コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 最強次元師!! ( No.810 )
- 日時: 2011/06/04 23:52
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: jBQGJiPh)
番外編 疎外少年と次元少女Ⅰ
昨晩は、酷く雪が降っていた。
雪ってレベルじゃなくて、吹雪かもしれないって程。
そして今日、せっせと家へと帰る俺は、そんな冬の冷たさを直に感じていた。
首には薄いマフラー。腕には1本の長いパンが入った袋。あまり焼けてそうにないけど。
そして裾がボロボロになったコートを羽織って、俺は裏路地の横を通る所だった。
なのに。
「…?」
俺は思わずパンの入った袋を落としそうになった。
俺が横に顔を向けた時…瞳に映ったのは、同い年くらいの女の子。
手入れされていないであろう所々に跳ねた髪の毛、裾の破けた薄い服。
そして何より、虚ろなその瞳。
「…あらあら、私に何か用がありまして?」
少女は、俺に向かってにっこりと笑ってくれた。
でもその顔は笑ってなくて、その言葉は何処か儚げで、
俺は一瞬、驚いた。
この近くにある学習院で、俺は苛められていた。
授業も聞かずぼーっとしていて、中途半端な生活を送っている。
そして且つ俺の家は若干貧しい家庭なので、更に文句を言われる毎日。
仲間と呼べる人も、友達と呼べる存在も。
俺には一切いなかった。筈。
「あ…いや…」
「そうですか」
寂しそうに笑った彼女の顔を、俺は忘れられなかった。
そして彼女の細い体を見て、俺は無意識の内にパンを千切って、その一欠片をぬっと彼女の目の前に突き出す。
彼女は首を傾げ、俺と目線を合わせる。
「…これを、私に?」
「うん、お腹空いてそうだから」
「優しいお方なのですね、貴方は」
そう言われた瞬間、俺の頬が熱を帯びるの感じた。
でも、同時に。
とても寂しそうも、見えたんだ。
心の底から笑っているように作ってるかもしれないけど、
俺には…感情のない笑顔にしか、見えなかったんだ。
それから幾日と日を重ね…俺は彼女と毎日会うようになっていた。
彼女は俺が行く度ほんのりと笑って、可愛い笑顔を見せてくれた。
俺は毎日のようにパンを千切っていたけど、不思議と母さんにはバレなかった。
俺は、彼女に尋ねた。
「ねぇ、君の名前って何ていうの?」
「…あらあら、そうですね。…忘れてしまいましたわ」
「え?」
「つい最近まで覚えていた筈なのに…何年も前から、覚えてないのです」
「そ、そうか…」
彼女はごめんなさい、とだけ答えた。
でも俺は一生懸命首を振って、こちらこそ、と笑ってみせた。
そんな俺に、彼女は不思議そうな顔をして、
「貴方こそ、名前を教えて下さらない?」
「え?お、俺の名前?」
「はい」
「ヴェイン…ハーミット、だけど…」
「ヴェイン…そう、ヴェイン、ですね?」
「お、おう」
「そう…、ヴェイン」
一瞬だけ彼女の顔が曇ると、俺の名前をもう1度だけ呼んだ。
別に気にしなかったけど…やっぱりこの子は何者なんだろう、と思ってしまう。
無邪気に笑ってくれる、でも。
でも…足りないんだよ。
「…あ、あの」
俺はそのか細い声を聞き漏らさず、彼女の方へと顔を向けた。
彼女は少し口を結ぶと、また小さく開いた。
「どうして…私に優しくして下さるのですか?」
口から出た言葉は、意外だった。
いつもと変わらぬ真顔で、でも少し心配そうに。
彼女はぎゅっと自分の手を握り締めて、そう一生懸命に言ったのだと思った。でも。
「どうしてって…放っとけないからだよ」
「…!!」
「路地でお腹空かせてボロボロになった女の子見捨てる程、俺最低な人間じゃないだろ?」
「で、でも…っ」
「俺だってお前に感謝してるし、お前も俺に感謝してる…これでいいじゃんっ!!」
そう俺がにっと笑った時、彼女は一瞬だけ暗い顔を見せて、後に笑った。
笑っているのに、泣いてるような表情だったけれど。
もう、彼女に出会って1ヶ月が経とうとする。
俺は毎日彼女に会う度、とても嬉しくなった。
同い年くらいの子供と喋った事ないし、帰っても母さんがいるだけだし。
そう考えたら…彼女に会うのが楽しみで仕方がなかった。
そうしたまま浮かれた気分でパンの入った紙袋を抱えて走った俺。
会いたくて、会いたくて…今すぐにでも彼女の笑顔を見たかった俺は、路地に着いた。
繁華街の店の裏にある路地…の向こう。
…でも。
「あ、れ…————?」
いる、筈だった。
いつもなら、この裏路地にいて、ひょっこりと顔を出すのに。
擦り切れた服を纏った彼女は、此処にいなかった。
「お、い…——————、おいッ!!」
心配になって駆け出した俺は貴重なパンまでもを落として足を進めた。
でも、3歩くらい歩いた時に、妙な音が鳴ったのに気付く。
足元で、変な音がなった。
恐る恐る下へと視線を落とした俺が見たのは…————。
「……——————、ち…血?」
真っ赤で、生暖かな、“血”。
ぴちゃ、と嫌な音を立てたそれの本体は…誰かの血だった。
渇いていない、ついさっきまでいた筈だ。
俺は瞬間的に怖くなった。
「ま、さか……ッ!!?」
もしかしたら、彼女が襲われたのかもしれない…そう思って。
俺は再度血を眺める、そして裏路地の向こうにまで続いている事を知る。
心臓が高鳴った。これ以上進むな、と言っていた。
進んだら何かの事件に巻き込まれるかもしれない。
進んだらまた誰かの血を見てしまうかもしれない。
それでも。
「……——————ッ、くそったれ!!!」
俺は、確かめたかったんだ。
あの子じゃない事を。
あの子の血ではないって、事を。
唯…それだけを確かめたかったのに。
俺は足の神経が途切れてしまうのかと思うくらいの必死さで足を動かし、走った。
血管がぶち切れてしまうと思うほど、全力で走った。
そして俺は血の跡を追う。唯只管に、我武者羅に、追う。
その先にあるものを————————、確かめたくて。