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Re: 最強次元師!! ( No.802 )
日時: 2011/07/10 22:55
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: SLKx/CAW)

第198次元 漆黒の堕天使

 誰もがこの少女の姿を見て、生唾を飲み込んだ。
 不気味に蠢く漆黒の瞳の視線からは、人間という感覚を狂わせられる。
 本当に子供なのだろうか、そもそも人間なのだろうか。
 震える腕を抑えて、レトはすっと息を吸った。

 「おい…、お前此処の主か何かか?」
 「質問に答えよう。そうだ、神の聖域である“神の水”の守護神である」
 「か、神の…水?」
 
 言い伝えの中に記述されていた、“互い祀るは神の水”の、“神の水”だろうか?
 もしそうだとするならば…これで明白になる。
 あの言い伝えが本当にこの決定戦と繋がっている、という事が。

 「それじゃあお前、“真”っていう言葉に聞き覚えないか?」
 「…“真”。即ち“白き太陽”…“純白の聖天使”」
 「…!!?」
 「残念だったな小僧共。私は“嘘”、“黒き月”…そう、“漆黒の堕天使”だ」
 「ど、如何いう…事、なんだぁ?」
 「つまり正反対の道に来てしまった、という事だ」
 「…はぁぁ!!?、ど、どうすんだよーッ!!」

 相容れない2つの存在が在る事を知り、更に別の道を選んで進んできてしまった4人。
 “真”の真実を探る為には“真”の天使に会わなくてはならないにも関わらず…目の前には堕天使の姿。
 結果、後戻り出来ない間違った選択をしてしまったという事だ。

 「ち、くしょ…!!」
 「如何するレト、決めるのはお前だ」
 「んな事言われたって…」
 「…何を迷っているか知らんが、此処に来た以上逃がす訳にはいかない」
 「な…ッ!?」
 「…————————覚悟しろ、生きては帰させんぞッ!!!」

 漆黒の瞳がぎらりと一瞬の光を帯びた直後、少女は風の如く素早く消えてしまった。
 何処から現れるのかも分からぬ緊迫した状況で、4人は辺りを見渡した。
 汗が煮え滾るその瞬間に————————、少女の姿はサボコロの後方に現れた。

 「さ…サボコ——————ッ!!!」

 レトが叫んだのとほぼ同時。
 紅蓮の血飛沫が4人の視界を過ぎった。

 「…さて、次は誰が良い?」

 その華奢な体には似合わない程大きな鎌を背中に背負い込み、残った3人をキッっと睨む。
 鋭く真っ黒な鎌で直接背中に斬り込まれたサボコロは声を出す間もなく地面に倒れこんだ。
 苦しそうに足掻き、遂には気を失ったように動きまで止まってしまった。
 
 「ど、どうなってんだよ…!!」
 「これは本気で戦って勝てるかどうか…っ」
 「サボコロが…っ!!どうしよう…ッ!!」
 
 目の前の現実に飲み込まれてしまった3人を見て、少女は哂う事もなく近づく。
 1歩1歩…確実に、正確に、3人の下へ歩み寄る。
 そしてすっと右手を鎌の位置へ持っていき、その柄の部分を掴み取る。
 まるで今から獲物を狩る————————獰猛なハンターのように。

 「「「次元の扉——————————、発動!!!」」」
 
 すると3人は声を合わせて、戦闘準備の為に次元の扉を開いた。
 自然に汗が頬を流れる。自然に足が竦む。
 気を引き締めて、いざ3人はバラバラに飛び散った。
 左右に別れたエンとキールアとは違って動かず少女の目の前に立つレトはふっと双斬を下へ払う。

 「お手並み拝見だな…————————、八斬切りッ!!!」

 双斬を素早く八つに分けて振り、その剣先を少女へと向かわせる。
 唯冷然として立っている漆黒の少女は、ふわっと服の袖を翻し、八つの攻撃全てを見切り、避けてみせた。
 
 「…ぁ…な…!!?」
 「我が名は『ドルギース』、私は決して——————————、貴様等人間を許しはしない!!!!」

 ドルギース、と名乗った少女は漆黒の鎌を横に振り切った。
 孤を描くように飛んできた鎌の攻撃をレトは咄嗟の行動では避け切れず、端の部分が見事腕に当たってしまった。

 「ぐあァッ!!?」
 
 スパン!!と切れた腕の切り口からは早くも血が流れ、抑えた手を乗り越えて地面へ向かい零れて行く。
 レトは必死に腕を抑え、痛みに耐えていたが…ふと。

 (あ、れ…?)

 何かに気付いたような、そんな思考が頭を過ぎった。
 先程言った、“誰か”の言葉を。
 だが一瞬くらりと薄らいだ意識を取り戻す為に、そんな事を考える余地もなかった。
 
 「…他愛もない」

 ドルギースの顔は笑ってはいない。だが確実に嘲笑っている。
 そう言葉を良い捨てたドルギースは背後に気配を感じて突然振り返った…だが。

 「…何処を見ている、堕天使よ」

 後ろにいたのは、エン・ターケルドだった。

 「一閃——————ッ!!!」

 金色の弓を引き、いざその矢先を堕天使に向かって勢い良く放つ。
 避ける事が出来ない一瞬の時の中、ドルギースの体には太くて鋭い矢が貫通する。
 その弾みで思い切り血を吐き出したドルギースは、顔を顰めエンを酷く睨み付けた。

 「…ん、の…!!!」
 「…!!?」
 「人間の分際で————————私を傷つけるとは何事かッ!!!!」

 怒りに狂ったドルギースはエンに向かって精一杯に鎌を振り下ろす。
 咄嗟に避けたエンだったが、鎌の先は容赦を知らない。
 鎌先は見事エンの左肩を捉え、勢いと共に骨を砕く。
 
 「ぐ…ッ、きさ…ま…!!」
 「はぁ…はぁ…、許さんぞ…」
 「く……ッ!!」

 (如何する…エンは今あいつに狙われてるし…かと言って俺は動けない…キールアはサボコロに元力使ってるし…)
 
 エンは肩を抑えてなるべくドルギースから距離を取り、攻撃を防ぎつつある。
 キールアはサボコロの治療の為に離れた場所で“傷消止血”を何度も繰り返していた。
 レトは無力な自分を責め…ただ只管に呼吸を整える。

 「これで鬼ごっこは終わりだ——————、地獄に行くが良いッ!!」
 
 エンに向かって大きな鎌を振り上げ、そのまま1秒にも満たない内に振り下ろした。
 肩を負傷して動ける訳のないエンの心臓は跳ね上がり、そしてまたしても視界には真っ赤な血が飛び散った。
 キールアはその光景を見て口を抑え、ぎゅっと目を瞑った。
 ドルギースはこの時初めて口角を吊り上げて、笑った。

 確信した、エンの死亡を。





 …—————————————、だが。






 「……ッ!?—————————何だとッ!!?」


 
 目の前にいたのは、藍色の髪をしたエンではなかった。



 「…れ……————————レトッ!!?」


 
 金髪の髪を耳くらいまで結い上げ、俯きながら深呼吸を繰り返している。
 だがエンを護る為に覆った右腕には見るも無残な鎌の傷跡。
 唇を噛み締めて、ただ懸命に堕天使を睨み付けていた。

 「何だ、と……な、何故だ…!!何故だレト!!!」

 何故、突き出したのは双斬ではなく、自分の腕だったのだろうと。
 
 そう、エンは問う。自分を護る為に腕を斬る覚悟で目の前に現れた少年へ、問う。


 「答えは……、1、つ…だろ……?」

 「……」

 
 「自分の、腕で…—————————、護りたかったからなんだよ」


 
 その瞬間、レトヴェールの口元は確かに歪み、そして。
 静かに流れるように…地面へと体を打ちつけた。