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Re: 最強次元師!! ( No.778 )
日時: 2011/03/29 23:03
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: jBQGJiPh)

第185次元  心の歌姫Ⅰ
 
 フィラ副班に連れられて、ロクはコンテストの会場へとやってきた。
 いかにも芸能やら特技を披露するような広い会場で、住民は誰でも観覧出来るよう、屋外になっている。
 広いステージも丹念に掃除され、フローリングも手を込んでいる。
 
 「ふーん…」
 「…ロク、優勝するなら気を付けた方がいいわ」
 「へ?何で?」
 「この大会…5年連続優勝の女の子がいるみたいだから」
 「ご…5年!?」
 
 ロクは口を大きく開けて、思わずぱくぱくする。
 老若男女問わず、幅広く住民を取り扱ってきたこの大会で、5年連続優勝を果たす少女がいる。
 ロクは開いた口を戻し、口元でにっと笑うと、自信満々に微笑んだ。

 「じゃあ…あたし全力尽くしてくるっ!!」
 「あら、威勢良いのね」
 「まぁ、それだけが取り得だし?」
 「大会は今から3日後。それまでに上達しないとねっ」
 「いえっさーっ!!」

 右手で敬礼のようなポーズをとると、ロクは再び微笑んだ。
 レトは隣で2人の会話を聞きながら、ちらっと会場に目を向ける。
 そこに現れたのは…同い年くらいの長い黒髪を持った少女だった。

 (…あれ、か……)

 確認しなくとも、レトには理解が出来た。
 立ち方、マイクの握り方、そして何より、あの視線。
 素人ではない、何年も歌いこんできたという証拠を、明らかにしていた。
 
 「にしても…気合入ってんなぁー」
 「へ?」
 「センターの街にも色があったってこった…」
 「まぁそうでしょ、センターだよここ、センター」
 「だよなぁー…」

 3人は一通り会場内を見渡すと、控え室に向かう。
 部屋の札には名前が刻まれていて、ロクはその部屋の中に入る。
 丁度いい程の空間に、奥にはマイクも置かれている。
 此処で練習しろ…という訳だろうか。
 
 「んじゃ俺、ちょっと歩いてくるわ」
 「分かった、じゃあまたあとで〜」

 フィラ副班は仕事の為本部へ帰還し、レトは周辺をぶらぶらと歩いていた。
 休憩所のような所まで来ると、レトは少女を発見する。
 椅子に腰をかけ、アイスティーを飲んでいた…先程の少女を。

 「…」
 
 何も言わず、ただじっと前を見つめていた。
 その凛としたその眼差しに、一瞬レトは驚いた。
 驚いたというか…、見入ってしまったのだ。
 顔立ちは良いほうだ。その長い足を組んで、黒髪も風に靡く。
 長くて細い指。身長はさほど高くない…など、レトはじっくりと観察する。

 「…何?」

 レトの視線に気がついたのか、少女はくるりと振り返る。 
 冷たいような、凍えるような、そんな瞳がレトの視線を射抜く。
 流石歌い手…綺麗な声を持ち合わせているようだ。

 「別に。5年連続の少女って誰かなーっと」
 「…?、どうしてそれを?」
 「さっきステージの上にいただろ。ちょっと見てたら、ああ、こいつかなって」
 「凄いのね、貴方って」
 「別に凄かねぇよ。ただ思っただけ」
 「…ふーん」

 少女はふっとレトから視線を外すと、手に持っていたアイスティーを口に含む。
 飲み方も上品で、欠けているところも見つからない。
 潔癖で完璧で、それでいて冷静な性格と言ったところだろう。

 「貴方も歌うの?」
 「いいや、俺じゃなくて俺の義妹」
 「…義妹?」
 「あぁ、大食いで女っ気なくて活発な奴だけど、歌は負けないと思う」
 「…へぇ、聴いてみたいわね」
 「お前の相手になんないんじゃねぇーの」
 「それは私が決める事じゃないわ。上手いか下手かなんて、分かんないんだもの」
 「……そうか…」
 「貴方の義妹の名前、教えてくれる?」
 「あぁ、ロクアンズ・エポールってんだ」
 「ロクアンズ…エポール…?」
 「お前も知ってるだろ、神族【FERRY】」
 「…あ…」
 「それだよ」

 レトは少女越しにある木の柱を睨みながら、そう言った。
 少女は何も言わずに椅子から立ち上がり、レトへ顔を向けた。

 「…私には人も神も関係ない」
 「……?」
 「ただ…歌うだけよ」

 ロクが神だと知っていた少女は、それだけ言って何処かへ消えてしまった。
 レトは小さな溜息を吐くと、もう1度少女の消えた方向へ目を向ける。
 何て強い目をしてるんだと…言わんばかりに。

 

 「レトー?何処行ってたのー?」

 ロクの控え室の扉を開け、休憩所から帰ってきたレト。
 口に手を当て大きな欠伸をすると、うにゃりと軟らかな瞼を上下に揺らす。
 昨日からあまり睡眠をとっていないらしい。

 「寝とけば?」
 「いや、お前の歌聴きに来た」
 「あぁ、そう」
 「んだよ、嫌そうな顔だな」
 「別に…嫌じゃないけど」

 ロクは再度ヘッドホンを装着すると、マイクを下ろし、あーっと声を出す。
 レトは近くにあった椅子に腰をかけて、うとうとと聴いていた。

 「…あれ?」
 「…な、何?」
 「も…、もう1回歌ってみて」
  
 レトの要望により、そこの部分の歌詞だけを再度歌うロク。

 「いーつーかー、また夢ひら…」
 「そう、そこ!!」
 「だ、だから…何?」
 「その歌詞…どっかで聴いたんだよなぁ…」
 「…どっかも何も、ずっと前から聴いてたじゃん」
 「?、そうだっけ?」
 「ほら、お義母さんが歌ってくれて…」

 あまり納得のいかないレトを放っておいて、ロクは続きから歌い出す。
 聴いている限りだと結構楽しそう曲で、ロクは絶えず笑顔に歌っていた。
 レトはぼーっと何かを考え、聴いている間は殆ど上の空だった。
 
 「なぁロクー」
 「〜〜♪」
 「おい、ロク」
 「……練習中なんだけど」
 「俺、前にお前に言った事あったよな?」
 「何て?」
 「『千年前、フェアリーは歌姫と呼ばれていた』…って」
 「あぁ…そうだったね」
 「歌姫って事は…フェアリーって歌が上手だったのかなぁ」
 「そうじゃない?妖精ってくらいだからね」
 「んー…」

 レトはまだじっと考えていて、ずっと唸っていた。
 いい加減嫌になったロクは、思い切ってレトに話を切り出した。
 
 「何が引っかかってるのさ」
 「…別に今の話と関係ないんだけどさ」
 「うん」
 「お前、去年の12月25日に、神族としての力が覚醒したよな?」
 「あぁ……うん」
 「その後、お前半年寝てたじゃん」
 「うん」
 「その間さ…歌ってなかったか?夢ん中で」

 あまりに直球で不可能な事を言われたロクは、一瞬に顰めてぐにゃりと潰れるように頭を抑えた。
 そして1度、大きな溜息をつく。

 「…な訳ないじゃん」
 「…だよなー」

 空を眺めている上の空のレトを1度キッっと睨みつけ、ロクは練習に入る。
 レトは無限大に広がる空に向かって、ただ一言呟いた。

 「…歌姫、か」