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Re: 最強次元師!! ( No.812 )
日時: 2011/07/05 21:33
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: jBQGJiPh)

番外編 疎外少年と次元少女Ⅲ

 「……こ、これは…?」
 
 その途端、いきなり少女の体が光を帯びたように輝き始めた。
 男もこの光景に驚き、少女を凝視している。
 俺には信じ難い事だったけど、少女はすっと立ち上がった。

 「ねぇヴェイン?」
 「な…なん、だ?」
 「私の名前を、叫んでくれますか?」
 「お前の…名前?」
 「心にふっと浮かんだその文字がきっと———————私の名前です」
 「…!!?」
 「今貴方の心も弾んでいる筈です、さぁ…叫んでください!!」

 俺がその言葉を聞いた時には、既に心臓は俺の体内で暴れ回っていた。
 激しく高鳴る鼓動。何だろう?…この、何とも言えないような。

 胸が疼くような————————————この感じは!!

 「次元の扉————————、発動」

 「……!!?じ、げんの…扉…だと!!?」

 俺は、知っている。
 自然に心へと浮かんでくる…あの少女の名前を。
 あぁ…俺は————————————っ!!。


 「————————————————————在現マリエッタ!!!!!」


 そうだ、俺は…次元師なんだ。


 “マリエッタ”

 それが、あの子の名前だったんだな。

 「くそ…ッ!!」
 「すっげぇー…お前、“じげんぎ”ってやつだったんだなぁっ」
 「あらあらヴェイン…まさか貴方が次元師だったなんてね」

 くすっと笑ったマリエッタを見て、俺にもふっと笑みが零れた。
 この時、俺はやっとマリエッタと友達になれた気がする。
 やっと…心を通じ合わせられたような、そんな気がする。
 
 「次元師だと…なめやがって!!」

 俺がマリエッタに気をとられている内に、男は拳を振り上げて襲ってくる。
 勢いよく殴られかけた俺は咄嗟の判断で右に避け、そのまま十数メートル離れた壁へと向かい、走った。

 「お、おいマリエッタ!!!」
 「あらあら…何ですか?ヴェイン」
 「これからどうすりゃ良いんだよ!!次元技ってどうやって使うんだァ!?」
 「私の次元技はたった1つ、ヴェインになら分かる筈でしてよ?」

 と言ったマリエッタの方をちらりと見ると、マリエッタは自分の背中に腕をまわしていた。
 そしてゆっくりとそれを前に持ってきたと思うと、自分の身長より高く大きな太刀が握られている。

 「ちょ…え、え!?」
 「?、何を驚いているのです?」
 「何ってお前…そ、その太刀……」
 
 マリエッタは浅い溜息を吐くと、ヴェインの肩を勢い良く叩く。
 その飛び上がる程の威力と衝撃を肩に喰らったヴェインは思わず飛び上がる。
 
 「いったァッ!!?」
 「ぐずぐずしないで下さいまして?もう敵は近づいています」
 「…マジ?」

 そう言った直後の事、俺の目の前を激しい音と共に土埃が舞う。
 目の前にいたのは頭ぶち切れた男の顔。 
 あぁ、怒らせたみたいだ。

 「さ、さ三次元の扉発動—————————」
 「……ッ!!?」


 “ヴェインになら分かる筈でしてよ?”


 そう言ったお前の言葉、

 信じて良いんだよな?



 「————————————、強加!!!!」


 そう叫んだと同時、マリエッタの虚ろな瞳が一瞬の光を帯びた。


 「あらあら…次元師がいれば私は無敵でしてよ————————、ねぇ、ヴェイン?」

 
 
 …あ。

 初めて、マリエッタの楽しそうな顔を見たような。

 そんな気がした。


 「ま、待て!!分かった、俺が悪かっ————————!!!」

 
 在現はそんな小さな言葉を聞く事もなく、
 唯太刀を上から振り下ろした。

 勢いのある音が響き渡り、咄嗟に避けた男の腕からも多少の血が噴出した。
 ひィ!?、と声を上げ、男は凄いスピードで在現からの距離をとる。
 その顔はさっきまでの威勢を感じさせる事なく、在現への“恐怖”ばかりが浮き出ている。

 「あらあら…避けられてしまったわ」
 「マリ、エッタ……」
 「ご安心下さいまして?ヴェイン。私も次元技。唯の人間になど負けはしません」
 
 そう言ったマリエッタは目にも止まらぬ速さで男の傍に寄り、鋭い眼光でキッっと男を睨む。
 思わず後ろで手をついた男は、迫るマリエッタの恐怖に怯えている。

 「…っ、ぃ…ひ……ひィィッ!!!」

 恐怖で喉から掠れた声しか出ない男の声は狂いそうで、でも在現は臆する事なくじっと睨みつけた。
 そして自分の身長より高く、大きな太刀を横に構え、横一閃に薙ぎ払う。

 「…ぅ…ぐぅぅぅうッ!!!?」

 ブンッ!!!という勢いで振られた太刀は血もつける事なく薙ぎ払われる。
 男は太刀の下でびくびくと震え、またしてもマリエッタと距離をとった。

 「あらあら、さっきまでの威勢は何処へ?」
 「お、おお俺がわ、悪かった…!!、み、見逃してくれ…!!!!」
 「…条件があります、宜しくて?」
 「……へ、?」

 俺も良く状況を読めないまま、時が過ぎればあの繁華街にいた。
 いつもマリエッタがじっと座っていた場所だ。
 
 「犬に謝って、そして持ち主にも謝って下さる?」
 「あ…あぁ」

 マリエッタは、くぅーん、と小さく吠えた犬の前に屈んだ。
 だがその瞬間——————————、背後にいた男はいきなり腕を振り上げて…!!

 「マリエッ————————!!?」
 
 ほんの一瞬の出来事だった。
 
 マリエッタは、振り返りもせず激しい金属音を鳴らし、男の首に太刀を突きつけた。
 男は腕を上げたまま首をかたかたと震わせ、同時にばたりと地面に膝をついた。

 「あらあら、融通の利かない哀れな大人でしてね?」
 「……っ、く…ぅ……!!」
 「次に変なマネをしようとするのなら、容赦なく私は貴方の首を切り落とす」
 
 マリエッタの鋭い眼光と声に何も言えなくなった男は、頭をがくんと落とし、渋々降参した。
 その姿と言ったら奇怪で、小さい女の子が男を支配していると思うと…俺まで震える程だった。




 「なぁ、マリエッタ」
 「あらあら、何か用がありまして?」
 「…いいや、何でもないっ」

 夕暮れの帰り道。
 俺は何とか母さんを説得して、マリエッタと共に過ごす事の了承を貰った。
 不貞腐れてたし、あまり良い顔はしてなかったけど…俺達は離れる訳にはいかないし。
 そしてパン屋の袋を抱えて、俺はマリエッタと隣でとぼとぼ歩いているのが現在。

 「もしかして、俺等ってずっと一緒な訳?」
 「そうだと思います、貴方が死ぬまでは」
 「…そっかぁー」

 死ぬまで、ずっと一緒。
 でも死んだら、もう一緒にはこの道を歩けない。

 もし俺と彼女が出会ったのが、運命だったなら。
 俺はどんな仕打ちを喰らおうとも構わなかった。
 あの時、俺が偶然にも彼女と出会ったから、
 今の俺が在るんだと、ココロから思ってる。

 「俺、情けないかもしれないけど…それでも、“死ぬまで一緒”か?」 
 「ええ、情けなくても…“死ぬまで一緒”でしてよ?」

 あーあ、また俺負けちゃった。

 どうも弱いんだよね、マリエッタの笑顔っての。
 限られた時の中で、俺がそんな笑顔を見れるのも指で数える程だろう。
 だからそれまで、ずっと“死ぬまで一緒”がいいな、なんて。

 
 また、運命って奴に強請る俺が…この頃の俺だった。