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Re: 最強次元師!! ( No.788 )
日時: 2011/04/04 12:06
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: jBQGJiPh)

第191次元 緑髪の女性

 「やっと着いた…」

 ロクは隣に佇む木に左手をつき、息を荒くしながらそう呟いた。
 目の前に広がるのは、自然に囲まれ、豊かな雰囲気漂うロクの故郷。
 そう、レトとロクが出会った場所である、『レイチェル』の町。
 丘の上から歩いて町の方へと向かうロク。
 目指す先は…自分の家だった。

 「…」

 もう1度、呼吸を整え、ロクはドアに手をかける。
 するとドアは普通に開く。鍵がかかっていないようだ。
 確認出来ると、ロクはギィ…と少しずつドアを開いていった。
 完全に開ききった時、目の前にいたのは、1人の女性だった。

 「…やっぱり来てくれたのね…ロクちゃん?」

 丹念に手入れの込んでいる滑らかで美しい緑色の髪。
 その髪は長く、女性の腰くらいにまで伸びている。
 服装は現代では見られないような…だが凄く温もりを感じさせる薄い黄緑のワンピース。
 瞳の色は深緑。全ての汚れを弾いてしまいそうな澄み切った瞳。
 身長は勿論高い。だが女性とだけあってとてもすらっとした体系のようだ。
 
 「ロクちゃんって事は…やっぱりあたしを知ってるの?」
 「勿論よ、だって私の—————————————」

 女性は1度目を閉じると、再度ロクの方へと汚れなき瞳を向ける。

 「—————————————、子孫だものね?」

 女性の一言で、ロクの表情は少しだけ崩れた。
 女性はロクの目の前で堂々と紅茶を飲み、ロクに座るよう薦めた。
 ロクはぎこちない気持ちのまま、それでも椅子に腰をかける。

 「やっぱり…」
 「ふふ、分かっちゃった?」
 「だって貴方———————、【フェアリー・ロック】さんですよね?」
 「ええ、そうよ?」

 フェアリー・ロック。
 その名は千年前、【FERRY】として、心の神として人の為に尽くしてきた女性の名である。
 その麗しい声は誰の心をも魅了し、嘗て歌姫と謳われていた女性…それこそがこの、フェアリー・ロックだ。

 「でも…貴方は死んだはずじゃなかったんですか?」
 「そうね、私は死んだわね」
 「じゃあ…!!」
 「でも、何故かマザーに呼ばれた」
 「…マザー?」
 「【Mother of god】…その名を知らないかしら?」

 フェアリーは問いかける口調でロクに尋ねる。
 ロクは1度考えてから、あ、と声を上げた。
 随分前そんな話があったような…そんな気がしたからだろう。

 「マザーは神の創始者。私達の母親ってところかしら」
 「それは多分知ってます、でも何故マザーに…?」
 「さぁ?私だって現世には留まれないけ、ど」
 「…?」
 「だから貴方に聞きたい事があって此処に来たの。千年前に貴方へ書いた手紙を読んでもらっていると踏んで」
 「千年前…」
 
 ロクはもう1度紙を開く。
 そこに書かれた文字とは…。


 『from ferry 0031.12.18

  私は【FEARY ROCK】、現時点での【FERRY】です
  今から千年経ったその日に、貴方に会いに行きます
  貴方に伝えなければいけない事があるのです
  千年後、貴方の家で待ってます

                dear Rokanzz epoarl』 


 ロクは紙を畳むとふいっと顔を上げる。
 フェアリーはロクに対して微笑み、くすっと笑った。

 「まさか本当に気付いてくれるなんて…凄いわ、貴方」
 「ギリギリでしたけど…」
 「ふふ、やっぱり?」
 「…それで、あたしに伝えたい事って?」

 惚気た会話をすっぱりと切り落とすように、ロクはフェアリーに言い放つ。
 態々ロクを千年も前から呼び、自分から出向くような事をするという事は、ロクに大事な用があるという事。
 ロクはそれを教えてもらう為に此処に来たのだから、それを問うのは当たり前の事実。
 フェアリーは緩んだ表情を一変させ、ロクの事を見透かすように見つめた。
 そして、フェアリーは口を開く。
 
 「……ロクちゃん、貴方は迷ってないかしら?」
 「…———!!?」
 「ゴッドに仲間になるよう脅迫をかけられ、仲間を裏切る位置にいる貴方は…迷ってないかしら」
 「どうして、それを…」 
 「全部聞いてたわ、近くにいたんだもの」
 「え…」
 「でもね、ロクちゃん、迷っちゃダメよ」
 「……」
 「私は1度迷ってしまって…誤りも真実も掴めなかった。…だから、迷ってはいけないの」

 フェアリーは窓の外に浮か薄暗い雲を睨み付けて、そう言う。
 ロクには、フェアリーの手が少しだけ震えているのが分かった。
 辛かった事を思い返して、今にも泣きそうな表情を浮かべるフェアリーは、凄く頼もしく見えた。

 「貴方には同じ過ちは繰り返してほしくない。だから、迷わないで」
 「で、でも…」 
 「自分の信じる方を選びなさい。自分が正しいと思う方を選びなさい」
 「…フェアリー、さん……」
 「答えは自分の中にしかないの。自分がどうしたいか、そういう気持ちに嘘なんか1つもないでしょう?」
 「…」
 「…貴方はとても強い。私より、遥かに強い心を持っているから」
 「強い…、心…」
 「迷うのは、自分の心に嘘があるからよ。素直になって、もっともっと、強い心を手に入れるの」
 「もっともっと…強い心を…」
 
 フェアリーは自分の掌を見つめるロクを見て、ロクの頭にぽん、と手を乗せた。
 そしてゆっくりと撫でていると、ロクも顔を上げる。
 顔を上げたロクに、フェアリーは綺麗な微笑みを浮かべた。

 「これは私からのお願い…、絶対に、諦めないで」
 「…?」
 「何があっても、どんなに苦しい現実が待ち受けていたとしても、例えどん底の中に幸せがあっても…それでも、絶対」
 「…諦めないで、ですね」
 「そう、流石心の神族ねっ!!」
 「…あたしも、1つ聞きたい事があります」
 「何?」
 「セルガドウラを…覚えていますか?」 
 「…!!」
 「今でも待っているのです、あの場所で、貴方を」
 「そう…、セルガドウラが…私を……」
 「会いに行ってあげて下さい」
 「…いいえ、それは貴方がすべき事よ」 
 「え?」
 「今の心の神は貴方…、そしてセルガドウラの話を知っているのなら…尚更ね」
 「…?」
 「じゃあね、もう会う事はないけれど、絶対に繋がっていると信じてる」
 「あ…!!」

 フェアリーは、この部屋から颯爽と出て行った。
 暗くて厚い、あの雲の下へと戻っていったのだ。
 自分の部屋に取り残されて、ロクはまた闇の中であの声を聞く。


 でも。


 「…迷っちゃ、いけない」

 ロクはもう1度その言葉を口に出して、自分の気持ちを確かめた。
 小さく呟いたその言葉は、強く、大きく心に響き渡った。

 
 
 
 
 「何してたんだい?フェアリー」
 「…別に、貴方には関係ないでしょう?」
 「フェリーに会って、何をした」

 憂鬱な空の下。
 妖精と神はすれ違う。
 妖精はキッっと神を睨んで、こう告げる。

 「私は————————、ロクアンズ・エポールに会いに行ったのよ」 
 「……あぁ、そうかい」
 「甘く見ない事ね、ゴッド」
 「…何だと?」
 「あの子は強いわよ、貴方にあの子の心を“破壊”できるかしら?」
 「…やってみせるさ、絶対に」

 神はふっと笑うと、そのまま風の如く、姿を消した。
 妖精も瞳を閉じて、姿を消す。


 ———————————、この2人の会話は、後に始まりの鐘の音を示す事になる。