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Re: 最強次元師!! ( No.873 )
日時: 2012/01/08 19:35
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: aaUcB1fE)
参照: http://loda.jp/kakiko/?id

第213次元 翼

 
 ——————————これは、私が幼かった頃の話。



 
 私は…小さな村に住んでいた。
 父と母と、妹と弟と…私。
 5人家族だった私。例え貧しくても、楽しかった毎日。



 『ま、ま——————?』



 どうしてかは、未だ分からない。
 唯私は…怯えてた。
 

 『ごめんねファイ…これが運命なの』


 そう——————————、焼印。


 『どうして…?い、ぃやだよ……どうして——————ッ』


 シェンランド王国。
 その支配下にあった私の村で…ある事が義務付けられていた。
 そこの住民は必ず体に焼印を入れる…という事。

 焼印なんて、痛いなんてものじゃなかった。
 まだ小さかった弟と妹はそれだけで体がボロボロになって、
 必死になって抵抗したせいで死刑。
 
 私の家族はいつの間にかいなくなっていた。

 怖かった。
 この廃人の生活も、誰1人知らない世界も。



 「何だァ?お前らちゃんと働けよ!!!」

 貧富の差が激しくて、無銭で働かされる日々。
 王国にいた人達が毎日のようにこの村にやってきた。

 廃れた村。支配下に置かれたその日から、変わってしまった私達の村。
 この時から…私は“感情”というものを失っていた。
 
 「…おいそこの女」
 「……」
 「お前だっつってんだよ!!!」

 振り向けば、そこには王国の人がいて。
 私はその人の事を…きっと嫌な目で見つめていたんだ。

 「何だよその目。歯向かったら命はねぇっつってんだろ?あァ!?」

 人の親を餓死させといて…良くもまぁそんな事が言える。 
 私の大事なものを…奪っておいて。

 「生意気だなァ?少しは口でも聞いたらどうだ?」
 「…必要性を感じません」
 「お前————————、死にてェのか!!!」


 死にたい…? 
 そう…できるなら、私は今すぐ死にたい。
 死んですぐに————————、家族に会いたい。

 

 多分この時が…私の感情が昂ぶった、絶頂の頃だった。 
 そうだって————————殺したい程憎んでたのだから。


 「次元の扉——————、発動」


 私は…そう。
 ——————、次元師だったんだ。

 
 「な…なんだ、よその翼————————うあァァァッ!!!!」

 
 
 「————————私はもう…何もいらない」




 何もいらなかった。
 家族さえいれば、何もいらなかったのに。

 「な、何だ…?」
 「あっちでなんか爆音が鳴ったぞっ」 
 「様子を見に行こう」


 その後私は自分で何をしたか…もう覚えてない。
 でもこれだけは分かる。 
 最初に次元技を発動した時…私にはもう理性がなかった。


 人間としての感情も、
 廃人としての目的も。


 自分で気がついた時にはもう…村は壊滅していた。
 残りの廃人達は何処か遠くへ逃げ、王国の人々は引き上げた。
 自分でした事だったと気付くまで…一体何日掛かっただろう。

 
 本当の本当に、独りになった私。
 行く宛もなくやる事もなく。
 いっそシェンランド王国を襲って、国ごと潰してしまおうか。
 そんな事も考えたけれど…後になって面倒くさい事に気が付いた。


 
 ——————だから、あの人に出会った時は驚いた。




 『君…1人?』

 『……そうです』
 
 『じゃあ俺と一緒にいない?俺、そういう子放っておけないんだけど』

 『人と関わるのが、好きではありませんので……遠慮、しておきます』

 『小さくて可愛くて…序に次元師なのに?』


 そう、ルノス・レヴィンに。


 『良いからおいでよ…俺は裏切らないよ』



 彼は、本当に優しい人だった。
 彼も私同様次元師で、幻覚を使う次元師。
 何度も何度もその幻覚に騙されて遊んで……正直楽しいとさえ思っていた。 
 1度は失くした感情が、湧き上がってくるのを感じた。

 
 『貴方と遊んでいるのは…楽しい』
 『そう?、そうだと嬉しいけど』
 『うん……』

 
 彼は次元師の極意やら何やら…沢山の事を教えてくれた。
 まるでお父さんみたいに…。
 凄く凄く、優しくて強い人だった。

 
 『なぁファイ』
 『…?』
 『もう…独りになったりすんなよ?』
 『……どうして?』
 『独り程寂しいものは…ないからだよ』

 彼…ルノスは語ってくれた。
 自分の過去を。
 
 『……分かった…』
 『あと…誰にも負けない強さを…お前にも知ってほしい』
 『誰にも負けない…強さ』
 『うん……、それを見つけられたら、お前はもう独りで悩む事はないよ』





 それが彼の最後の言葉。
 彼はその翌日…私の目の前から消えた。

 メッセージを残して。



 『ファイ…ごめんな。
  俺には、もっと大切なものができちまった。
  お前の事…ずっと傍で見ていたかったけど…。
  
  ファイ…自信もっていいよ。
  お前は何かを失った時、どうすれば良いかをもう知ってる。
  
  本当の強さを…見つけろよ』


 
 もう何にも負けないと。
 そう、心から誓った。

 自分にも、心にも。
 
 
 『強く……なる。……本当の、強さで…』


 独りに、慣れない事。
 それを教えてくれたルノス。
 
 その後私は沢山の人と出会い、戦い、共に時間を過ごした。
 これはきっと…ルノスからのプレゼントなんだと、そう信じたい。





 
 ————————————————だから。



 
 「終わりです……もう、負けないと誓ったから…っ」

 ファイは2人の少年に向き直る。
 苦しかったあの日々を。楽しかったあの日々を。
 思い出して、噛み締めて——————、そして。


 「サボコロ!!エン!!!、ちゃんと前見——————————!!!!」


 レトが再び大きく叫んだその時にはもう、
 ファイの腕は動いていた。



 「もう2度と————————————」



 ファイは、その蒼い眼光で——————、もう1度誓う。


 
 「————————————、翼は畳まないッ!!!!!」



 もう二度と、独りにはならない。
 もう二度と、彼の言葉を忘れない。
 



 「「————————————ッ!!!?」」



 2人が気付いた時にはもう————————遅かった。


 
 「紫踊大裂星————————————!!!!」


 
 幾つもの紫の羽根。
 それが踊るように、2人の体を引き裂きながら舞う。

 それはまるで踊る妖精のように。
 然し残酷に————————少年達の信念を砕く。