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Re: 最強次元師!! ( No.792 )
日時: 2011/04/05 16:26
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: jBQGJiPh)

第193次元 恐怖心
 
 更に激しく降り続ける雨。
 天から堕ちて、自分の横を過ぎって落ちる。 
 そして土の表面で1度弾けたと思うと、土の中へじわりと染み込んでいく。
 そんな一瞬の時を、まるでスローモーションのような感覚で感じ取っていく少年。
 レトは、ただ雨の中で1人、ぽつりと立ち尽くしていた。

 「レト…」

 皆はぞろぞろと門へと向かい、雨宿りをする事なく中へ入っていく。
 レトがいない事に気がついたキールアはふっと振り返った。
 だが、キールアの目の前に映るのは絶望感に溢れる少年の寂しげな後姿だった。

 「……」

 レトは唇を軽く噛み締めると、ふと何かが落ちている事に気付く。
 泥の中に塗れた、ロクのペンダント。
 汚くても、例えこれが価値のないものだとしても。
 それでも、レトはそのペンダントを拾って握り締めた。
 優しく、優しく、大事な物を扱うように。

 「俺、さ…」

 やっと口から出た、小さな言葉。
 キールアはレトに歩み寄って肩を触ろうとするが、怖くてそんな事ができなかった。
 キールアがぎゅっと自分の手を握り締めると、レトは言葉を紡いだ。

 「ロクの事、絶対裏切らないから」

 弱い口調で、強い言葉を放つレト。
 レトはそれ以上何も言わずに、キールアの横を過ぎて門へと向かった。
 己の無力さを改めて痛感したキールアもまた、レトの後を追うように門へ向かう。
 
 雨は未だ降り続く。

 誰かの哀しみを、まるで表すかのように。

 

 
 
 沈黙が広がる任務室。何故か皆は此処にいた。
 誰も口を開けようとしない。誰も何も言う事が出来ない。
 皆で一生懸命恩を返そうと思った会場も、今では何の意味もない広い部屋。
 小さな物音さえ聞こえないというのに、体が震えるような、そんな気がした。
 
 「…納得いかねぇ」

 ここで口を開いたのは、サボコロだった。
 あそこまで必死になって食い止めたのに、報われる事がなく終わってしまった。
 ロクの眩しい程残酷な眼光に、何も言えなかった。
 サボコロはガンッ!!っと勢いよくテーブルに拳を落とすと、震えながらそう言った。
 
 「お前らも見ただろ?あの神族の顔を」
 「そう、ですけど…」
 「何で…何でロクを連れて行く必要があったんだよ!!何もしてねぇだろ!!!」
 「…それは違うぜサボコロ」
 「…!?…ら、ラミア…」
 「確かにそうだけど、ロクはきっと自分で望んだんだと思う」
 「でも…!!」
 「そうね」
 「…てぃ、ティリまで…」
 「もしかしたらロクアンズは、私達を助けたんじゃないかしら」
 「助、けた…?」
 「そっかっ!!、もしも、もしもあたし達が人質になっていたら…」
 「助けるのも…考えられますね」
 「僕も、きっとそうだと思い、ま、ます…」
 
 次々と意見を述べて、やっと口数が増えてきたメンバー達。
 副班長達は相変わらず何も述べずに、ただじっとそんな子供達を見つめていた。
 
 「じゃ、じゃあ…」
 「そうです、僕達を助けようと思って、裏切ったような真似を…」
 「なるほど、その線が一番妥当だ」
 「じゃあ俺に雷砲を撃ったのは…っ」
 「多分、貴様の事を裏切ったと、見せかける為のロクなりの嘘」
 「ち、くしょ…っ、あいつ、んな真似しやがって…っ!!」
 「…それより、どうしたレト」
 「…!?」
 「お前、さっきから何も話してないぞ」

 エンの鋭い一言に一瞬動揺するレト。
 先程からずっと、ただペンダントを握り締めていたレトは小さく口を開いた。

 「…別に」
 「別にってお前…」  
 「あぁ?おいレト、てめぇさっきからしけた面しやがって…てめぇは悔しくねぇのかよ—————ッ!!」
 「ちょ…サボコロ!?」

 サボコロはレトの胸倉を掴んで、レトに向かって怒鳴りつける。
 それを止めようと声を荒げたミルが止めに入ろうとするが、レトはサボコロの腕を力強く掴んだ。
 
 「…しいに決まってんだろ」
 「…?」
 「悔しいに——————————決まってんだろ!!!」
 「ッ———!?」
 「俺だって悔しいよ!!目の前でロクがあんな事言って、あいつのとこ行っちまったなんて…今でも信じらんねぇよ!!」
 「れ、レト…」
 「悔しいに……、決まってんだろ…」
 
 レトは気が抜けたように小さな言葉を零した。
 今にも泣きそうな顔を浮かべて、唇と強く噛み締めて、ただくたっと俯いていた。
 サボコロはそっとレトを離す。

 「…わ、悪かったな」
 「…ごめん、俺先戻るわ」
 「れ…!!」
 「…やめとけキールア」
 「っ!!」
 「1番悔しいのは…あいつだからな」
 「…レト……」
 「自分の義妹が自分達を護る為に犠牲になったなんて…義兄にとってはどれだけ悔しい事か」
 「……」
 「それより俺達にはもっと考える冪事があるはずだ」

 エンはレトの姿が見えなくなるまで見送り、姿が見えなくなったと同時に振り返る。
 キールアも同じく振り返り、エンの言葉にガネストが声を上げた。

 「考える冪事、ですか?」
 「今から約3ヵ月後、何があるかは知ってるだろ?」
 「…、あ……!!」
 「『神人世界戦争代表者決定戦』…代表者を決める戦いが始まる事を」
 「だ、代表者決定戦…」
 「その為に、俺達は今よりも強くなる必要がある。…ですよね?副班」
 「あ、あぁ…」
 「始まるんだ…代表者決定戦が……」

 次第に高鳴る鼓動を抑えて、エン達は静かに自室に戻って行った。
 ぞろぞろと自室の階まで上がってくると、皆自室に入っていってしまった。 
 そこでエンは、不意にも立ち止まる。
 横に佇む扉は…レトの部屋。
 何の音も聞こえてこない。レトは眠ってしまったのだろうか。

 「…レト」

 エンは、1度扉へ向かってレトの名を呼んだ。
 だが、やはりレトからの返事は聞こえてこなかった。
 エンはドアノブに手をかける勇気がなくて、そのまま過ぎてしまった。
 レトはベッドで寝転びながら、エンの過ぎる足音を聞いていた。

 「…悪いな」

 見せたく、なかった。
 ロクが自分達の傍から離れた事で、深く傷ついてしまった哀れな自分の素顔など。 
 きっと酷い顔をしている、とレトは更に自分を追い詰め、枕に顔を埋めた。

 「俺は…何でこんなに無力なのかな…」

 ふいに零れた、震えながらにも呟いた小さな言葉。
 レトは、瞳から一粒の滴が流れるのをまるで気付く事なくうつ伏せのまま寝転んでいた。
 再度唇を強く、強く噛み締めて、レトはまたしても震える言葉を吐き出す。

 「俺は弱いよ…なぁ…ロク」


 
 
 俺達は、次元師だ。
 でも、強いのは力だけだよ。

 俺はお前みたいに強い人間にはなれない。
 心が強くて、誰の心をも救えるお前にはなれないんだ。

 実際、自分の義妹さえ救えなかった。
 あんなにも近くにいたのに、いつだって隣にいたのに。



 本当は、怖かった。


 俺を睨んで、俺の手を振り払ったロクが、


 凄く、怖かったんだ。




 震える自分の心は、


 どうしても


 どうしても


 誤魔化せなくて。



 一瞬でも俺は、



 ロクへの恐怖心を抱いてしまったんだ。