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Re: 最強次元師!! 【参照5000突破】 ( No.832 )
日時: 2011/08/05 14:23
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: SLKx/CAW)

第204次元 2人の天使
 
 最早凶器とも呼べる激しい音が鳴り響く。
 それはレト、エン、サボコロの頭上のみで起こり、3人は苦しみながらもがいていた。
 頭を抱え、必死に目を開ける。うっすらと見える視界の先にいるのは…狂い笑う堕天使の姿。
 ドルギースは苦しむ3人を見て楽しそうに笑っていた。

 「ふはははは!!!やっぱり人間はこうじゃないと…足掻いて苦しんで狂ってもらわないと…面白くないんだよねー?」

 そう言ったドルも、実はぐっと腹部を抑えていた。
 先程エンにやられた致命的一撃。次元技を腹部に喰らったドルも、そう長くは立っていられない。
 レトは決死の思いで双斬を握り、ゆっくりでも腕を動かした。
 如何すればこの攻撃を壊す事ができるのか、と考えて。

 (無理だ…動く事さえ出来ないこの状況で…っ、次元技を使うなんて……とても無理、だ…っ!!)

 頭が割れる。その激痛に耐えながらも尚、レトは頭を回転させる。
 こんな時…義妹だったなら。
 隣にもし、義妹がいたのなら。
 躊躇いもなく、考える事もなく。
 唯思った事を突っ走っていただろう。

 2人で…そう、義理の絆で繋がった2人で。

 (…無理やりにでも戦って、勝ち進んで。何度も何度も、2人で無茶したじゃねぇか……!!なのに…なのに…!!!)

 義妹を失ったら、自分は無力なのだろうか。
 義妹がいないと何もできないのだろうか。弱いままなのだろうか。
 
 レトの思考に幾つもの疑問が過ぎる。そしてもう1度拳を握りしめる。

 (違う…そうじゃない…!!俺は、勝ち進まなきゃいけないんだ…!!こんな…ところで——————!!!)

 レトの元力が高まっていく。それと同時に頭上に浮かんだ金色の輪に亀裂が入った。
 ドルは驚愕する。何故だ!?っと大声を張り上げる。



 「負けるわけにはいかねぇんだよ——————————!!!!」


 
 天に向かってレトがそう吠えた時、金色の輪は完全に砕け散った。
 それと同時に頭を襲っていた激音が消え、ふっと眩暈が起こる。
 エンもサボコロもこの状況に驚きを隠さず、じっとレトの方へ視線を向けていた。

 「レト……」
 「お前、そんな力、どこに…!!」
 
 (馬鹿な…!?あたしの術を……あんな大声だけで…!!?)

 負けられない気持ちがあった、としか言えなかった。
 どうしても譲れない思いが…レトの源になった、としか。

 「負けちゃいけねぇって…思ったんだ」
 「……レト…」
 「俺はロクに会うんだ。戦場で必ず戦う為に…。…それにさ」
 「…?」
 「此処で負けちゃぁ…俺、ロクの義兄失格だから」

 地上最強と言っても良かった。
 ロクの実力を。
 唯それは…越す事も追いつく事もできない存在で。
 ちっぽけな自分は、努力して歯を食いしばってついていかなければならなかった。
 レトはずっと、そう考えていた。
 ロクの義兄が務まるのは…きっと。

 “人族代表”の名だけだから。

 「くそ…ッ!!他の錠を使うしか…!!」
 
 「…掛かってこいよ“純白の堕天使”」

 負けなど認めない。
 両者の譲れない闘いに、エンとサボコロは息を呑んだ。
 迷いを一切殺し、消滅させたレトに、果たして堕天使は勝てるのか。

 
 「黒白月陽…——————、第十五の錠!!『純白ノ精霊』!!!」

 
 堕天使の背後に現れたのは…女神を思わせる“天使”だった。

 ドルギースという名には似合わない、悲哀な天使。

 服装、口調、術——————、持てる全てを交換し、互いに成り済ましていた千年間。
 ドルは完璧な“メルギース”を演じていた。
 一般の人達にも、兵士達にも気付かれない恐ろしい計画。
  
 然し、誤魔化す事が絶対にできないモノがある。

 それを人々は…“心”と伝えてきた。

 容姿や口調、独自の術を変える事はできても、心は変えられない。
 それをレトは知っていた。
 身近にいた、義妹のお陰で。
  
 もし今自分の隣にいたら、きっとドルも涙を流して謝ったのに。
 ロクがいれば、きっと心を救う事ができたかもしれないのに。
 そんな包容力を持つ事ができないレトに出来るのは…唯1つ。

 正面からぶつかって、自分の無力さを痛感させる事だけだった。

 


 
 精霊がレトを襲う。
 そんな状況を目の当たりにしてエンとサボコロと…木に隠れていたキールアも身を乗り出してレトの名を叫ぶ。
 決して届かない訳じゃない。でもレトはすっと顔を上げた。
 そしてゆっくりと双斬を構えて、こう言った。

  
 「————————————————ありがとな」


 と。
 それを誰に言ったのかは…きっと分かる。
 ドルに向かって言ったかもしれないが…そうじゃない。
 ドルよりもっともっと遠くにいる、あの少女に向かって言ったのだ。
 
 義妹の事を思い浮かべるだけで、ふっと心が軽くなった。
 そしてレトは双斬を思い切り振り下ろした。



 
 「…どうだ?悔しいか?」

 ドルギースは膝をついて、俯いていた。
 レトはまるで小さな子供を宥めるような口調で言う。
 ドルは無反応。泣いているのか怒っているのか違うのか…全く表情が掴めなかった。

 「悔しい…訳じゃない…けど」
 「…ん?」
 「もしあんたがあたしの兄だったら…きっと、もっと早く心が軽くなったのに」

 ドルには、分かってしまった。
 レトには義妹がいて、その子の事を強く想っていて。
 最後に放った言葉も義妹宛の言葉だと思うと…ドルは少し悔しかった。
 
 「羨ましい……、あんたの義妹に会いたいくらいだよ」
 「いつか会わせてやるよ…、戦争が終わって、平和になったら」

 生きてるかどうかも分かんねぇけどなって。
 レトは苦笑しながらも笑ってみせた。
 その時…ほんのりだったが、
 ドルも微笑んだような、そんな気がした。

 「メルを苦しめたのも、住民を苦しめたのもあたし。…だから病死して良かったって思ってる」
 「病死したのに…何でお前らまだ生きてんの?」
 「不死なんだよ、本当はね」
 
 方翼だけを生やして、2人で1人として生きてきた2人は不死だった。
 だけど歴史上死んでいて、暫く“別次元”の世界で暮らしていたとか。
 そしてある日そこにいた“ある人物”に泉を護るよう義務づけられ、現在に至る。

 「ドル……ごめんなさい」
 
 後方から、メルの優しい声が聞こえた。
 それは天使でも何でもなくて。
 姉の、優しい声だった。

 「私が無理にでもドルを愛していたら…今頃こんなにもめなかったのに……」
 「……違う、そうじゃない。でも分かんないの…どうしたらいいのか…、分かんないんだよ…!!」 
 「…私がついてる、ドル」
 「…!!」
 「私…貴方の姉だから、貴方を護る義務がある」
 
 だから、分かんないだなんて言わないで?

 メルの瞳はそう訴えていた。
 “不を齎す子”として人間から恐れられてきた妹を、
 この時初めて…メルはぎゅっと抱き締めた。
 千年間もずっと想い続けていたのに…抱き締める事もできなくて。
 そして今日、メルは妹へ気持ちを告げる。

 「…ありがとう、ドル」

 隣にいてくれてありがとう…メルはそう呟いた。
 レト達4人もその場でうんと頷き合って、笑い合う。
 
 対称的は2人が、初めて心を通わせた。
 初めて互いを“姉妹”だと思った。

 そしてもう2度と…離れる事はないと確信し、
 メルは泣き崩れるドルを温かく抱き締めて…もう1度“ありがとう”と囁いた。