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- Re: 最強次元師!! ( No.814 )
- 日時: 2011/07/30 17:25
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: SLKx/CAW)
第202次元 純白の聖天使
「…————————!?」
レトの一言で、辺りがしんと静まり返った。
ドルギースと名乗る少女は、ひやりと頬に汗を垂らし尚、ぐっと拳を握り締めた。
「…ふ、ふはははははは!!!」
「……」
「我があの聖天使か…?笑わせてくれる!!何処にも証拠がないというのに!!!」
漆黒の堕天使は叫んだ。
まるで、その事実そのものを拒むように。
「いや…お前は正真正銘“メルギース”だよ。千年前、人間に対して優しい心を開いていた、な」
「嘘をつけ!!、それ以上戯言を言うのなら斬り殺すぞ!!!」
「…悪いな、お前は俺達を殺す事はできないし、俺達がお前を殺す事もできねぇ」
何故なら、とレトは加えて言って。
「人と接し人を愛してきたお前は…俺の義妹にそっくりだから」
レトは、1歩ずつ堕天使へと歩みより、足を止めた。
「千年前、お前等は戦争後、3ヶ月感行方を晦ましていたんだってな。それは俺も驚いた。
その間に何があったのかも分からねぇし、確証はないけど、お前がドルに対する気持ちで分かったんだ」
「ふざけるな…、そんな事貴様なんかに…!!」
「3ヶ月間の間で、お前はドルにこう言ったんだろ?…“私を入れ替わらないか”、と」
その時、堕天使は漆黒の瞳を大きく開いて後ずさりをした。
煮え滾る汗をぎゅっと包み、隠すように右腕で左腕を掴む。
「で、でもレト!!」
「ん?」
「如何やってそんな事したの!?2人が幾ら双子でも…!!」
「あぁ、そこだよ」
え、と双斬は小さな声を漏らした。
「見た目、声、体重、身長…きっとどれも全く一緒だったんだろ?まるで分身みたいでさ」
「…、ち…ち、が……っ」
「心優しいお前ならきっとやると思ったんだ——————、ドルギースという、たった1人の妹の為に」
堕天使はふっと軽くなったようにぺたんと地面に座り込んだ。
今度は、まるで嗚咽を漏らすような声で涙を啜り始めた。
「こうする、しか…なかったん、だ……」
「……」
「こうするしか……ドルを救う事なんかできなかった……っ。例え私が犠牲になったとしても…それでもっ!!」
「…あぁ、痛いほど分かるよ、その気持ち」
堕天使…いや、聖天使は涙を零し始めた。
汚れが一切のない、純粋な滴を。
「ドルは…人間に閉じ込められ、人間に苛められ、人間に全てを奪われて…決してお前等人間を許してはいなかった」
「…っ」
「だから…、救ってあげたかった……最後くらい、“姉”になりたくて……」
「…だからお前はドルの身代わりをして、何者かに殺されたって事か?」
「……」
メルギースは、うんと頷いた。
もう先程までの悪魔は何処にも存在しない。
レトは座り込んだメルの頭の上にぽんと掌を乗せて、自分もしゃがみ込んだ。
「……っ?」
「やっぱりそうだよな…命かけても、傷ついても、妹の事、護りたいよな」
「……」
「俺も一緒なんだよ、俺も…護ってやりたかった」
レトはよしよしというようにメルの頭を撫で、にっと笑ってみせた。
そして初めて向き合って見たのだ————、メルギースの“天使の笑顔”ってものを。
————————が。
「…何してるんだよ、ドルギース」
レト達の背後から、ひやりと冷たい、凛とした声が響いた。
明らかにメルギースと声が似ている、いや、本人と思っても可笑しくはない。
メルははっと驚き…その名をぽつりと呟いた。
「————————————……ど……ど、る…?」
白銀の短い髪の毛。片方だけに生えた真っ白な翼。
白い布を羽織り、背中には鎌を装備している。
明らかにメルの漆黒の容姿を、そのまま純白にしているかのようだった。
「こいつが…ドルギース……」
「?…あたしがドルギース?……あぁ、そいつが全てを吐いちゃったんだ」
「…おいてめぇ、姉に向かって“そいつ”って何だよ」
レトは冷たい言葉でそう言い放つ。
だがドルは動揺する事もなく、深く溜息を吐いた。
「あたし達の秘密知っちゃったんならしょうがないよ…ねぇメル」
「………っ」
「……、あんたを、あたしがこの世から去らせてあげる——————————!!!」
ドルを物凄い勢いで鎌を振り上げて、そのまま一気に振り下ろした。
その攻撃は口では表せず、レトは咄嗟の思いでメルの手を引いて、その場から逃げた。
鎌の先端が地面を砕き、そのまま大きな穴が広がる。
想像を絶するドルの威力。次に喰らえば、確実に死が待っているだろう。
「ぐ…ッ!!」
「だ、大丈夫かメルギース…!?」
「平気…これくらい……っ」
(如何する…、この場に彼女を置いて、戦闘に行くしか…ねぇよな!!)
レトヴェールは、残された元力のみで戦おうと決意した。
その表れに、双斬が強く強く握り締められる。
「ん…じゃあ、ぁ…」
「…!?」
「俺達、も…」
「…行くしか、ないようだな」
レトに続いて、サボコロ、エンがその場で立ち上がる。
痛みが戻ってきたのか、2人とも傷だらけの体を抑えて。
「お前ら…」
「ばぁーか、お前だけに良い格好させてたまるかってんだよ!!」
「バカサボテンの言う通りだ、レト」
「……おいてめぇ。言っとくけどなぁ、俺はサボテンじゃないぞ」
「つまらん冗談を言う前に頭の上に可愛い花でも咲かせてろ、サボテン」
キシャー!!、っとサボコロはエンに向かって怒りを表していた。
だがいつまで経っても息の合わないあの2人。
思わずレトの顔も呆れ顔へと変わっていった。
「喧嘩するなんてバッカバカしぃー…こんなんが今の次元師なんだ?」
「あぁ?おいてめぇ、それ以上言ったら灰にすんぞ」
「挑発に乗るなサボコロ、それがあいつの罠かもしれんぞ」
「…そっちの小さい方が賢いじゃん、単純な挑発に乗るなんてガキだねー?」
その言葉を耳にして、あのバカが許す筈もなく。
サボコロはありったけの元力で体中に炎を纏い、バッ!!っと手を挙げた。
「行くぜ炎皇——————————、炎弾!!!」
纏った炎が無数の弾に変形し、そのままドルギースの元へ直行する。
轟、と音を鳴らす無数の紅蓮の炎は、一瞬のうちにドルを捉え、爆風を巻き起こした。
やったか!!、とサボコロが叫んだとき、炎弾のせいで巻き起こった爆風は徐々に晴れていった。
だが。
「…っく…っ……少々梃子摺った、けど……」
「……——————!!?」
「これくらいの実力なら…、敵わない敵、じゃない」
啖呵を切ったサボコロの次元技を受けてなお、ドルギースは立っていた。
それも多少の掠れ傷で、少しよろめく程度のもの。
この勝負がどちらに転がるか…未だ影にいたキールアにも分からず終いだった。
ドルギースは偽りを隠す為に漆黒の髪を純白に染め、今まで天使かのように過ごしてきた。
必死にも救おうとしてきた姉の想いを貶し、消し去ろうとし、踏み躙った。
一途で汚れ一つない姉の想いは、果たして偽りの天使に届く事があるのだろうか。
レトヴェールは唯祈り、そして胸元に提げた義妹のペンダントを強く握り締めた。