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- Re: 最強次元師!! ( No.868 )
- 日時: 2012/01/01 23:11
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: DxRBq1FF)
第212次元 喧嘩再来
『ねぇ、ママ——————…遊んで…?』
母のエプロンの端を小さく摘んで、1人の少女は笑った。
今はもう失った感情を、鮮明に思い出した。
母はゆっくりと微笑んだ。然し、やる事が残っているから…後でね、と笑いかけた。
少女はまた笑う。うん、と小さく頷く。
————————————そして。
「——————————ッ!!?」
水色に染まる髪の毛をサイドポニーに結い上げた少女は、突然体を丸めた。
背中に刻まれた焼印が、まるで瞬間的に焼けるような痛みを帯びる。
電気が走る、というのに似た表現のその痛さを感じ、ファイは顔を顰めた。
昔の記憶を思い出す度に、あの日の痛みが蘇る。
二度と体験したくない、苦痛だったあの瞬間。
全ての人間を恨んだ、あの日。
「余所見すんなよサイドポニー————————!!!!」
轟!!、と唸りを上げて炎の龍がファイに襲い掛かる。
気を取られていたせいもあり、反応が遅れたファイは咄嗟の行為で翼で身を包んだ。
「——————————紫ノ刃!!!!」
ファイの翼が一つに束ねられ、鋭利な刃物と化したその時。
電光石火の如く、ファイが音速にも負けぬ速さで急降下してきた。
「ぐ…あぁ——————!!!」
その翼の先で切り裂かれた右腕を抑え、サボコロは膝をつく。
ファイはそのまま浮上し、次元技を解く。
「…っ…はぁ…」
炎撃で攻撃された体を抑え、ファイは息を整える。
エンは膝をついたサボコロを見て己も弓を構えた。
「く…ッ——————————、複閃!!!!」
多数の矢を放ち、エンはファイの視覚を奪う。
ファイは全ての矢を華麗に避け、そのまま一回転をした後に低空飛行になる。
大きく翼を動かし、改めて会場を見渡した時。
「————————————ッ!!!?」
エンとサボコロの姿が、そこになかった。
「炎砲————————!!!!」
そして突如、サボコロの声が響き渡る。
十大魔次元の中では最速を誇ると呼ばれる技、“魔砲”。
サボコロは炎皇の持ち主な為、業火なる炎砲を放つ。
何処から放たれたのかも分からない不意打ちの一撃を、ファイは全体で受け止めてしまった。
流石のファイも避ける事ができず、その場で地に足をつく。
靴底の足音を鳴らして、2人の少年はファイの目の前に立つ。
「降参した方が良いんじゃねーの?お前強いけどさぁ」
「惜しいが、それが最もな意見だ」
ファイは奥歯を噛み締める。
痛いくらいに、自分を戒めるくらいに。
悔しいという感情だけが自分の中に溢れ出す。
そしてファイは、小さく唇を揺らして。
「……——————————ちに…」
「…?」
「貴方達に————————私の気持ちなど分かりません!!!!!」
先程まで小さな声で囁くように話をしていた少女の口調が、途端に変わる。
僅かな涙が彼女の目に溜まっていたような、そんな気さえする。
エンとサボコロがその表情に一瞬の隙を見せた、その時。
「第八次元発動————————————」
彼女の表情は、何一つ変わることなく。
「————————————紫裂晶!!!!」
彼女の指した指先にはエンとサボコロがいて。
まるで突き出されるように、幾つもの水晶が地面を破り、現れる。
氷を叩くような音が響き、その紫に光る水晶は、見事2人の足場を捉えた。
そして、サボコロはその水晶の1つに足を挟まれてしまった。
「な、ん…——————!!!」
これは氷ではなく、水晶。
溶ける事のない物質に足が巻き込まれ、身動きなどとれなかった。
かと言ってエンが動けるという訳でもない。
周りには無数の水晶が地面から突き出し、エンとサボコロの逃げる術を失わせていた。
「私は…負けなど……しません…」
ファイはゆっくりと立ち上がり、そう強く言い放つ。
その強い眼光と口調に、先程まで余裕をかましていた2人の表情は変わる。
脅威の逆転に、会場もしんと静まり返る。
「や、べぇ…っ」
「余所見をしているからだ、この阿呆!!」
エンは周りに出現した水晶に捕まりながらサボコロへ言い放つ。
その一言に反応したサボコロは一瞬眉毛を動かした。
「はぁーっ!?突然の事に対応できなかっただけだろうがッ!!」
「人より優れた英雄大六師を持ちながらその程度か、笑えもしないなこのド阿呆」
「ド…ッ!?じゃあてめぇなら避けられたのかよこのチビ!!」
「…!?あぁ、少なくとも貴様のような宝の持ち腐れではないからな、当然だろう」
「んだとこの野郎!!表出やがれ!!!」
「なんなら今ここでケリをつけるかッ!!」
敵が目の前にいるというのに、2人の喧嘩は再来。
又も呆れるレトとキールア。レトは2人の目の前に佇むファイへと目を向ける。
何処か憂いを感じさせるその表情に、レトは暫し頭を悩ませていた。
力も心も感じさせない、表情も感情も表さないあの瞳。
「チャンス…ですね……」
ぼそり、とファイは呟く。
そしてゆらりと腕を持ち上げた。
「…!!?あのバカ達気付いてな——————ッ!?」
レトは小さくそう咄嗟に呟いたが、既に遅かった。
「——————————、落星!!!!」
紫の雨が、2人の頭上から突如降ってくる。
それは鋭利な雨で、とても人間が避けられる程の速さではなかった。
「炎弾——————ッ!!!!」
サボコロは咄嗟の判断で炎弾を発動する。
然しそれは溶かす為ではなく“弾く”為。
溶ける事のない水晶には炎の温度は関係ない。
それを先程教わったサボコロは、必死に目を凝らして雨を弾く。
一方のエンは紫裂晶の影に隠れ、腕で頭を覆い待機。
とても相手を見る隙はない。
「く…ッ、これでは狙う隙が……っ」
唯一遠距離戦が得意なエンでさえ、鋭利な刃物の雨に立ち向かう程の勇気はない。
加えて相手は“次元唱を唱えなくても技の発動ができる者”。
あれはある程度の力量を持った次元師にしか出来ない高度な技術。
結論、今この場でエンには待機以外の選択肢はないという事になる。
(私…には……負けられない理由が、ある……)
ファイは思い出す。
あの人の姿。あの人の声。
自身に希望を与えてくれたあの“笑顔”を。
「私は…負けません——————————」
ファイは1度口を閉じて、
言葉を紡いだ。
「——————————、そう…あの人に誓ったの…だから」
(そう……——————————ルノス・レヴィンに)