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- Re: 最強次元師!! ( No.883 )
- 日時: 2012/08/25 15:50
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: dYnSNeny)
第221次元 第九次元、勃発
「う、そ……」
キールアは、思わず声を漏らす。
いや、彼女と問わずとも、観客にいた全ての人間が黙り込んだのだ。
消える岩の竜。そして立ち込める煙。
その煙から外れて涼しい顔で佇むリフォルは、笑う事もせず。
唯煙の先にいる彼を、見据えるだけ。
『こ、これは……レトヴェール選手大丈夫なのか……?』
あまり活躍しない実況でさえ、驚きも隠せず声を漏らした。
巷じゃ有名だったエポール義兄妹の兄が、竜に呑み込まれた。
その事実が信じられず、誰もが息を呑み込んだ。
(……あれで生きていられた者は、そういない)
リフォルは、静かに勝利を確信した。
何と言っても、レトヴェールの姿が見えない。
攻撃される雰囲気もない。最早、生きているかさえも。
「……!!?」
瞬間、リフォルは妙な殺気を感じた。
胸の奥が疼くような、まるで心臓を抉り取られるような。
気持ちの悪い感覚が、胸元で響き渡る。
その時だった。
「————————ッ!!!?」
リフォルの体が、引き裂かれた。
「ぐ……ァ……!!!」
まるで双剣で、十字に斬られたような傷跡が残る。
そう、“双剣”で。
「————————余所見すんなよ、“天才次元師”」
聞き慣れた声が響く。
彼は血に塗れた双剣を払い、
そうして、笑った。
「レト————!!!」
驚いたキールアは、思わず手すりに喰らいつく。
あの岩竜に喰われ、尚笑いながら登場する彼は、本当に逞しく。
少し涙を浮かべながら、必死に叫ぶ。
そして彼の一言で、会場がまた歓声に溢れた。
「き、さまァ……何故、生きて……!!」
「ったくあんな物騒なもんで攻撃しやがって……お陰で死ぬかと思ったぜ」
「そうではない!! あれを受けて何故……!!」
リフォルは叫んだ事を悔やんだのか、がくりと膝をつく。
然し2人の傷の具合は同じ程。見ただけではとても立っていられない傷のつき方をしている。
それでも尚、レトヴェールは立っていた。
震えもせず、怯えもせず。
「確かにまともに喰らったけどよ……あそこで諦めたら全部終わっちまうだろうが」
「……そういう事か……どうやらもう一度、死にたいらしいな」
リフォルも負けじと立つ。
今の言葉からは、レトの決意が感じられた。
然しこれ以上闘うには無理がある。
体力も元力も殆どない。
それだけ計算すれば、どう考えてもリフォルの方が有利になる。
「いくぞレトヴェール——————————岩柱!!!」
地面に両手をつくリフォル。
そしてレトの真下から、勢い良く岩の柱が飛び出した。
それに弾かれるようにまた頭上に飛ばされる。
「う、く……っ」
「こっちだ、レトヴェール!!!」
またしても後ろにまわったリフォルは手を突き出す。
然しレトも学んでいない訳ではない。
その攻撃に瞬時に対応するように、空中でくるりとまわった。
「岩撃————!!」
「真斬————!!」
ぶつかり合う岩と剣。
互いが技を使い合う度、徐々に元力も削られていく。
そんな繰り返しが、空中から地上に変わっても行われ続ける。
どちらも退けを取らない、そんな攻防戦が続くのだった。
「岩弾!!」
後ろから、或いは前から、岩の塊がレトの体を襲う。
それを全て斬り刻むには、あまりに体力を減らし過ぎた。
体中に衝撃を受けながらも、レトは立ち続ける。
「八斬切り————ッ!!」
岩弾を全て薙ぎ払い、レトは周りを見渡した。
然しリフォルはいない。
何処から来るか分からない以上、しっかりと周りを見ていなくてはならない。
そう思っていた時だった。
「岩砲————!!」
自分の下から、声が聞こえた。
然し刹那の間にレトは岩に弾き飛ばされる。
柱ではない、別の技に。
「お、おま……何で地面から……!?」
「十大魔次元を扱う者は、時にその技と一体になるのが常識だ」
地面の土を抜けて、リフォルが起き上がる。
彼の言い文も、正しいところがある。
十大魔次元は自然の一部。
それを扱うには己が自然を知る事が重要である。
故に一体となって闘う事でより自然を理解し、強くなる。
そういう訳である。
「なるほど……初めて聞いたな、そんな理屈」
「十大魔次元を扱う者にしか、分からない事だ」
「そっか……じゃあ後でサボコロに聞いてみっかな」
服についた土を払い、レトはまた立ち上がる。
それでも精一杯で、双斬を握る力も最初とは比べ物にならないくらい弱かった。
だからこそもう一度強く、より強く握り締める。
絶対に、離さないように。
「……次で……決まりそうですね」
「え……どういう事です?」
ぽつりと、ファイは呟く。
そんな時、治療を終えたムシェルはむくりと起き上がった。
見るからに痛々しい。全身が包帯で包まれている。
「次って……、まさか2人とも最大元力を使うってんじゃ……」
「そう、ですね……あの瞳は、次で決める、という目をしてる……」
「じゃあ本当の本当に、決まるんですね……」
誰もが息を呑む。
2人とも依然として動かず、唯相手を見据えるだけ。
リフォルの手も、動かない。
然し2人とも決して暢気な顔はしていない。
次で決めてみせると、あの表情からはそう読み取れる気がした。
「ギリギリまで——————出せる元力を全てぶつけよう」
リフォルは、ゆっくりと手を挙げた。
これ以上は続けさせない。
必ず戦闘不能にしてやる、と。
そう、訴えるかのような瞳で。
「もう一度姿を現せ——————」
その鋭い瞳は、既に全てを覚悟していた。
「第九次元発動————————岩竜!!!!」
十次元の、一歩手前。
法に触れぬ空前絶後の力。
その姿が今、力と化して————レトの目の前に立ちはだかった。
「オオオオォォォォ——————ッ!!!」
もう一度、その絶対の力が君臨する。
その怒号で、全てのものが薙ぎ払われそうだ。
レトはそう思う。
然し彼は————決して臆する事なく。
「次こそぜってぇ負けねぇ——————必ずぶっ潰す!!!」
レトは、右手の剣を突き出す。
そして、竜はまた標的へと向かい、加速した。
持ち前の怒号で叫びを散らしながら急降下する。
然しその姿を見て、彼は怯えない。
それどころか楽しそうに笑って、大きく息を吸い込んだ。
「第九次元発動————————!!!」
そう、ありったけの声で叫んで。
リフォルもキールア達も思わず驚いた。
(あいつも——————九次元だと!!?)
然し彼の言葉ははったりなんかじゃない。
周りに溢れる気力が、渦を巻く。
この瞬間、この場にいた誰もがその背中を大きく感じた。