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Re: 最強次元師!! ( No.853 )
日時: 2011/08/24 19:20
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: DxRBq1FF)

第207次元 すれ違う決意

 (進んでる…よなぁ…?……皆はホントに隣で歩いてるのか…?)

 幾つもの疑問がレトの脳裏を過ぎる。
 五感を失うと知って、どれ程歩いただろうか。
 レトは未だに疑問を持つ。そして思い出す。

 (似てる…。この引き込まれそうな程の暗闇と、緊張感……あの時のまんまじゃねぇか……)

 そう、無次元の世界にいた時と、同じ感覚。
 何度も味わって斬り抜けて来た…あの世界。

 こんな時、隣に支えてくれる“義妹”がいれば。

 (……なんて、叶う訳ねぇのに…)

 そんな時、レトは急に自分の中から込み上げてくる何かに気付いた。

 
 (な……なん、だ…?)

 
 心臓の音は聞こえない。歩いている感触もない。
 口の中に残る饅頭の味が感じられない。土の匂いも無い。
 目の前は、唯真っ暗。

 それは突然の出来事だった。

 (——————————————!!!?)

 心の内に湧き上がる恐怖が、レトを襲う。
 人間は感覚を失うと急に不安になる。
 然し、それが全ての感覚だと如何なるだろう?

 
 それは、まるで死後の世界へ向かうかのような孤独感——————。

 
 指先が震えている気がした。心が圧迫されるような気もした。
 然し感じられない、何も無い。
 レトは急に自分が怖くなった。

 (俺……生きてんの…か、な……?)

 何も感じないのに。意思でしか動く事ができないのに。
 一体此処から何を信じろと云う。何処へ向かえと云う。
 レトは歩いているかも分からないその足で…一歩を踏み出そうとした。






 一方、その頃の本部の様子。
 レト達が会場に向かって約1ヶ月以上。
 2チーム共第一次予選を突破したと連絡を聞いて、一段落落ち着いていた。

 「良かったです…2チーム共予選突破して」
 「そうだなぁーまぁ8人もいなくて寂しいのもあるが…」
 「それってロリ的な意味ですか?それとも班長として班員を心配する心構えですか?」
 「……フィラ、君は本当に強く育ったね。僕嬉しいようん」
 
 失礼します、と言ってフィラは相変わらず肩に蛇梅を乗せて班長室から出る。
 そしてふっと口元を歪ませると蛇梅に声を掛けた。

 「…昔から変わってないね、蛇梅」

 その時、背後から良いテンポの足音が聞こえてくる。 
 振り返れば、そこにいたのはミラル・フェッツェル副班だった。

 「あ、フィラぁ〜」
 「ちょ…、あんた、仕事あるでしょうが。こんな所で何やってんのよ」
 「フィラに手伝ってもらおうと…」
 「嫌」
 
 即答且つ真顔で簡潔に答えるフィラ。
 そんな表情のフィラにミラルは一瞬顔を固まらせる。

 「ちぇー…昔から意地悪なとこ、変わってないんだからぁっ!!」
 「あのねぇ、自分の課題は自分でやるって前にも言わなかったっけ?」
 「え…そ、そうだっけぇ!?ごめんごめぇーんっ」
 「…ったく」

 フィラはミラルの肩をちょこんとつついて、依頼室を指差した。
 しょうがないから手伝ってあげる、と言いながら。

 
 
 「くぅーっ」
 「今じゃ班員はたったの3人だものね…流石に活気がないわ」
 「その3人で任務ちゃくちゃくとこなしてんだもん、凄いねぇー若い子って」
 「…ねぇミラル」
 
 珈琲を啜りながら聞いていたミラルは、フィラの言葉に気付くのが遅れた。
 フィラはことり、とカップを置く。

 「あんたの妹…今何処にいるの?」

 フィラはその言葉を聞くと、あぁ、と口元を歪ませて笑った。

 「いるよ、あたしの家に」
 「え……!?じゃ、じゃぁ逃げ切ったって事!?」
 「ううん、フィラも良く知ってる2人組みが助けてくれたんだよ」

 え、とフィラは素っ頓狂な声を上げた。

 「ロクちゃんとレト君…そう、あの2人が救ってくれた」

 ミラルは語る。
 2、3年程前、レトとロクはある任務へ向かった。
 昔からの伝統を伝えたような古い村で、村の中央に何故か建てられたオーディション会場。
 その会場毎破壊し、囚われていた全ての人達を救い出したあの任務。
 あの時丁度売られようとしていた“両目の色が異なった少女”
 それが、自分の妹だったと。

 「だからあたしさぁ、あの2人に感謝してんだよねぇ」 
 「そうだったんだ…その子を実際に見た訳じゃなかったから、わかんなかったよ」
 「良いんだよ、フィラだってあの2人に救われたんでしょー?」
 「あの2人っていうか…ロクにね」

 十何年も蛇梅と会えずにいた。
 それは蛇梅がもういないと確信してしまっていたから。
 そんな絶望の淵にいたフィラに、ロクは手を差し伸べた。

 
 “そんなの分かんないじゃん!!蛇梅がフィラ副班との約束を忘れたなんて、あたしは思えない————ッ!!”


 そう言って、ロクはフィラと班長と共に蛇梅の元へと向かった。
 心の底から許せなかったのだ、何もしないで諦めるフィラ副班を。
 そうして出会う事ができた、ロクが繋いでくれた必死の糸で。

 「ロクとレトってね…どこか似てるんだ。お互いを思っているけど、それはすれ違いの思いで……」
 「あ、それあたしもなんとなぁーくだけど分かるっ。似た者同士だもんねぇ〜」

 レトがロクを救おうと思って。
 ロクがレトを救おうと思って。
 そうして2人は、すれちがってきた。
 それは間違った想いなんかじゃなくて、決して合わさる事のない2人の決意。
 
 「どうして…こうなっちゃったのかなぁ…」
 
 ふと、フィラ副班の背後からも声が聞こえた。
 
 「ルイル……」
 「皆が仲良い世界なんて……もうないの…?」

 目にいっぱいの涙を溜めて、ルイルはそう言う。
 
 「皆で笑い合える幸せな時間……もう戻ってこないのかなぁ…っ」
 「どうだろう…、もう1年も経たないうちに戦争まで始まる…きっともう…」

 フィラは、そこで言葉を詰まらせた。
 また、諦めるのか、と。

 「……フィラちゃん?」
 「ルイル…私は信じてる。もう絶対諦めないって…蛇梅に誓ったの」
 「ルイルだって信じるもん・・・っ!!また…また皆で笑いた、いから……っ」
 
 よしよし、とフィラはルイルの頭を撫でる。
 それは親が子を宥めるような仕草だった。
 
 「信じようね、ロクの事も、レトの事も…蛇梅隊皆の事も」

 きっとまた笑い合える。
 きっとまた巡り逢える。

 ルイルにそう言い聞かせながらも、フィラは自分自身にもその言葉を投げかける。
 絶望の未来なんて予測させない、と言わんばかりの綺麗な笑みで。

 「さぁーって、仕事やろうかミラル?」
 「そうだねぇ〜、ルイルはどうする?」
 「…セルナちゃんとリルダちゃんと…一緒に任務行ってくるっ」
 
 ルイルは屈託のない笑みで微笑みながら駆けていった。
 その場に残されたフィラとミラルは、目の前に広がる課題と向き合い、筆を動かし始める。