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- Re: 最強次元師!! ( No.862 )
- 日時: 2011/11/03 00:22
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: DxRBq1FF)
第211次元 サボコロ、エン vs ムシェル、ファイ
矢が飛び交い、
炎が揺れて、
羽が舞い、
鞭の音が、響く。
両者の技が幾つも発動し続け、一刻の猶予も許されない。
互いの元力を削り合う中…、蛇梅隊の2人は。
「っ…ってめぇ!!!俺を殺す気かチビィ!!!」
「俺の射程内にいるお前が悪い。邪魔だ」
「んだとごらぁ!!!」
——————————、喧嘩していた。
「だから貴様とは嫌だった。俺の邪魔ばかりするからな」
「邪魔はてめぇだこのチビ!!お前が近くにいたら技が出せねぇんだよ!!!」
ああ言えば、こう言う。
正にそんな状況だった。
サボコロの後方にいるエンは狙いを定め難いし、
逆に前にいるサボコロは、エンが後ろにいる為迂闊に技を繰り出せない。
発散型である炎撃を使うサボコロと、狙いを定めなければ外れてしまう一閃を使うエン。
2人が合わないというのも、無理はなかった。
「あーあ…喧嘩しちゃってー…」
「…チャンス…です。攻撃しましょう……」
「そうね、こんな連中さっさとやっちゃおーっと」
2人が睨み合っている間、ムシェルはにこりと笑って鞭で地面を叩く。
それに気付いた2人は嫌な顔をして互いにそっぽを向き、少し距離を置いて戦闘態勢に入った。
「…何やってんだよ、あいつら」
「喧嘩…してるみたいだね」
「ここで負けたらどうしようもならねぇ……マジで頼むぜ」
レトとキールアが見守る中、それでも2人の口先は止まらなかった。
最早絶望かとレトが溜息をついた、その時。
「……——————————!!?」
サボコロに向かって、無数の刃たる羽が突き刺さった。
「サボコロ————————!!!」
ガシャン!!、と手すりの音を立てて驚きを見せるレト。
紫色の羽が、見事サボコロを捉え、そして。
「なん…だ——————!?」
隊服の袖を突き抜けて、地面に密着させられてしまった。
動けなくなったサボコロを見て、ぴくりとも動きを見せないエン。
「さぁーって!!あんたから苛めよっかなぁーっ!?」
態と馬鹿でかい声で叫び、ムシェルは鞭を構えた。
そして…まるで拷問かのように、サボコロの体に鞭を打ちつけていく。
エンは依然として変わらず、唯じっとその状況を眺めていた。
「エンの奴…何やってんだよ……ッ!!」
「こ、このままじゃ…サボコロが…!!」
次元技というのは、精神が不安定な状態では成功し難い。
それに痛めつけられている今、サボコロは集中できる状態ではなかった。
にも関わらず何も言わないエン。
エンは漸く動いたと思ったら、弓を構えた。
「ほらほらほらァッ!!!痛いって良いなよ、さっさとギブアップしちゃいなよほらァァ!!!!」
「ぐ…ぎ、ィ……!!!!」
増えていくサボコロの傷と、過ぎていく時間。
エンはじっと身構える。一点を見つめながら、…音もなく構えた。
「そっちの小さい坊やも…死にたい訳?」
すっと鞭の動きを止めたムシェルは笑う。
エンの矢の先を見つめて、笑う。
「バッカじゃないのー!?そんなの当たる訳ないじゃぁーんっ!!!」
馬鹿笑いが響き、ムシェルの表情は崩れたままだった。
然しエンは動じない。一寸たりとも動かない。
「——————————第六次元発動」
そしてゆっくりと口を開いて、目を開く。
「——————————————、真閃!!!!」
真っ直ぐで、汚れのない一閃が。
音もなく、ムシェルの真下を過ぎった。
「…は?」
何処を狙っているんだ、という疑問が立ちこめる中、
1人の少女の叫び声が上がった。
「——————————ムシェル!!」
少女がそう叫んだ時には既に時は遅かった。
背の高い彼女の視界は、瞬間の内に燃え滾る赤に染まる。
(ま…さか——————————!!!?)
気付くまでの時間が遅すぎた。
最早手遅れで、気が付いた時には完全なる赤に染められていた。
「ぐ…あぁぁぁぁ——————————!!!!!!」
痛い感覚が彼女の体中を覆い尽くす。
火傷どころの問題ではなかった。…そう、“燃焼”の世界。
命辛々炎から抜け出した彼女は最早全身が焦げていて、とても立っていられる状況ではない。
勿論、そのまま戦い続ける事は不可能だった。
一瞬の内に逆転をし、サボコロはその炎の中から嫌悪に満ちた顔で現れる。
上がる歓声、響く叫び。
会場に残されたのは、たった1人の敵。
水色のサイドポニーのその少女はまた無表情に戻り、まるで鳥が降り立つように、地面に着地をする。
「マジで死ぬところだったんすけど」
「知るか。命を助けられた事に感謝しろ」
「…可愛くねー奴」
レトもあまりの状況に目が点になっていた。
つまり、こういう事である。
エンがじっと眺めていたのは、サボコロの正確な位置。
それと突き刺さった無数の羽の位置を確認し、弓を構えた。
ムシェルではなくその真下にいたサボコロの上ギリギリで射切り、その瞬間のうちにムシェルの背後に回る。
そして暇もなく炎撃を繰り出し、後ろからムシェルの体毎包み込んだ。
“真閃”というのは、定めた位置に必ず届くという必殺の次元技。
それはとても正確な位置を把握していないと豪い事になるという。
それが故に強度も高く、その速さも並ではない。
今回の状況だったからこその次元技だった。
「…ムシェル…を、やるなんて……怖いです…」
「さぁ、あとお前1人だぜ!!!」
「降参しても良いぞ」
エンの言葉を聞いて、ファイは未だ無表情のまま固まっていた。
然しその目に恨みや悔しさはなく、唯。
「——————————、そんな事はしません」
必ず勝つという“自信”で、満ち溢れていた。
あの表情の奥に一体何があるのかは知らない。
然し本人はこう思う。
必ず勝ってみせる、と。
ファイは自分の背中に手を当てる。
そして冷たい感触の走るあの“焼印”を、もう1度戒める。
唯勝つ事だけを望んで今まで生きてきたファイは…大きく翼を広げた。
そのままふわり…と浮かび、再び空中に舞う。
(——————————……負ける訳には…いきません)
だって、そうファイは続ける。
「——————————あの人に……、そう誓ったのだから」
誓いを果たすべく水髪の少女は、もう1度2人を見る。
そしてサボコロとエンの2人も又、天を仰ぐ。
互いの譲れないモノを賭けた戦いが、まだ続く。