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Re: 最強次元師!! ( No.875 )
日時: 2012/01/09 20:14
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: aaUcB1fE)
参照: http://loda.jp/kakiko/?id

第215次元 “本当”の次元技
 
 (寒…っ、ていうか……苦しい……ッ)

 薄暗い箱の中。
 キールアはきょろきょろと辺りを見回していた。
 時間が経つだけ酸素が薄くなり、次元技も使えない今では如何しようもなかった。
 壁を叩いても意味はない。次元技は普通の人間に壊す事のできない絶対な力を持っている。
 
 「さて…彼女が死ぬのはあと何分後でしょうか?」
 「くそ……ッ、やっぱり棄権させとく冪だった…!!!」
 
 キールアは突然に口を塞ぐ。
 どうやら酸素が徐々に薄れ始めたらしい。
 寒く、苦しく、暗いこの空間は、キールアにとっては最悪な状態だった。
 現状なまだ薄いながら酸素は残っている。
 このペースで酸素がなくなっていくと、キールアが耐えられるのはあと30分程度だろうか。
 
 (どうする…?このまま時が経っても空気が薄くなるだけ…。でも次元技が使えないと……どうしようもならない…っ)

 キールアは立ち尽くしたまま考えた。
 今の自分は次元師ではあるが、次元技は使えない。
 元力を使い果たした以上元には戻れない。
 薄れ行く空間の中色々と考えを巡らしていた——————、が。



 「さて…————————、これからが本番ですよ?」

 

 ルルネは再び微笑んだ。
 嫌な笑みで、楽しそうに。
 その表情に気付いたレトは箱を見つめる。



 キールアは未だ箱の中でふらふらと動いていた。
 そろそろ10分が経過する。
 酸素と比例して、意識までもが薄れていった。
 キールアは苦しみのあまりその場で倒れ、這い蹲って息をしていた。

 (本当に…苦しい……あたしこのまま…どうなるんだろう…?)

 今の自分は唯の人間。
 次元師に勝とうだなんて夢のまた夢。 
 それでも、例え足手纏いでも役に立ちたかった。
 キールアはそう思いながらぎゅっと拳を握る。

 (ロクを…ロクを救うんだって……決めてたのに…ッ!!)

 こんなところで挫けたくない。負けたくない。
 キールアはゆっくりと立ち上がったが、喉に何かが詰まり、再度膝をつく。
 まるで何年も賭けて築いてきたモノを、崩すかのように。

 「ご…、め……レト……っ」

 キールアの瞳には、自然に涙が溜まっていた。
 ロクは何度も自分の事を救ってくれた。
 初めての友達になってくれた。
 家族を亡くして絶望の淵にいたキールアに、手を差し伸べてくれたのに。


 
 (…————————私には、何もできないね…っ)



 次元師としても人間としても。 
 ロクを救う事はできない。
 この状況で…キールア自身に勝ち目はない。

 如何すれば良かったのだろう。
 レトの言う通り、素直に棄権をすれば良かっただろうか。
 いつも自分の選択は…自らの首を締めていた。

 ロクやレトはそういう事をしないのに。
 きちんと考えて、行動するのに。
 自分は…2人とは違った。

 強くない。2人のように、誰にでも、何にでも打ち勝てるような2人には追いつけない。
 そんな2人の後姿を…一体何度見てきたのだろう。

 

 自分が、ロクに手を差し伸べる事はない。
 ロクは自分に、優しく手を差し伸べてくれたのに。

 
 『友達に…—————なろうっ?』


 凄い雨の日だった。川も荒れてて寒い日だった。 
 それでもロクは、自分の大切な本を探してきてくれた。
 とても素直に——————、自分に笑ってくれた。

 今まで自分は何をした?
 ロクに対して何かしてあげた事があっただろうか?


 レトの夢を崩したくない。
 ロクの姿を失いたくない。


 いつだって自分は——————————————、そう望んでいたのに。





 「強くなりたい、って……思って、た…の…、に……ッ!!」


 キールアは思う。 
 この苦しい中、息も出来ないこの状況で。
 たった2人の大事な人の為に何ができるか。
 
 あの2人の笑う姿を見たいと望むのは——————————、不可能なのだろうか。

 
 
 「キールア!!!、棄権しろ!!!、もう良いから棄権してくれ!!!」

 レトは叫ぶ。
 幼馴染の苦しむ姿をもう見たくなくて、必死に叫んだ。
 手すりに捕まって、必死になって叫んだ。
 届け、届けと…強くそう思いながら。

 
 (ごめんね…レト。あたし、今…やっとレトの気持ちが分かったよ……)

 自分は今までずっとレトのような状態だった。
 傷ついてほしくないから、ずっと不安で仕方ないから、戦わないでって。
 心の奥底からそう叫んでた。
 でもレトはきっと…こう思ってた。

 譲れないんだって。
 きっとその思い以上の決意があったんだって。
 
 だからレトは…逃げたり、戦いを放棄した事はなかったんだ。
 キールアはふっと笑った。
 レトの気持ちが分かるようで…とても優しげな笑みを浮かべた。
 
 

 そう笑ったその瞬間——————————、





 『————————————————————強く、なりたい?』



 
 
 頭の中で、もしくは心の中で。
 幼くも凛とした声が響く。


 (だ……だ、れ……?)


 息も絶えるその寸前。
 キールアは心の中で問いかけた。

 
 『強くなりたいかと聞いているの…答えて』


 強きで、それでいてしっかりとした声。
 声の主の質問に、キールアは迷わず答えた。
 
 (なり、たい……、強く、強く……なりたい……ッ)

 追いつけなくていい。
 何度傷ついても構わない。
 
 唯キールアは…願った。

 例え弱くても役に立ちたい。
 些細な事でも力になりたい。



 
 『そう、じゃあ——————————————覚悟を決めて』

 (……————ッ!!?)

 『貴方は二度と防御型には戻れない——————————それでも構わないというのなら誓いなさい』

 

 もう二度と援護側には戻れない。
 それはそう、自分が戦いに混ざるという事。
 戦闘に…命の賭けた戦いに挑むという事。

 今よりずっと前のキールアだったなら…きっとそれを拒んだ。

 然しあの頃のキールアはもういない。
 あの頃の弱くて、臆病なキールアは何処にもいない。

 いるのはそう————————、強い覚悟を持った“今”のキールアだけ。

 

 (あた、しは…助けたい……っ)

 『……』

 (世界でたった1人のあたしの大親友を——————————救いたいッ!!!!)


 あの時から、あの瞬間から。
 キールアとロクは最高の大親友だった。
 それはそう、まるで出会う事が運命だったかのように。
 

 『良い答えね——————————、さぁ叫びなさい』

 (え、ぁ……な、にを……っ?)

 『貴方の“本当”の次元技は【慰楽】じゃない————————本来の次元技の名を叫びなさい!!!』


 
 キールアの心臓は高鳴った。
 それと同時に意識まで抜けていく。

 それでも、きっとそれでも。
 キールアは全力で立ち上がる。

 眩暈がして、吐き気がして。
 頭痛がして、意識が失せて。


 それでも必ず立ち上がる——————————————、あの2人の真横を歩きたくて。




 「次元、の扉……——————————発動!!!!!」




 叫べ、叫べ。
 本当の次元技を。本当の気持ちを。

 世界で1番大切な大親友の為に——————————今、力を呼び覚ます!!




 「————————————————、百槍!!!!!」



 
 
 まるでそう、ロクに届けるように。
 伝えるように——————————キールアは叫んだ。