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- Re: 最強次元師!! ( No.884 )
- 日時: 2012/08/27 19:56
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: dYnSNeny)
第222次元 2つの次元技と次元改変
上空から地上まで、僅かあと十数メートル。
レトは刃を後方を向け、腕もまた体より後ろに追いやる。
刃が光を帯びる。そして竜が鋭い牙を向ける。
レトヴェールは————、遥か上空を見上げた。
「——————————万闘円斬ッ!!!!」
全ての景色を薙ぎ払うように、空を斬る。
そして岩の竜と赤き真空波が、互いに衝突した。
「行っけェェ——————!!!」
「押し潰せ、岩竜——————!!!」
真空波が、竜の腹部にぶち当たる。
そして竜が、それに耐えて弾こうとする。
どちらも優勢で結果が見えないと————そう思った矢先。
「「——————!!?」」
真空波が、岩の竜を打ち砕いた。
「そ、んな……何故……————!!!」
然しレトヴェールは、刹那の隙間さえ与えなかった。
レトの存在に気付かないリフォルは————もう遅い。
「——————ッ!!?」
「八斬切りィィィ————!!!」
煙の中を抜け、加速したレトに追いつく筈もない。
瞬間、リフォルの体は血飛沫と共に悲鳴をあげた。
岩と共に崩れていく天才少年は、力尽きたように倒れる。
それは、レトの勝利を明らかにしたものだった。
『しょ、勝者——————レトヴェール・エポール!!!!』
吠えるように上がる歓声の中、レトはサボコロ達に向けて大きく剣を上げた。
そして喜び合う。ボロボロになったリーダーの勝利を。
『第1回戦は——————エポールチームの勝利だァァァ!!!』
再び上がる歓声はもう歓声ではなく叫び声にすらなっていた。
かなり喧しいその声に、レトも思わず表情が苦しくなる。
そしてボロボロの体を何とか引き摺って、選手席へ戻る。
「よっ! 良くやってくれたな!!」
「まぁ……結構ギリギリだったけどな。……つうか休みたい」
「今はゆっくり休め。何日か休養を貰えるはずだ」
「あぁ、そうだな」
サボコロとエンが2人がかりでレトを持ち上げる。
肩を貸したままのレトは、いつの間にやら眠っていて。
その後を追うように、キールアも歩き出す。
これで、漸く終わる。
長かった第1回戦が。
「くぅーっ! やっべぇ疲れた」
「本当にね。この後はミル達の試合だっけ?」
「ああ。あいつらなら楽勝なんじゃね?」
サボコロは腕を伸ばしたまま、ベッドに転がりこむ。
今日一日だけで体力も元力も限界に達している。
そんな4人はそれぞれのベッドに腰掛けてまどろんでいた。
「って……そういえば俺、聞きたい事あったんだけどさぁ」
サボコロが、寝転んだ体をくるっと前に起こす。
その声に反応して、キールアもエンも向く。
流石にレトは熟睡中なので向く事もなく、唯寝息を立てて眠っていた。
「キールアの次元技って、ぶっちゃけどうなってんの?」
そういえば、とエンも言う。
一度次元技が失われたにも関わらず、キールアは違う次元技を出現させた。
それは今までにない特例の出来事で、勿論知らない訳で。
「それなら、話が長くなるけど聞いて貰えるかしら?」
「「「!!?」」」
キールアの背後から、突然凛とした声が響き渡る。
ひょっこりと顔を現したのは、百槍だった。
「お、お前……おお驚かすなよ……」
「びっくりしたぁーっ」
「神出鬼没だな、元霊というのは」
あはは、と炎皇と光節も笑う。
確かに出現自由自在なので、いつ何処で出てきても可笑しくないのだが。
それより、と。
百槍は話を切り出した。
「聞きたいんでしょう? 私と“慰楽”の秘密が」
ごくり、と、皆が喉元を鳴らし、百槍に視線を集めた。
そう、これは今から500年も昔の話だった。
500年ほど前、この世界では“次元改変”という行事が一度だけ行われた。
何故そんな事が、というと。
実は各地域で“次元技が勝手に暴走する”や“元力の消費が異常に速い”等という問題が起きていた為。
全ての次元技を回収し、その次元の再調整を行ったのだ。
そのおかげで殆どの次元技が元通りになり、問題は発生しなくなった。
然したった2つだけ、その調整に失敗し、逆にくっついてしまった次元技があった。
それが“慰楽”と“百槍”。
「でも、今まで慰楽を使っていた人は、百槍の存在なんかに気付かなかったわ」
「え?」
「貴方みたいに百槍を扱った人は、今までほんの一握り。慰楽のまま戦い、死んでいく次元師が殆どだったの」
「へ、へー……」
「でも別に悪い事じゃないわ。このおかげで少しだけだけど、慰楽の次元技を使えるのだから」
百槍の言う通り。
2つの次元技が1つと化してしまった以上、この事実は変えられない。
然し百槍まで辿り着いた人は、何と慰楽の時使っていた次元技を少しだけだが使う事ができる。
これは悪い話ではない。
「なるほどなぁ、でもこれでキールアも元霊持ちかぁ」
「そ、そうだね」
「そう考えると俺らって凄くねーか? その、ロクも含めたら……全員元霊持ちじゃんか」
そう、言われてみればそうだ。
普通出会う筈のない5人の元霊持ちが、もう既に出会っている。
しかもその内4人は同じチームで、仲間である。
然しこんな偶然が本当に在り得るのだろうか。
「偶然じゃ、ないのかもね」
「びゃ、百槍……?」
「もしかしたら、何か使命を果たす為に……集められてしまった、とか」
その言葉に、3人が黙り込む。
何かを背負い、何か使命を果たす為に、この場に揃っているのだと。
そう百槍が言い放ったからだろう。
「は、はは……いや、んなわけねーって。確かに……出来すぎてるけどよ……」
「そうだぞ百槍。こんなサボテンと使命を果たせなどと……」
「今のは違うと思うぞこのチビ」
「何か言ったかバカテン」
「今略したァ!!?」
「でも……そうだったら、良いね」
キールアの何気ない小さな一言に、睨みあっていた2人は動きを止めた。
そしてキールアも、少しレトの方を見やる。
「この4人と……あとロクで、何か使命を果たせるんだったら、あたし、それが良いなっ!」
「……まぁ、そうかもな!!」
「どこまでいっても一緒か……」
「お前とはご免だけどなっ」
「こっちの台詞だバテ」
「……いや、それは略しすぎ」
サボコロとエンも、何気に喧嘩の雰囲気を殺していた。
あの時の2人の表情に比べたら、柔らかく、とても穏やかなものに変わってきている。
これもレトの戦いを見たせいだろうか。
そう思うと自然に顔が綻ぶと、そうキールアは思った。
「じゃあもう難い話はやめて休もっか」
「そうだなー。キールアこそ休んだ方が良いぜ? お前無茶しすぎたんだし」
「はは……それもそうかも」
3人は、飲み物を飲むなり寝転がるなり、自由にこの時を過ごしていた。
唯、こんなまったりした時間が夢のようだと思いながらも。
それでもまだ、次が待っている。
ミル達が勝ってくれる事を、心から望んで。
(果たすべき宿命、か……)
唯一人。
眠ったふりなんかしてた金髪の少年も、その言葉に悩まされていた。