コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 最強次元師!! ( No.783 )
- 日時: 2011/04/01 10:06
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: jBQGJiPh)
第188次元 心の歌姫Ⅳ
「これでレイナちゃんの優勝は確実だなっ!!」
「うんうん、最後の人には悪いけど…レイナちゃんを抜ける人なんていないもんっ!!」
五月蝿い程騒ぐ会場内。老若男女問わず、皆が皆、レイナの勝利を確信しつつあった。
だが、まだ残っている。
まだ…あの黄緑の少女が登場していない。
「さて…次はロクだな」
「逃さず聴いとけよサボコロ、あいつ、ホントに歌だけはマジで上手いから」
「へぇー…でも勝てんのか?あんな歌見せつけられちゃぁ、流石のロクも…」
「ロクの性格、お前だって知ってんだろ?最後まで全力尽くして燃え上がる、そういうバカなんだよ、あいつ」
「あぁ…そうだったな」
もう誰もロクの事なんて気にしてはいない。
ロクはさっさと服を着替えると、ガネストと共にステージに向かう。
「ちょ…その服で良いんですか!?」
「うん、だってさ、普段の自分を見せなきゃ意味ないじゃん」
「そ、そういうものですか…?」
「そうだよっ!!歌っていうのは…ありのままの自分を全て曝け出して歌う方が…絶対良いんだもんっ!!」
ガネストは納得のいかないまま、それでも苦笑いで溜息をつく。
ロクの格好は紛れも無く…隊服だ。
いつもの自分、変わらない自分を、全て曝け出してこそ意味がある。
そう、ロクの顔は物語っていた。
「さ、さぁて最後の出場者です!!エントリーナンバー12番————————、ロクアンズ・エポール!!!」
その名前を聞いた瞬間、人々の顔が曇り始めた。
そうなるのも無理は無い。この街でロクの名前を知らぬ者は殆どいないのだから。
ロクは顔を曇らせる事なく、晴れ晴れとした表情でステージに出てくる。
だが、レトのサボコロも…蛇梅隊の隊員達は皆がっくりと肩を落とした。
「「「「「た…隊服ーーーー——————ッ!!!?」」」」」
叫んだのは、蛇梅隊隊員の皆だけ。ただでさえ期待されていないロクが…まさか此処で隊服を選んで来るだなんて。
蛇梅隊隊員達の中で絶望感が自然に湧き上がる。
そんな訳はない、と一部の人はごしごしと必死に腕で目を擦る。
だが何度見てもロクが着ているのは蛇梅隊戦闘部隊の隊服だった。
黒いコート、胸に蛇梅隊のエンブレムのついたその蛇梅隊の象徴を、堂々と見せている。
あーあ…と、レトも再度肩を落とす。キールアも苦笑いでそれを受け止めているようだ。
「何だあいつ…確か蛇梅隊の、ロクアンズ?」
「ええ…あの神族よ神族…」
「あ、あぁ…」
誰もが複雑な気持ちでロクを迎えていた。
本当に信用していいのか、こんな奴に拍手等できるのか。
人々の不安は積もる一方。だが、ロクはそんな事気にもしなかった。
それどころか…ロクは未だ晴れた表情でマイクを握り締める。
一度深く深呼吸をすると、ロクはガネストに合図を送る。
『少し待って欲しい』、と。
そして…。
「こんにちは皆さん、あたしはは紛れもなく神族のフェリーです」
マイクを握り締めたかと思うと、今度は何かを語り出した。
その声に一瞬でしん…となる。観客は皆、ロクへ視線を向ける。
「何で此処に立っているのか、とか、不安はいっぱいあるかもしれない。
でも、あたしは此処にいたいんです。その為にこの大会に参加しました。
これからも冷たい目であたしの事を見てもいい。でも、この歌だけはどうしても聴いてほしい。…お願いします」
迷いの無いその瞳でそう告げたロクは、再度くるりと振り返り、うん、と頷いた。
ガネストは少し戸惑ったか、指を鍵盤の上に乗せる。
自分の思いに狂いはない、この人に自分は救われたんだ。
そう、ガネストは心の中で呟いた。
ロクは呼吸を整えると、すぅっと息を吸い込んで…—————。
『いつかまた花開く 遠い遠い 夢の世界で
どんなに困難でも いつかいつか 叶うから…————』
「…———!?」
「思ったより上手いなぁ…ロク」
(何今の声…!?それにあの笑顔って—————————!!?)
母は言う 夢なんて諦めなさいよと 心にもない言葉で
皆は言う 希望なんて信じるものじゃないと 大げさに笑いながら
夜の道怖くたって 街の明かり 照らしてくれる
どんなに挫けたって 心負けない限り進む
いつかまた花開く 遠い遠い 夢を探して
どんなに困難でも きっときっと 叶うから
兄は言う 花なんて咲いて枯れていく 残酷な運命だと
夜の星 綺麗だなんて届く訳でもない 過ぎた幻覚の夢
心の奥傷ついたって 閉ざすのは あり得ないよ
諦めても諦められない それが本当の貴方でしょう
いつかまた夢開く 遠い遠い 未来の世界で
どんなに険しくても きっときっと 辿り着くよ
汚れた暗い道 出口見えなくても
光のない道はないよ さぁ 手を伸ばして
いつかまた夢開く 明るい未来の 道標指して
強くなくたっていい それが私の目指すものだから
いつかまた花開く 遠い遠い 夢の世界で
どんなに困難でも いつかいつか 叶うから…——————。
「う…そ…—————————ッ!!!」
歌っている間、ずっと笑顔で歌い続けたロク。
他にも歌う技術、息遣い、声の音程の調節…、全てロクはやってみせた。
笑っているだけではないその少女の虜になってしまった観客達は、一斉に今まで以上の声を張り上げる。
正に、“心”そのものを歌に取り込んだ————、最良、最高の演技である。
「何で…どうして……」
レイナは思わず感嘆の声を上げる。
その瞳に涙が浮かんでいるなんて、まさか心の底から感動してしまったなんて…思ってもいなかった。
老人は愉快に笑って、歓声の止まらない会場に目を向けた。
(これが真実だ、レイナ——————————)
審査員自ら盛大な拍手をし、観客の歓声も鳴り止まない。
観客達から盛大なるアンコールまで出てしまったロクは、嬉しくも涙を零さなかった。
ああ、なんて心地良い瞬間なんだろう、と。
ロクはこの時初めて多くの人を目の前にして微笑んだ…————。
「点数は……堂々の100点だァァァァ——————————ッ!!!!」
再度盛り上がる観客席、そして街中。
最早、此処にロクに反発の言葉を述べる人はいない。
寧ろ、ロクに向かって最高の笑顔が浮かべられる。
レトもサボコロも、2人で笑っていた。