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- Re: 最強次元師!! ( No.794 )
- 日時: 2011/04/17 17:50
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: jBQGJiPh)
第195次元 人間を護る神
「—————————、以上を持って【神人世界戦争代表者決定戦】の開会式を終了致しますッ!!!!」
一斉に上がる歓喜の声。100人に満たない代表者を夢見た次元師達が、今闘いの火蓋を切らした。
長期に亘って幾つもの試練を乗り越え、勝利を勝ち取った代表者になる為に。
その為に、今まで全身全霊で戦ってきた。
そんな兵達の集まった会場で、蛇梅隊の隊員達も気を引き締めていた。
「凄かったなぁ、あの盛り上がり」
「無論だ。やはり代表者になりたい奴らは半端ではない」
「その為に此処に来てるもんね、ホント凄いよ」
「あぁ…今から体がうずうずしてしょうがねぇ、どんな奴らがいんのかな」
「…そういえば、Bグループは何処行ったんだ?」
「先に戻ったと思うぞ、さっきも入り口で見かけたしな」
「ふーん、敵同士って訳ね」
「さて、1回戦は何なのやら…」
蛇梅隊のAグループは、受付で話し合っていた。
いつもお馴染みの、レト、サボコロ、エン、キールアの4人だ。
どうやらBグループは先に部屋に戻ってしまったようで…此処には見当たらない。
きっと皆が期待と不安と緊張感に畝を膨らませている筈だ。
居ても立ってもいられない奴もいるだろう。
「…んでレト」
「んだよ、サボコロ」
「お前の腰に付いてるそれ、何だ?」
「あぁ、これか?」
サボコロはレトの腰辺りに付いているポケベルのような物を指差した。
レトは見せるように腰から外し、ぬっとサボコロの前に出す。
全体が水色に着色していて、画面が1つ、ボタンが3つ付いている。
腰に付けられるよう金具も付いているようだ。
「これは何か1、2、3回戦の内容とか緊急連絡に使うんだと」
「んで、それを何でお前が持ってんだよ」
「知らねぇよ、俺が渡されたんだよ。受付の時に」
「んじゃ何か!?お前がリーダーみたいになってんじゃねぇかよ!!!」
「そうなんじゃねぇーの」
「…な…何故……レト…がぁ…っ」
サボコロは一瞬瞳に涙を乗せるとそのまま挫折した。
その泣き声には悔しさが混じっていた。が、そんな事レトにはどうでもいいらしい。
溜息を1つ零すと、何でもなかったかのように顔を上げた。
いよいよ始まる。
泣いても笑っても、これが試練だ。
もう1度会う為、もう1度声を聞く為に。
次に会うのは、戦場だ。
「…おっ、来たぞ」
ピピピ、と音を鳴らした“レスト”は、レト達に知らせを伝える。
レスト、というのは先程説明したポケベルのような物。
あらゆる指示や連絡を出場者達に伝える為に作られた、言わば小型受信機。
「んで、何て書いてあるんだよーう」
「…えーっと……」
「うんうん」
「『フェルウェイの国に行き、“真”の真実を暴け』…?」
「「『フェイウェル』?」」
「ふぇ、フェイ、ウェル…」
「知ってるのか、エン」
「あ、当たり前だ…俺の故郷だからな」
「…え」
「…ま、マジ!?」
「じゃあ“真”の真実って意味も————」
「…残念だがそれは知らん」
エンの鋭い言葉に3人は肩を落とした。
だが有力な手がかりだ。エンの故郷だったとは。
唯、行けば分かるのではないだろうか。
“真実”というものがあるのだから。
「“真”の真実…か」
「面白そうじゃねぇか!!やってやろうぜ!!!」
「お前が1番早死にするタイプだがな」
「なんだと!?てめぇエン、今度こそ俺と決着つけようじゃねぇか!!」
「望むところだバカサボテン。砂漠という名の故郷に帰らせてやる」
「だから、俺がいつサボテンになったんだよ!!このドチビ野郎がッ!!」
「…聞き捨てならんな今の言葉。撤回するなら弓を引かずに許してやるぞ、アホサボテン」
「ア…!?おいチビ、冗談はその身長だけにしとけよ?」
何故喧嘩が始まる。何故この2人はいつも会う度喧嘩する。
性格が真逆で合わないのも分からなくはないが。
仮にも今から戦場へ向かうというのに、2人の荒げた声は止まらなかった。
「…おい、もう始まってんだぞ、決定戦」
レトの小さな声が果たしてこの2人に届くのか。
そんな訳はない、もう最早2人の世界に入り込んでいる。
置いて行くという選択肢は流石に可愛そうなので、歩き出したレト。
それに応じて2人も足を動かして、且つ喧嘩しながらついて行く。
最早仲良しなのではないかと、レトは疑念を抱いた。
会場から出発し、歩くなり車で運んで貰うなり2時間。
風の匂いが花を擽る…豊かな自然に囲まれる国へと着いた。
何処へ向いても山、山、山。
広く晴れ渡る蒼い空。雲1つない快晴な空を見上げて、思わず4人は絶句した。
色とりどりの花が舞う。広く涼しい草原に花が舞う。
咲き乱れた木々達を眺めていると、自然に溶け込んだような、そんな感覚まで生まれてきた。
素晴らしい自然の国だ、空気もとても美味しい。
「すっげーなぁ…」
「ホントだよ、周りは木々だらけだし」
「そうだろ、俺の故郷だからな」
「綺麗ーっ!!レイチェルより綺麗だよ、きっとっ!!」
「…んでエン、これから何処行く?」
「そうだな、宛も無いし」
「んじゃエンの家に行ってみるか!?」
「…は?」
「そうしたら何か分かるかもしれねぇじゃん!!行こうぜ行こうぜ!!」
「ったく…時間が勿体ないぞ」
「え?時間?」
「期間は1ヶ月。1ヶ月以内に“真”の真実とやらの秘密を探らねばならん」
「そ、そうだけどよ…」
「まぁいいじゃねーか、エンの家でのんびりしてから考えても」
「然しレト…!!」
「急いだって、何も掴めねーぞ」
酷く爽やかなレトの表情にエンは溜息を漏らし、先頭に立って歩き始めた。
エンの胸に秘めたのは、期待と不安。
長年帰る事のなかった実家へ、足を1歩1歩、近づけて行く。
あぁ…心地良いな、と。
エンの顔も自然と綻んだ。
「…いるだろうか、あいつは」
何て小さな声で呟いて、大空の下を歩く。
1回戦の期間は1ヶ月。たった1ヶ月で、1回戦を勝ち抜かなければいけない。
唯この時はまだ、『“真”の真実』という意味も知らずに、只管に目的地へと向かって行った。
この先何が待ち受けていおうとも、それでもならなければならないのだから。
レトは歩く最中に、何度も何度もあの笑顔を思い出す。
自分の名を呼んで駆けてくる…あの少女の顔を、何度も、何度も。
「…フェリー、見えるかい?」
「……」
「君の右目は最良だね、きっと未来まで見えるに違いないよ」
「…見えないよ、未来なんか」
「?、随分とはっきりしてるなぁ、運命でもないのに」
「心だから」
「…心?」
「幾ら最良の力があろうとも、未来なんか誰にも見えないよ」
青空の下で、神と妖精は語り合う。
4人の姿を上からじっと眺めながら。
ただただ、4人の逞しげな後姿を…見透かすように。
妖精は、口を開いた。
「あたしは…未来を信じてるから」
神の口調で、神の表情で。
妖精はただ、神にこう誓う。
「信じる…ねぇ。格好良いよ、君」
「…ねぇ【GOD】」
「何だい?」
「あくまでもあたしは、“人間を護る神”だから」
「…そうかい、頼もしいよ」
神は笑ってみせた。
その奥に潜む妖精への憎悪の心を消して。
でも妖精は云う。
己は“人間を護る神だ”と。