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Re: 最強次元師!! ( No.882 )
日時: 2012/08/23 18:44
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: hsrPOuX9)

第220次元 魔竜

 「岩砲——————!!!」

 リフォル・アーミストの攻撃が真正面へ向かってくる。
 先程と同じ展開だろうか。レトヴェールは大きく剣を、後ろに構え。

 「——————斬り払い!!!」

 岩の砲撃へ向けて、思い切り剣を振り切った。
 色素の薄い真空波はその岩砲に当たり、

 「————ッ!!?」

 その岩を見事、“溶かす”。

 「な、なんだ……その技は……!!?」

 リフォルは一瞬退いた。
 目の目に広がるのは、岩が溶けたかのような痕。
 レトは、ふっと一度双斬を振り払った。

 「それは斬り払いっつってな。次元唱無しで術が使えるようになった時、新しい能力を発揮しやがったんだ」
 「新しい……能力、だと?」
 「あぁ、“一般的な物体であれば、好きな形状に変えられる”ってやつだ。
  ……まぁ使い慣れてねぇから、まだ石とか地面を溶かすくらいしかできねぇけどな」

 レトは、へへっと笑った。
 リフォルはその表情に、一度眉を動かす。
 勝負しているのに、何故笑っていられる、と。

 然しそれが義妹の面影でもある事を、彼は知らなかった。




 
 「これは……面白い展開ですね」
 「……」
 「元力の問題的に言うと、このままだとリフォル君が勝ちそうですけれど……ファイちゃんはどう思いますですか?」

 観客席での事。
 全身を包帯でぐるぐる巻きにしているルルネ・ファーストはくるっと振り向いた。
 視線の先にいるのは、ファイ。
 たった1人で男の次元師2人に見事打ち勝った少女である。

 「……私は……その……」

 ファイは、一度唇を閉じた。
 まるで言いたくないとでもいうように。

 「何です?」
 「次元師に大切なのは……“精神力”、ですから……」
 「……だ、だから何なのです?」
 「そういう面では……あまり優勢とは……言えません……」

 そう、言い終えた彼女はぎゅっと手を握った。
 それは決して嘘ではない。
 ルルネは返事もせず、もう一度会場を見つめる。 
 そして、軽く息を吐いて、

 「まぁ確かに……そう思えば五分五分ですかねー」
 「いえ……そうでは、なく……」
 「じゃあ何です? まさか相手に肩入れしてるんですかぁ?」
 「リフォルさんと、彼では……背負うものが、違うんじゃないかな、と……」
 「……か、簡潔に言って貰えますですか?」
 「……リフォルさんは……負けるかもしれません……」

 その言葉を聞いて、ルルネはキッ、とファイを睨む。
 然しそんな表情にさえ動揺しないファイ。

 「リフォル君は勝ってくれますです。彼は我々チームの中で最強なんですよ?」
 「だから……です」
 「……?」
 「リフォルさんは、負けた事がない……それはきっと、大きな欠点です……」

 どういう事です? とルルネは尋ねる。
 そしてファイは、一呼吸置いて、

 「負けを知らない人は……一度でも道を迷った事のない人は……決して、強くないんです」

 自分がそうだったから、分かる。
 ファイはそう言っているようだった。
 家族を殺され全てを恨み、何度も地の果てで泣きじゃくり、悩んで迷い続けた彼女。
 だからこそ分かる事。それが負けを知らぬ者の一番の欠点。

 狂いなく人生全てに全身全霊を賭けてきた彼には、分からない事。

 ファイはただただ、自分のチームのリーダを見る。
 何て逞しい背中だろう。とても弱いとは思えない技術。

 然し彼女はこうも思う。

 レトヴェールの背中は、とても大きく見える、と。
 あの背中に全てを託したら、何故だか安心できるような。
 確信はないけれど、そう思わされる。

 ファイは少しだけ、笑った。







 「八斬切りィィ——————!!!!」

 レトは、岩の塊を打ち砕く。
 然しその残骸に隠れていたリフォルは、レトの背後から思い切り肘を落とす。

 「ぐはァ!!?」

 レトは、小さな岩に埋もれながら、その攻撃に声を上げた。
 そして前に体勢を崩す。然し彼は、地面に手をつける事なく、

 「十字斬り————!!」

 リフォルがいたと思われる方へ、思い切り剣を振るった。
 然し彼はそこにいない。ぱらぱらと崩れる岩の上に立ち、飛び回って足場を変えながらこちらを見ていた。
 レトはそれを確認して、後ろへ下がる。
 岩から華麗に着地する彼との距離は、僅か10m弱。

 (近くにいたから分かる……あいつの元力、並じゃねぇ……)

 あれだけ攻撃しておいて、彼は悠然と立っていた。
 蛇梅隊のような戦闘機関にいなくとも、彼はしっかりと戦闘経験を積んでいるようだった。
 それは多分、元魔と戦っていたのではなく、人間相手だったという事。
 レトの行動も、殆どを見切っている彼には小細工は通じない。
 それは分かっていた。

 「……そろそろ、終いにしようか」
 「……?」
 
 何かが、来る。
 レトはそう直感で感じ、双斬を構え直す。
 リフォルはふっと、目を閉じた。
 
 「我最強の技でいかせてもらおう」
 「————!?」
 「第八次元発動——————————岩竜!!!」

 途端、大地が揺れた。 
 何だ何だと観客がざわめき、徐々に地面が割れていくのが分かった。
 そして————会場から現れたのは。


 「————————竜ッ!!?」


 そう、岩で形取られた“ドラゴン”。
 大きな翼を生やし、巨大なその口で派手に叫ぶ。
 その怒号は全ての人を圧倒し、その牙は今正にレトへと向いている。
 十大魔次元の中で、最強の攻撃力を持つ“魔竜”。
 竜と化した岩の塊は、会場遥か高くで躍り舞う。

 「う、嘘……」
 「あんな、の……ありかよッ!?」
 「とてもじゃないが、敵うものじゃない……!!」
 
 キールアも、サボコロも、エンさえも。
 その竜の姿に唯驚きを見せるだけ。
 然しレトは言葉を紡ぐ事もなく。

 「……あれに打ち勝たなきゃ、始まんねぇ!!!」

 しかと、双斬を握り締めた。
 そしてその場から飛び上がり、一瞬のうちに竜の前へと姿を現す。

 「馬鹿な男よ……我最強の竜に喰い殺されるが良い——————!!!」

 リフォルは、天上へ向けてそう叫ぶ。
 それに応えるようにまた、岩竜も天へと吠えた。
 レトは体の目の前で双斬を十字に重ね、

 「第八次元発動————————十字斬りィィィ!!!!」

 竜に向かって、思い切り振り切った。 
 それは腕の力を全て駆使し、放たれた一撃。
 真空波が、岩竜にぶち当たって爆発音のような音を立てる————が。


 「え……!?」


 レトは思わず、言葉を失った。
 確かに、十字斬りは直撃した。それも一瞬の避ける間を与えず。
 然し竜は、その煙が晴れ、姿を現し、


 「オオオォォォォ————————!!!」


 無傷のままで、怒号を撒き散らかす。
 その巨体には十字斬りを受けた形跡すら残らない。
 そして。

 「今度はこちらの番だな——————岩竜!!!」

 リフォルは、岩竜に向けて叫んだ。
 地に落ちたレトは、咄嗟にその竜を見上げる。
 然し竜は、思いも寄らないスピードで急降下してきた。

 (やばい————————来る!!!)

 竜が大きく口を広げ、その牙が向き出しとなる。
 そしてまるで餌を喰らうように——————その口で喰いついた。