コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 最強次元師!! ( No.877 )
- 日時: 2012/05/03 18:02
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 5E9vSmKZ)
- 参照: http://loda.jp/kakiko/?id
第217次元 繋げる想い
立ち込める煙の中で、1人の少女は膝をつく。
然し彼女は透明な箱に閉じ込められたまま。
ガラスにぺたっと手をついて、膝に手を乗せ俯いていた。
「まぁ…所詮はこんなもんですよねー……ったく、梃子摺らされましたです」
次元技を連続して使う事により、その力の消費量は半端ではない。
然しルルネ・ファーストもここまで勝ちあがってきた選ばれた次元師。
流石にその程度の疲労で疲れる相手ではなかった。
(ダメだ…どうすれば……ッ)
キールアは、銀の槍をぎゅっと握り締める。
先程手にしたばかりの自分の本当の力。
然し使い方がいまいち分からない。
今もまだ、手に持っているだけで一度も使ってはいない。
「…? どうしたです? その次元技で私に対抗すれば良いのでは?」
「……そうし、たいのも…やまやま、なんだけどね……っ」
ふーん、と適当な返事をしたルルネは、キールアから少し離れた位置にいた。
だがルルネはそこから一歩、一歩ずつ、進んでいく。
楽しそうな彼女の笑顔、然しキールアにとってはその笑顔が恐怖を与えるものにしか見えない。
ルルネは、足を止めた。
「もう少し楽しめるかと思っていましたのに…残念です」
「……」
「そろそろ終わりで、良いですか?」
ルルネが頭を揺らしてキールアに向かってそう言い放つ。
キールアの呼吸が、その時丁度整った。
きゅっと、もう一度槍を握り締めて立ち上がった。
(折角手に入れたこの力——————、使わない訳には、いかない)
キールアは、ふと辺りを見渡す。
そういえば、さっきの声の主は何処へ?
そんな事を考えているうちに、キールアは誰かの溜息によってびくっと肩を震わせる。
『こんな時に生かさないで何の為の力? 無駄ね』
「「——————————ッ!!?」」
突如、そんな声が聞こえた。
これはキールアが大きな箱の中で聞いた声。
心に直接届いた、あの声の主。
ルルネも同時に驚きを見せ、少し眉を歪ませる。
「だ…だれっ!?」
『今はそんな説明してる場合じゃないでしょう。さっさと槍を振るいなさい』
「で、でも…ッ!!」
『でもじゃない、その程度の覚悟だったなんて…呆れるわね』
「な、何だか良く分からないですけど…——————これで終いです!!!」
バッ!!、とルルネはキールアへ向かって腕を伸ばす。
慌てふためくキールアは、もう一度深呼吸をする。
できる。自分ならこの状況を奪回する事ができる、と。
「第六次元発動——————————!!!」
ルルネの声が会場に響き渡る。
キールアはもう覚悟を決めた表情で、
(そうだ…————————、こんなとこで負けてられないんだった!!!)
キールアは、唱える。
「第五次元発動————————————、一閃!!!!」
ガラスに矛先を向けたその銀の槍に、ルルネの腕はぴくりと動いて停止する。
ガガガッ、とガラスの表面を削り、その力は箱を突き抜けようとまでしていた。
「そ、そんな…在る訳ない、ですよ……ッ」
キールアの槍が、勢いを増して突き進んでいく。
(だって、ついさっき手に入れた次元技————————)
銀の槍の矛先は、絶対の強度を誇る箱を——————ぶち破る。
その槍が更に向けられた先は——————ルルネ・ファースト。
「うあぁぁぁああぁぁ——————!!!!!」
百夜の槍術師は、唸る。
見事にルルネの腹部へ命中した槍は、その先端を赤に染めてキールアの許へ帰った。
七次元の技を打ち破った、己の力。
本人さえも非常に驚いていた。
「で、きた……」
『恐怖を捨てれば問題はないわ。…ったく世話焼かせるわね』
キールアはもう一度、もう一度相手を見る。
ルルネはボロボロになりながら、尚立ち上がる。
(攻撃力は然程ない…、でも)
絶対的な、“スピード”。
百槍の特徴でもあるスピードは、英雄大六師の中でも上位。
それに加えて七次元の技に五次元で打ち勝つ事のできる技の威力。
それは今までキールアが重ねてきた努力もあるが、次元技自体も相当鍛え込まれていた。
ルルネは口元を腕で拭う。
「はは…、また土壇場、ですか……」
「……」
「……もう、良いです」
冷たくも、まるで感情のないようにも聞こえた小さな言葉。
ルルネはふらっと、体を不安定に動かす。
「もう絶対許しません…——————、一撃で決めてみせます!!!」
ルルネの瞳が闘志を帯びる。
その瞳は、全てを捨ててでも勝利を手に入れようとする強欲の瞳。
「————————現出!!!!」
突如、キールアの下から現出が出現。
その勢いに乗って、キールアは思い切って何もない上空に弾き飛ばされた。
(まずい…この状況で攻撃されたら…!!)
自分が持っているのは重たい銀の槍。
そして自分の居場所は空中。
もしもこのまま下から攻撃をされたら避ける術がない。
「第八次元発動————————————、喰い箱!!!」
彼女がそう叫んだのと同時。
地面から突如現れたのは、“大きな口を開けた箱”だった。
ガチン、ガチン、と歯を上下に動かしキールアが降りてくるのを今か今かと待っていた。
あんなものに噛まれたが最後。
確実に生きて帰れそうにもない。
「さぁ叫びなさい————————可憐なその声で啼くのです!!!」
キールアにあるのは、ついさっき得たばかりの力。
それは千年前、英雄として戦った少女の形。
キールアは、その気高き槍を下へと向けた。
「キー…ルア…!!?」
レトはガシャンッ、と手すりを勢いよく掴む。
高鳴る鼓動。込み上げる不安。
彼女は一体何をしようとしているのだろう、と。
レトの脳裏に疑問が過ぎった————、その時。
「ごめんね…————レト」
そう、小さく呟く金髪の少女。
彼女の瞳に弱さや怯えはどこにもない。
「例えこの体が砕けようと、動けなくなろうと————————あたしは貴方に繋げたい!!!」
「…——————ッ!!?」
落ちる速度は上がっていく。
金髪の少女はもう一度強く、槍を握り締めた。
「第七次元発動————————ッ!!」
ルルネ・ファーストはこの時初めて恐怖を目の当たりにする。
こんな状況下で、決して諦めない心。
その決意と眼差しに——————、初めて敗北を感じた。
「————————————————、堕陣必撃ッ!!!!」
物凄い速度で、大きな口を開けた箱の中へ入っていった。
その後間も無く爆音が鳴り響き、会場中を煙が包み込んだ。
喰い箱は勿論跡形もなく消える。そして、傍にいた少女さえも。
最後に立っていたのは、銀の槍を持つ少女。
金髪の髪を無造作に揺らした——————シーホリーの娘。