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Re: 最強次元師!! ( No.785 )
日時: 2011/11/02 07:52
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: DxRBq1FF)

第190次元 【GOD】の駆け引き

 「…んで、その神族さんはあたしに何の用?」
 「おお、強気だね、流石フェリーだ」
 「答えて」
 「…始めに言っとくけど——————、僕は【GOD】」 
 「…!!?」
 「その能力は、君も知っているかな?」

 少年…いや、【GOD】はまるでロクの反応を楽しむかのようにそう言った。
 【GOD】と言えば、神の頂点に立つ神。
 5人全員の神に指示を与える、中心の存在である。
 そんな者が何故ロクに会いにきたというのだろうか。

 「能力…?」
 「あぁ、世界、自然、生物、鏡、心…そして僕の能力。知ってる?」
 「知らない…そんなの、興味ない」
 「へぇ、知らないんだ。じゃあ教えてあげるよ」
 「…」
 「——————————僕の能力は“破壊”と“創造”だ」

 少年がそう簡潔に述べると、ロクの表情は一瞬で切り替わる。
 “破壊”と、“創造”。あらゆる物を壊し、あらゆる物を創造する事の出来る、絶対の能力。
 神の中心である【GOD】には相応しい能力だが…何故今それを?

 「それで、僕と駆け引きしよう?フェリー」
 「駆け引き?」
 「まぁ…君の選択肢は1つだろうけどね」
 「…!!」
 「まず1つ言おう。…僕達の仲間になってほしい」
 「な…かま…?」

 思ってもいなかったゴッドの発言に、ロクは表情を変える。
 それほど凄い能力を持ちながら、何故ロクを仲間に誘う必要があったのか。
 だがゴッドは笑ったまま、その表情を崩さぬままにロクにそう言ったのだ。

 「戦力が足りないんだ。こっちは新元魔と神2人…どう考えても戦争に勝機はない」
 「…何でそんな事をあたしに言うの?」
 「…?何でって…———」
 「——————意味のない願いを、わざわざ言いに来たの?」
 
 ロクはふっと馬鹿にしたように鼻で笑い、そう言い放った。
 ゴッドの表情も崩れたが…また笑い出す。
 
 「意味のない…か、君らしいよ、ホント」
 「…」
 「でも、君は仲間になざるを得なくなるよ?」

 ゴッドはあくまで笑っていた。
 何か策があるのか…とロクの表情も再度固くなる。
 自信満々のゴッドは声の音程を高くする事なく、平常心でロクと向き合った。

 「…仲間にならないと、この蛇梅隊を破壊しなくちゃならないからさ」
 「————ッ!!?」
 「言っただろう?僕の能力は“破壊”と“創造”だ、と。簡単なんだよ、そんな事くらいは」
 「そんな…それだけはやめて!!!」 
 「…もし嫌なら神側につく事を選べ」 
 「…!?」
 「君のいる冪場所はそこじゃない。…本来君は神族として活動するべきなのだから」
 「……」
 「…12月25日の早朝に僕はもう1度此処に来る————その時に答えを聞こうか?ロクアンズ・エポール」
 「…!?…あ…!!」

 小さなロクの声を掻き消して、ゴッドは颯爽と消える。
 突然現れて、突然姿を消した神族。
 人間が最も恐れる冪その相手は勝ち誇った笑みを浮かべていた。 
 風の如く、砂の如く、霧の如く、闇の如く。
 神の中心に立つ神は、消えた。

 「あた、しが…仲間…?」

 その夜、ロクは顔を曇らせたまま、布団を被って眠ろうとしたが、
 そんな事…出来る筈もなかった。
 ただ夜空の雲に隠れて浮かぶ、あの金色の月だけが、
 窓の外からじっとロクを見つめていただけだった。


 
 
 あれから3週間という時が経つ。
 今から丁度1週間後は、ロクの誕生日であり、ゴッドが迎えに来る日でもある。 
 憂鬱な暗い景色が続く、目の前にあるのは決して明るい光ではない。
 分かっていたとしても、理解が出来なかった。
 何となく調子の出ないロクの溜息の頻度は、日に日に増すばかりだった。

 「おいロクー、朝飯行くぞー」

 扉の向こうで声がする。良く聴き慣れた声だ。 
 義兄の声に反応して窓から視線を外したロクは、真っ直ぐに扉へ向かう。

 「おはよ、ロク。…って、どうした?」
 「え?あぁー…いや、何でもないよ」
 「?、そうか?」

 レトヴェールには一目で分かってしまう。
 だがロクはそれも苦笑いで誤魔化した。
 
 「先行ってて?あたしまだお腹空いてないし」
 「うぇ…マジ?」
 「うん」 
 「…今日は嵐だな」

 何て冗談をかますレトは、片手を上げてひらひらさせ、先に食堂へ行ってしまった。
 そんなレトを見えなくなるまで見送り、いなくなった途端、ロクの顔は曇り始める。
 扉をゆっくりと閉め、暗い部屋の中に入るロク。
 またも襲いかかる、あのゴッドの言葉。
 ロクは再度溜息をつくと、机の上にあったペンダントに目を向けた。
 千年前、日記の鍵としてフェアリーが使用していたペンダント。

 ロクはそのペンダントを手に取った。
 が、少しの違和感を感じる。

 (あれ…?)

 ペンダントを横にして見ると、なにやら切り込みが入っている。
 ハートの形になっているその膨らみの部分に何か入っているのだろうか。
 ロクは気になって切り込みにそって開けようと思ったが、びくともしない。
 まさか何かの力で固くされているのかもしれない。
 
 「…———元力、か」

 一目見ただけでそう判断したロクは、師匠の修行を思い出し、元力を注いで力を込める。
 すると…その元力は解け、ぱかり、とペンダントが開く。
 中に入っていたのは、とても小さな紙だった。

 「何これ…」

 ロクは高鳴る鼓動を抑えて、その古くて小さな紙を開いた。
 この文字は、何処が見た事がある。
 ロクは懸命に記憶を辿って、あ、と声を上げた。

 嘗てルイシェルへ囚人ルポスを倒しに行った時に見つけた、あの看板の文字。




 「…——————————、え?」



 
 途端、ロクの表情は一変する。
 文字を読み進めて行くに連れて、冷や汗も止まらなかった。
 信じられないその文章に、現実に戻る事が出来たのは数分後。
 ロクはごくりと喉元を鳴らして、緊張感に浸る。

 「今日…何日だっけ…」
 
 部屋にあるカレンダーに視線を移して、今日の日にちを辿る。
 今日は、12月18日だった。 
 再度唾を飲み込むと、急いでロクは部屋を飛び出した。
 小さな紙を握り閉めて、向かう冪目的地へと走って行った。

 暗い雲の下で、ロクはただ1人走る。
 会いに行かなくてはならない、あの人に。
 そんな想いを胸に、足を止まらせる事なく、ロクは走り続けた。