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Re: 最強次元師!! ( No.798 )
日時: 2011/08/05 20:05
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: SLKx/CAW)

第197次元 森の奥の二手道

 深い色の木々達がレト達4人を覆うようにして天へと伸びている。
 空気は澄んでいて、向こうを眺めるとほんのりと水色に染まっているようだった。
 天から零れる光を浴びて、長い長い1本道の先がまるで輝いているようにも見える。
 その幻想的な森の中は人の気配すらしなく、唯只管に真っ直ぐ進む事しかできなかった。

 「…おっ!?」

 サボコロは額に手を当てて遠くを眺める。
 瞳に映ったのは…“二手道”だった。

 「ひゃっふゥッ!!見つけたぜーッ!!!」
 「あ…!!ちょ、待てサボコ…!!」

 レトの言葉を遮るように、サボコロは走り出す。
 肩を落として溜息を吐くレトは、無邪気に走るサボコロの後姿を眺めて、脳裏に嫌な違和感を感じた。
 似ていた、“あの少女”の後姿に。
 
 「…れ、レト?」
 「え、あぁー…何でもない」
 「そ、そう?」
 「それより、サボコロもう行っちまったぞ」
 「!?、ほ、ホントだ…」

 向こうに見えるのは、頭を抱えて何かを考えているサボコロの姿だった。
 気になって走り寄った3人が見たのは、2つの看板。
 何も書かれていない看板が、2つの道の境に立っている。

 「…何だよこれーッ!!」
 「これで悩んでたのか…お前」
 「ふむ、何も記述されていないようだな」
 「あぁ。でもそれが逆に怪しいっつうか…」

 考える事5分。その沈黙の中、あ、と声を上げる者もいなかった。
 唯、レトは唸ったまま小さく呟く。
 
 「…“鏡”」

 そう、あの言い伝えに残されていた言葉…“鏡の掟”だ。
 その小さな言葉に反応した3人はふっと振り返り、レトに視線を合わせる。
 
 「鏡って…“鏡の掟”って奴?」
 「あぁ、あれがどうも…」
 「ふーん…」

 (鏡…2つの看板…光……ひか…)
 
 そこで、レトの思考は途切れた。
 自分で止めたのだ、ある事を思い付いた為に。
 レトは自分のポーチを漁って何かに気付くと、キールアに向かって手をぬっと伸ばす。

 「…な、何?」
 「鏡、持ってないか?」 
 「鏡?」
 
 キールアは腰に付いている自分のポーチの中を漁る。
 中から出てきたのは、コンパクトなサイズの鏡だった。
 シンプルで、薄く透き通った水色の鏡。
 それをレトにはい、と渡す。

 「何に使うの?」
 「まぁ見てろって」

 レトは鏡を持ち、それから上を見上げた。
 何だ何だ、とサボコロも真似て上を見上げる。
 じっと睨んだ後、もう1度視線を看板に戻した。
 時折上を見上げて位置を確認する。そして、よし、と声を上げた。
 
 「見てろよ?」

 レトの合図で、前のめりになるように覗き込む3人。
 斜めにし、天からの光を受けられる角度に置いた鏡が、みるみる内に光を集めていく。
 その光を反射し、光の向かう先は目の前にある看板。
 そうして2,3秒待った後、看板の表面からじわじわと絵が浮かび上がってきた。
 左の看板には…“黒い月”絵だった。

 「すっごーい…」 
 「以外に単純だな。然し、これは如何いう原理で…」
 「すっげーッ!!月の絵が出てきたぞ!?」
 「多分…これが“黒い月”だ」
 
 レトは頷いて、右の看板も同じようにして絵を映し出す。
 浮かんできたのは、“白い太陽”の絵だった。
 再びの感動に浸っていた3人はじっと2つの看板を見比べる。
 左には“黒い月”。右には“白い太陽”を。

 「さて…どっちがどっちなのか、だな」
 「あぁ、“白い太陽”と“黒い月”…だもんな」
 「続きは“両方進むは神の道”と“互い祀るは神の水”だったな」
 「んーっ、分かんねぇーなぁーっ!!」
 
 サボコロは数秒考えた後にやけくそになって頭を掻き回した。
 と言ってもバンダナの上からなので殆ど意味はないが。
 3人は二手に綺麗に別れた道の境で唸り声を上げて悩んでいた。
 
 そして結果。

 「…よし、こっち」
 
 何と木の麓で見つけた折れた木の枝を立てたのだ。
 枝の先端からゆっくりと指を外して、枝はぱたっと倒れる。 
 細い枝は、真っ直ぐに左を示した。
 そして何でもないという顔でエンを除いた3人は左へと歩み始める。

 「な…!?そ、そんな決め方で良いと思ってるのか貴様等!!?」
 「そんな決め方って…これしかねぇだろ」
 「…」
 「これが“運命”だと思って、従おうぜ?」

 レトはそう口を歪めてエンに言い放った。
 エンの表情は一瞬だけ険しくなり、ただふいっと顔を背けて足を踏み出した。
 “運命”という言葉を、さらっと言われたからだろう。
 少しだけ3人と距離を取って歩くエン。
 俯いていた顔も次第に上へと向き、いつの間にかレトの隣で歩いていた。
 唯小さく、全く、と呟きながら。

 「もうそろそろだな…」

 漸くこの長い道の先から光が零れてきた。
 眩しいくらい照り続ける太陽の下、レト達は“神の水”と呼ばれる土地へ足を踏み入れる。
 目の前に広がる壮大な広場。
 中心にあるのはは平たく底の浅い泉。
 これが言い伝えにあった…“神の水”だろうか。
 
 「これが“神の水”かぁー…」
 「別に普通の水にしか見えねぇけど?」 
 「でもでも、すっごい澄んでて綺麗だよー?」
 「そりゃそうだけどよーっ」

 サボコロが頭の後ろで腕を組んだ瞬間、
 何か凛とした、小さな声が聞こえた。
 その声はサボコロの大きな声に掻き消されたが、その声を聴き逃す筈もない。
 恐る恐る4人は振り返る。
 頬にひやりと汗が伝った時、
 小さな声の主は姿を現した。
 


 「…—————誰だ、まさか人間如きの分際で神の聖域を荒らしにきた訳ではあるまいな?」

 

 漆黒の両目がぎょろりと蠢き、4人の瞳を見透かした。
 身長は150前後、体重も軽そうな小柄な体系をしている。
 腰まで伸びた髪からすると多分少女であろう。
 唯少女と呼ぶにはあまりに残酷過ぎる瞳を持ち、姿を持っている。
 黒い髪、裾が所々破けている漆黒の服。 
 然し服、とは言えない。強いて言うなら唯黒い布を纏っているだけのようだ。
 そして小さな背中の左側だけに生えた真っ黒で不気味な“翼”。
 
 そう、例えるならば————————————、闇に堕ちた“堕天使”のよう。

 「…な……っ!?」
 「こ、こど、も…?」

 喉の奥から上手く言葉が出てこなかった。 
 何故ならその瞳が子供という感覚を狂わせたからである。
 残酷な瞳、残酷な翼、残酷な心。
 少女は本当に人間なのだろうか。それとも別の種族なのだろうか。
 幾つもの疑問が4人の脳裏を過ぎる中、少女だけが冷めた表情で佇んでいた。