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- Re: 最強次元師!! ( No.782 )
- 日時: 2011/03/31 16:36
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: jBQGJiPh)
第187次元 心の歌姫Ⅲ
「うっはぁー…っ」
ロクは思わず口を開けて、唖然としてその場で立ち尽くした。
言うまでもない、観客の人数であろう。
会場中いっぱいにいた観客の人数は数えられないというレベルではない。
立って隣の人達と話している人もいる、遠くから見ようと必死に飛び跳ねている人もいる。
ロクはあまりの人の人数に目をぱちぱちと開閉していると、レトはロクの肩に手を置く。
「お前…大丈夫か?」
「イヤ…ダイジョウブジャナイデス」
「…あぁ、そう」
まさかこれ程の人が集まるだなんて、やっと理解をするロク。
大規模な大会とは聞いていたが、これは壮絶だ。
良く見ると、蛇梅隊の隊員達も集まっているようだった。
「皆…」
「お前の歌、聴きに来たんじゃねぇーの?」
「うっひゃー…任務ほったらかしー…」
10人全員居るという事は、戦闘部隊は今、誰1人として任務へ行っていないようだ。
ロクは嬉しさが胸に染みていく事を実感して、優しい顔で微笑んだ。
皆がロクの為に集まった。任務も放って、集まった。
普通なら副班長も許さぬ事態が今此処に…と感動しようと思った、が。
何と、副班長達までもが、ロクの応援に来ていたのだ。
「やる気でるなぁー、頑張って来いよ」
「うん…絶対頑張る!!」
レトはロクの肩をもう1度叩くと、さっさと観客席へ戻って行った。
高鳴る胸。止まらぬわくわく感。ロクは既にもう体が疼いていた。
その顔は、生き生きとした、ロクのそのものの素顔。
楽しみでしょうがないという、やる気満々の顔だ。
「あ、ガネスト!?」
「何か、僕がピアノやるみたいですよ?」
「そうなの…?」
「はい、一応隠れて練習してましたけど」
「…ッ!?、ホント!?」
「え…ま、まぁ…」
ガネストの手を上下にぶんぶんと振り回し、ロクは感激の意を表した。
とても嬉しそうに笑い、飛び跳ねるロクを見てガネストもふっと笑う。
ガネストはもう1度練習すると行ってピアノの置いてある部屋まで行ってしまう。
ロクはその場…出場者用の席に残って主催者の話を聞いたり、他の人の歌を聴いていた。
「すっげぇーなぁ…レベル高いんじゃねぇの?」
「そうだな。何たってセンターだから」
「…何だよレト、やけに冷静だな、おい」
「お前の近くにいると熱くなるから冷静なの」
「…あぁそう。あ、でさ」
「ん?」
「ロクの出番いつな訳?」
「最後。エントリーナンバー12番だ」
「へぇー…」
サボコロとレトは2人でひそひそと、妨害にならない程度に話していた。
出場するのは全員で12名。この街の各施設から参加者が集まるのだ。
主に病院や役場だが…他にも花屋、魚屋、鍛冶屋…等、店を経営している所も参加しているようだ。
それで、今回は蛇梅隊という戦闘施設に参加状が送られてきた、という訳らしい。
審査員は10人。それぞれが1〜10点までを決め、それを合計し、点数を出している。
審査員の席を見ていると…あの老人もどうやら審査員らしい。
誰もが真剣に各出場者を観察し、幾度と悩み、結果を出している。
そして…次々と自分の自慢の喉を振る舞い、歌う人達が現れる。
誰もが個性的で、楽しむにしては丁度良いが、皆が待っているのはその人達ではない。
すると、レトとサボコロの前の席の人がひそひそと小声で呟き、話しているように聞こえた。
「皆凄いなぁー」
「ねぇ…、でもやっぱ足りないわよねぇ」
「そうそう、俺達が待っているのは何たってレイナちゃんなんだからっ!!」
「うんうん、レイナちゃんの歌を聴きたくて来ている人の方が寧ろ多いものね」
誰もがレイナの歌声を聴く為に集まっているのだ。
他の人は可愛そうだが、レイナが出場するまでの楽しみの一つでしかない。
その残酷な運命と呼べる冪この会場で…ロクは歌う事ができるだろうか。
レトは心底そんな思いで前の席の人達の会話を聞いていた。
「では続いてエントリーナンバー9番———————、レイナ・ウェイヴェスです!!!」
その時、その瞬間に————————、人々の歓声が甲高く鳴り響く。
此処に集まってきた殆どの人の声が高くなり、誰もが会場に集中していた。
待っていたのだ、この少女の出番を。
この街中の人々を魅了して来たその歌声を持つ少女が今…舞台に上がってきた。
「う、そだろ…」
噂には聞いていたが、実はレイナ・ウェイヴェスはレトやサボコロと同い年らしい。
だが、そんな筈がない。
舞台に上がってきたレイナと思われるその少女は、14歳という壁を越えていた。
整った顔立ちが更に引き締まり、メイクをしたせいか、まるで20歳前後の女性のよう。
細くて長い腕や足も見るも眩しい程輝いていて、それはそれは言葉に出来ない美しさだった。
レトはレイナの変わりぶりに思わず感嘆の声を漏らす。
紫色で透き通るようなドレスを纏い、レイナは真っ黒な瞳を皆へと向ける。
これこそ、本物の“美人”という奴だろう。
レイナが歌っている間、人々の胸の高鳴りは消える事はなかった。
美しい声を持ち合わせ、その姿はまるで触れる事さえ許されない遠い星のよう。
この街の人々が聴き惚れる訳だ。とても麗しい声で、レイナは見事歌ってみせたのだから。
堂々の100点でも可笑しくはない…筈だった。
だがレイナは、この大会で100点を取った事がない。
取れる訳がなかったのだ。
「点数は————————————、96点です!!!」
再度鳴り響く、人々の甲高い黄色い声援。いや、歓声だ。
審査員の札も殆どが10を示していたが…たった1人。
殆ど、というのは、レイナと話していた老人だけが6点という数字を叩き出したからだ。
老人はさも当然のようにその札を出していたが、その点数に向かってレイナは1度睨み付けた。
何がいけなかったんだ、また今年も96点だ。
と、レイナの心には、幾つもの疑問まで過ぎった。
後にも先にも、レイナを抜く点数の出場者は現れなかった。
この大会もそろそろ終盤に近づく…誰もがこの時、レイナの勝利を確信していた。
絶対彼女が優勝だ、と。これで6年連続、無敗の記録が伸びる、と。
既に勝利の余韻に…浸っていた。
ただ、この時はまだ誰も知らなかった。
まさかこの点数を打ち破る少女が、現れてしまうなんて、とても——————。