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Re: 最強次元師!! ( No.876 )
日時: 2012/03/29 22:29
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 5E9vSmKZ)
参照: http://loda.jp/kakiko/?id

第216次元 透箱

 途端の事だった。
 ドーム状の箱の隙間から、眩い光が強く漏れる。
 それに何だ何だ、とざわめく観客達。
 然しこの場で一番驚いていたのはルルネ・ファーストだった。
 
 「な…何です!?」

 その光は次第に強さを増して、この場全体を包み込む。
 時間に隙もなく、多大な爆発音と煙が立ちこめる。
 ルルネは腕で顔を覆い、僅かな視界の中煙の中にいる少女に目をやった。
 そこにいたのは、重そうな銀の槍を持った金髪の少女。
 金色の瞳はルルネを捉え、その細い腕で槍の柄をしかと握っている。
 銀の槍の柄の先には紫色のリボン状の物が2つ、ひらひらと舞っている。
 彼女は不安定な体を引き摺るように、一歩一歩ゆっくりと近づいてくる。
 少女の名は、キールア・シーホリーだ。

 (こんな土壇場で…————在り得ないですよッ!!)

 ルルネは厳しい顔つきでぎゅっと拳を握り締める。 
 予想もしていなかった展開。
 まさか唯の人間が、次元師として覚醒するなんて。

 然し、それが人間の怖い所であるのも知っている。

 実際殆どの次元師が、“土壇場で次元の力に目覚める”のだ。
 人間は窮地に追いやられた時、その能力をフルに発揮するという。
 それがどんな状況下であったとしても。
 精神的なものに関わってくる“次元の力”は、人間の精神力に大きく関わってくる。
 だからルルネは逆にキールアが次元の力に目覚めるチャンスを与えてしまった事になる。
 面倒な事になった、とルルネ本人も心の内で後悔した。

 「まさかこの土壇場で次元の力に目覚めるとは……流石予選を勝ち抜いてきただけはありますね」
 
 キールアは無言のまま立っていた。
 唯じっとルルネを見据え、丁寧に丁寧に呼吸を繰り返しているだけ。
 先程まで無酸素空間の中にいて、今やっと呼吸が戻ってきたと言ってもいい。
 キールアはそれだけ意識が失せていた。
 今も少し体が震えていて、不規則な呼吸な乱れも未だ整ってはいない。
 覚醒したと言えど、次元を手にしたばかりではとても戦えない状況だった。

 「これが…あたしの本当の次元技……」

 キールアは今一度槍を見つめた。
 慰楽とは違う、本来自分が持つべき次元技。
 冷たくも強く凛々しい形——————そんな風に思えた。

 「は、はは…、今持ったばかりの次元技で勝てるだなんて思わない事ですよ?」
 「…思ってないよ」
 「…っ!余裕をこいていられるのも——————今の内ですッ!!」

 ルルネ・ファーストは両手を華麗に天へ向ける。
 キールアも負けじと一歩手前へ下がった。

 「————————、隠妨!!」

 その両手を前へ突き出した途端、瞬く間にキールアの周りを箱が囲む。
 自分の背丈より大きめのその箱で、完全に景色が遮られた。
 そのせいで相手の姿も確認できなくなる。

 「どこを…—————見てるんですか!!!」

 後方から声がしたと思い振り向けば、遅かった。
 キールアは足の脛を勢い良く蹴られ、そのまま後ろへ滑り転がってしまう。
 どうやらルルネは肉体戦も出来るらしい。
 キールアは槍を使って立ち上がった。
 
 「…どこから来るかも分からない恐怖を、味わえば良いのです!!」

 まるで箱から声がするようにも聞こえる。
 さっきの空間の中で大分体力も精神力も削ったキールアにとって、今の状況は不利に等しい。
 それに加え相手は次元唱無しで次元技の使える、代表者候補だ。
 決して易しい相手ではない。

 「——————、こっちです!!!」

 さっき同様、キールアは即座に振り向く。
 然しそこに、声の主はいなかった。

 「え…——————」

 確かに声がした、筈だった。


 「現出——————!!!!」


 次元技を唱える声が、別の方向から鳴り響く。
 さっきの声は“フェイク”、キールアの耳を騙す為の作戦に過ぎなかった。
 体力の戻らないキールアを逆に利用した事になる。

 「う…あぁぁぁぁ————ッ!!!」

 咄嗟に腕を構えたキールアは、爆撃に巻き込まれふっ飛ばさせる。
 確実に体を打ちつけているのに、煙の中では影が動いていた。
 キールアは、もう一度立ち上がった。ふらふらの体で、もう一度。

 「…まだ立ち上がりますですか」
 「まだ…終わって、ない……ッ」

 ふーん、とルルネはすかした態度のまま立っていた。
 まるでキールアの事を相手だと思っていない態度で。

 「まぁ…足掻くのは良いですけど、どれだけもちますでしょうか?」
 「………」
 「所詮はまだ次元技を使いこなせていない素人……どうせなら、私の“遊び相手”ぐらいにはなってもらいますよ?」

 その言葉にキールアは下唇を強く噛む。
 然しキールアはまだ、一度も反撃をしていない。
 いや、“反撃ができない”と言った方が正しい。
 キールアにはそれだけ体力が残されていなかった。
 必死に考えて、悩んで、それでも届かない。
 どうすればレトに繋げられるかと、キールアは必死の想いで考える。

 「第七次元発動————————、透箱!!!」

 キールアの周りを、白く透明な箱が包み込む。
 ガンガンッ、と拳を握り締めて叩いても、まるで傷一つつかなかった。
 そう、キールアはその空間に閉じ込められたのだ。

 「やめた方が良いですよ?それ、内側からでは攻撃できないので」
 「…ッ!?」
 「さぁ……楽しい時間の始まりですよ?」

 す…っと片手を空に向かって伸ばす。
 ルルネは少しだけ微笑んで、その片手をキールアに向けた。

 「——————————現出!!!」

 先程とは威力もスピードも違う現出が、キールアの目の前に現れる。
 然しこれだけ硬い壁があって、何故次元技をこちらに向けた?
 それでは壁に当たって攻撃は当たらないと、キールアは常識的に判断する。
 彼女がそのトリックに惑わさていると、ルルネはふっと口元を歪ませた。


 「—————————え?」


 ルルネの次元技は、透明な箱を“すり抜けた”。


 「キャァァァァァァ——————!!!」

 見事に捕えられているキールアには直撃するも同然。
 がくりと、キールアは狭い箱の中で膝をついた。
 くすくす…とルルネは変わらぬ表情で笑う。哂う。

 「その次元技は内側から攻撃が“できない”。それに加え外からの攻撃は全て“すり抜ける”ようになってますです」
 「…く…ぁ…ッ」
 「貴方が幾ら抵抗しようと…透箱はそれを全て跳ね返し、外側からの攻撃を許す」

 最早キールアに、立ち上がるだけの力は残っていない。
 それどころか、絶体絶命の状況に追い込まれてしまった。

 「楽しませて下さいよキールア・シーホリー——————————、でないと貴方は死んでしまいますですよ?」