」
 「ごめんね……鍵、お風呂場に残してきちゃって……寒いでしょ……?」
 「あ、いや……まぁ俺寒い方が好きだし丁度良いっつうか……」
 「ばか」 
 「……はい」

 まだ酔いは冷めていないだろう。 
 キールアの瞳はまだとろんとしている。
 彼女は手を招き、立ち上がったレトの手首を掴んだ。 
 そのままゆっくりと微笑んで、レトを部屋の中に入れる。

 「風邪……引いちゃうよ? 別にやましい事するわけじゃないし……一緒に寝ようよ」
 「……お前、それは普通男が女に言う台詞じゃね」
 「ふふ……幼馴染でしょう?」
 「……後で班長に呼び出されても同罪だからな」 
 「……うん」

 レトはふわぁ、と一つ欠伸をしてベッドに潜りこむ。
 彼も相当疲れているのか、瞼がくっつきそうになっている。
 キールアはそんな小さな仕草にさえ笑い、そうして自分も少し離れてベッドに横たわる。
 2人の距離は近くないが、遠くない。
 人が1人入れそうなスペースを空けたまま、2人は眠りにつく。
 幸せそうな夢でも見ているのだろうか。
 キールアは眠りながらも小さく笑う。


 が。
 

 「あれ……ここどこ……」

 ちゅんちゅんと。 
 外からは小鳥の囀りような声さえ聞こえる。
 暖かな日差しが窓を超えてキールアを照らし出し、長閑な風もまた入り込んでくる。
 やわらかいベッドの上で座り込み、部屋を見渡す。
 白を基調とした部屋は、何故か落ち着きがあっていい。  
 違和感は一つもない。
 
 そう、レトが隣にいる事以外は。
 
 「……ちょ、ちょっと……」
 「うー……んぁ……」
 「レト、ヴェール……さん……?」
 「んー……、んだよ、どうしたキールア……ってうわァァァッ!!?」
 
 ずささささ、とレトはベッドの上で後ずさりする。
 何故なら目の前でキールアさんが何故か空鉄砲の銃口を自分に向けているからだ。
 鉄砲と言っても空、そして水鉄砲のようなもので、薬品入れに使う。
 それは人に実験薬をぶちかます時に彼女が使用するものだった。

 「何してんだよお前、ちょッ!?」
 「え? 何? 何であんたとあたしが一緒にベッドの上で寝てた訳?」 
 「あぁそっか……お前覚えてないもんな」
 「だから何で!?」 
 「世の中には知らない方が良い事もあるってな」
 「はーい3秒前ー」 
 「いやだから別にそういうんじゃないから!! 単純にお前の寝床なかっただけだからァッ!!!」

 その後30分に渡ってレトの説明タイムが続いた。
 昨日キールアが酔って泣き虫になってしまった事。
 そのままレトが部屋に連れて行ったが部屋の鍵がなかった事。
 遂にキールアは自分から一緒に寝ようと言い出した事などなど。

 「ていう事ですから」
 「ふーん……」 
 「怒んなよ、全部ミラル副班のせいだからマジで」
 「……別に、怒ってないよ」
  
 へ? と。
 レトは少し抜けた声を出す。
 そして彼女は、だって、と続けて。

 「良い夢を——————見てた気がするから」

 そう、優しく笑って言った。
 レトもそうかいと言って、キールアはレトの部屋を後にする。 
 こうして何気なくお騒がせな2人の時間は終わりを告げた。



 レトはさっさと隊服に着替えて部屋から出る。
 大きな欠伸をしながらも、彼はそそくさと食堂へと向かった。
 大きな扉の奥には広い食堂が目の前に広がる。皆早起きしてわいわい楽しんでいるようだ。
 その中でも始めに入ってくるのは皿が何枚も積み重なった机。
 何枚もという単位ではない。その人物の姿が皿に隠れてしまう程、上へ上へと積み重なっているのだから。

 「……よ、ロク。朝から見事な大喰らいっぷりを見せてくれるな」
 「ふぁい? レトひゃんおはよーっ!」
 「……喋るか食うかどっちかにしろよおい」
 「んで、結局どうしたの? 昨夜」
 「はぁ? 何が?」
 「何かあった? まさか一緒に寝たりしないよねー?」
 「……ノーコメントで」 
 「え」

 正直な事を言うと、本気で皆に殺されそうな気がしたレトはそういう返事をする。
 彼は料理班の人達の所まで言って適当に注文すると、すたすたと席に戻ってきた。
 そこにはコールド副班が口元を緩ませながら待ち構えていた。
 
 「よ、レト! キールアちゃんの泣きっぷりはもう凄かったなぁ!」
 「まぁ、色々な意味で、ですがね」
 「何かあったのかー?」
 「……の、ノーコメントで」

 頭上に疑問符を浮かべるコールドには分からないだろう。
 特に何をしたわけでもないが、言うのは何かと恥ずかしい。
 そうまた溜息を吐く。
 そんなところに、ひょいっとフィラ副班までもが顔を覗かせた。
 
 「あらレト君、昨日はミラルがごめんねーっ! 思いっきり叱っといたからね」
 「フィラ副班……ホントミラル副班には気を付けろって言っといて下さいよ」
 「ふふ、言っとく言っとくー」
 
 透き通るような蒼い髪を揺らし、相変わらず蛇梅を肩に乗せて笑う彼女。
 そして、あっとフィラ副班が素っ頓狂な声を上げる。
 その声にロクも反応し、食事の動きを止めた。

 「これ……ロク出てみる気、ない?」
 「これって……『SING A SONGコンテスト』?」
 「うん、正確には『歌謡大会』ってとこかしら」
 「何それー」
 「毎年この街で行われているのよ。いつもどこかの施設に参加募集が送られて、今年は蛇梅隊が誘われたのっ!!」
 「へぇー……っ」
 「それで、ミラルも出たいって言ってたんだけど……生憎仕事詰めなの、あの子」
 「あ、そっか」
 「それでロクに出てもらおうと思ったんだけど……良いかしら?」

 酷く騒ぎ、広く風の伝う食堂の中、フィラ副班は顔の前で両手を重ねてロクに頼む。
 ロクはその姿に口元を緩ませて微笑み、勿論、と自慢げに笑ってみせた。