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Re: 最強次元師!! ( No.784 )
日時: 2011/04/04 11:57
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: jBQGJiPh)

第189次元 心の歌姫Ⅴ

 「そっか…これが真実だったのですね…お爺様」

 レイナは笑顔に満ち溢れた観客席に向かって、そう呟いた。
 審査員は皆、10点の札を持っている。あの老人もまた、うんうん、と頷いていた。
 アンコールの言葉が飛び交う中、レイナは老人の元へ歩み寄る。

 「これが真実ですね、お爺様」
 「分かったか?レイナ」
 「はい、貴方が私に足りないものとして指摘したのは—————————」

 レイナは1度口を閉じて、ロクの方にちらっと目を向けた。
 喜んで跳ね上がっているロク。その姿に、もう1度口を開く。

 「————————、“感情を込めて歌う事”」

 レイナはそう、言葉を紡ぐと再び老人へと顔を向ける。
 老人は頷いていた。レイナのその答えに、ふむふむ…と。

 (…そう、大事な感情。“感情を込めて歌う事”。
 
  私は、歌にはいつも絶対的な自信があった。

  上手く歌えるようになりたいって…そう願ってずっと練習してきたから。

  でも、私はそのせいで今までずっと気付けなかった。

  何の為に歌っているのかさえ、分からない程に。

  それを教えてくれたのは貴方ね…ロクアンズ。

  笑顔で歌い通したあの逞しい姿は、きっと人々の心に刻まれる。
 
  私の歌は…あの子には適わなかった。

  出会ったあの時から…そう、薄々感じていたのにね…)

 レイナは作る事のなかった笑顔という表情を…初めて表した。
 一体何の為に歌っていたのか…その真実はロクによって知った。
 大切なのは上手に歌いきる事じゃない。完璧な歌を歌うのではない。綺麗な服や姿で歌う事じゃ、ない。
 そう…レイナはロクに教わったのだ。絶対に忘れないと、心に誓って。

 「ど、どうしよう…アンコール…が…?」

 ロクはふいにちらっとレイナの方に振り向いた。
 レイナは驚いて頬を赤く染め、そっぽを向く。
 だが近づいてくる足音に気付いてしまい、レイナは仕方なくまた、ロクに顔を向けた。

 「ねぇ、一緒に歌わない?」
 「…!?」
 「アンコールが出てるけど…1人で歌うのつまんなくてっ」
 「わ、私…歌詞知らないし…」
 「大丈夫!!さっき聴いたでしょ?それに歌詞の紙貸すから!!」

 屈託のない、その笑顔に一瞬レイナは見惚れた。
 初めて自分の認めた少女だ、初めて自分を抜いた少女なんだ。
 レイナは嬉しさを紛らわせて、ステージに戻ってきた。
 ライバルとも呼べるその存在と—————、肩を並べて。

 「それじゃあ皆さんーーッ!!今からレイナと一緒に歌いまぁーっす!!」
 「…勝手なのね、貴方って」
 「いいじゃんいいじゃん!!歌うの好きでしょ?あんなに上手いんだからッ!!」

 素直な気持ちと裏腹に憎まれ口を叩いてしまったレイナは、そんなロクの言葉にまた乗せられてしまった。
 だが、悪い気分じゃない。
 先程まで点数を競い合い、懸命に歌ったこの2人が。
 正に今は、友達と化している。
 
 今まで以上の盛り上がりと歓声に満ちた会場内は、2人の歌声を聴くべく立ち上がった。
 大声を上げて、皆で叫んで楽しんでいる。
 ロクとレイナは独自の技術を絡み合わせて、最高の歌を歌い続けた。
 元気で良く通る声を持つロク。
 高くて透き通る声を持つレイナ。
 今この街で、2人の歌い手が声を合わせ、歌う。

 正にセンターに君臨する—————————、歌姫と呼ぶに相応しい2人が。

 


 
 「ありがとう…ロクアンズ」
 「え?な、何が?」
 「大切な事…教えてくれたから」
 「そう、だっけ?何もしてない気が…」
 「いいの、私は感謝してるから」

 大会の表彰も終わり、片付けに取り掛かっていた時、レイナはロクに話しかけた。
 いまいち状況が把握できなかったロクに対して、レイナは微笑みを浮かべる。
 昨日とは違って表情が穏やかになっていて、あの恐怖感ギンギンの目つきは消えているようだった。

 「来年は、絶対負けないからね」
 「…うん、望むところだいッ!!」

 ロクは自信満々に笑ってみせたが、レイナの気迫も負ける気がしなかった。
 丁度通りかかったレトはそんな2人の会話を聞いて、溜息を零した。

 「お前…来年は歌っている場合じゃねぇだろ…」

 来年…そう、今から1年と1ヶ月後には、あの忌まわしき戦争が始まる。
 正式名称は『第二次神人世界大戦』。
 神族と次元師100名がぶつかり合う…魂と精神をかけた戦争である。

 「あ…お爺様」
 「ふむふむ…来年のお前には期待してるぞ」
 「…はい!!」

 レイナは1度ロクと握手を交わすと、そのまま会場内に残って片付けを始めた。
 ロクはぼんやりと空に溶ける夕日なんかを眺めながら、夕方の道を歩く。
 帰った時には皆でロクを胴上げし、共に喜びを分かち合っていた。
 …ただ1人、膨れっ面でその姿を覗いていた女性を除いて。

 その人物が六番隊の副班長とは…言うまでもない。

 「あぁー…今日もつっかれたーっ」

 ロクは露天風呂に浸かりながら、今日の疲れを癒していた。
 空に浮かんだ金色の月。思い浮かぶのは、レイナの顔だった。
 素晴らしい歌を披露し、そして自分と共に歌ってくれたあの天才少女を。
 ロクはふっと笑みを零すと、風呂から出てパジャマに着替え、首にタオルをかけて歩き出した。
 火照った体は次第に夜風によって冷えていき、自室に戻る頃にはぶるぶると震えていた。

 ロクはそっとドアを開けて部屋に入る———————、だが。


 
 「…え…——————」



 ロクが目にしたのは、月をバックに窓に座っている、少年だった。

 見た事のない少年で、身長はさほど高くない。長い黒髪を低い位置で縛り、こちらを見つめている。
 まるで黒曜石のような、黒ずんだ瞳。だがその瞳から優しさは一切感じられない。
 一瞬時が止まったように、ロクの汗は頬を伝う。
 沈黙の中、始めに口を開いたのは少年の方だった。

 「やぁロクアンズ・エポール…、いや」

 「……」

 「———————フェリーと呼ぼうか?」

 その高くもなければ低くもない声で、自分の名を呼んだ。
 神の名を、少年はロクに向かって言った。
 少年の言葉にびくりと肩を震わせたロクの冷や汗は止まらない。
 普通の少年ではない、そう思ったからだろうか。
 
 「いやぁ、探すのは簡単だったんだけど、迷っちゃってねぇーっ」
 「……」
 「僕は君を探してたんだ、会いたかったよ…フェリー」
 「どうして…?貴方誰…?」
 「ん…これ見れば分かるかな?」

 少年は自分の右手の掌を、ロクに見せ付けるように突き出した。
 ロクの目は、酷く開く。
 その掌に描かれた…あの紋章を見て。
 
 「月と太陽と星…それは1日、1年、一生を表す。つまり神は———この世界の滅びるまで生き続けるという事だ」

 少年は、“神章”の刻まれた右手を引っ込めて、改めて説明をする。
 この少年の掌には神章が刻まれている、それも本物だ。
 もし人間が神に成り済まそうとして神章を描けば、その人物は神の掟に背く事になり、原因不明の死を遂げる。
 だから人間には神章が刻まれる事はない。
 そうすれば結論はただ1つ。

 ————————————この少年が、神族であるという事。