コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 最強次元師!! ( No.888 )
- 日時: 2013/04/07 10:26
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 2DX70hz7)
第223次元 消えた23人
「レト!! 起きてよレト!!!」
金髪の少年、レトヴェールの眠りを覚ましたのはキールアだった。
鈴のような綺麗な声がレトの耳を過ぎる。
レトはむくりと、少し眠たそうに起き上がった。
「んだよ……」
「ミル達の試合始まってるよ!? 早く起きてよーっ!!」
「うぁ……ミル? あぁ、そうだった」
けろっと、レトは起き上がる。
然しその瞬間。
「うぐッ!?」
グキリ、と。
鈍い音が耳まで届く程に鳴り響く。
「え……ど、どうしたの!?」
腕を伸ばしたレトは、その状態で固まったまま。
どうやら背中が動かないらしい。
「う、動かん……」
「そういえば結構酷い一撃受けてたね」
「このままじゃ行けねぇ……」
必死に体を動かそうとするレト。
それを見てキールアは、ぱっと顔を明るくした。
「おんぶする?」
「アホかお前!!?」
えー、と。キールアは不満そうな声をあげる。
然し彼女はベッドに腰かけたままのレトの前でしゃがんだ。
「な……なんすか」
「ほら、早くしないと終わっちゃうよ?」
「く、屈辱以外の何ものでもねぇ……」
キールアは、ひょいとレトを持ち上げた。
重くないじゃん、とか言いながら廊下を突き進んだ時。
前方には、サボコロとエンがいた。
「おーキールア……ってぎゃはははッ!! れ、レトおま……!!」
「ふむ……普通は逆ではないのか? レト」
「お、お前らなぁ……ッ」
「あとで蛇梅隊の皆に言いふらしてやろうっとーっ!!」
「ッ!? キールア下ろせ!! 今すぐあいつを仕留める!!」
「まぁまぁ……」
サボコロは爆笑したままで、レトはキールアの背中で暴れたまま。
そしてエンは口元を手で抑え、僅かに笑っていた。
こうして4人は、外から漏れる光と歓声に導かれ、4人はもう一度会場に向けて歩くのだった。
湧き上がる歓声の中、立っているのはミル・アシュランだった。
彼女は今、膝に手をついて荒く息を零している。
頬を伝う汗が、妙に冷たく感じる。
ミルはそんな事を思いながら、ちらと前を向く。
「ぁ……はぁ、っぁ……っ——————うぁぁッ!!」
突然、彼女の体はくの字に折れ曲がった。
血は噴出さないものの、本人の表情からして苦しんでいるのが分かる。
彼女、ミルは、ふらっと倒れそうになる。
然しまた、彼女は苦しそうに息をして膝を強く手で握る。
「み、ミル……?」
「おいおい……こりゃあどうなってんだ?」
「あのミルが……何があったんだろう」
レト、キールア、サボコロ、エンの4人がその場で固まる。
そんな姿を見て、近くにいたガネストが声をかけた。
「あ……いらしたんですね、4人とも」
「あ、ガネスト! ねぇ、今どうなってるの?」
「……じ、実は……」
ガネストは、自分の無傷な体を見やり、そしてラミアとティリの方を向いて、再度顔を戻した。
その動作も、表情も、とても悲しそうで。
「第1試合でティリとラミアさんが、物凄い傷を負って負けてしまい……第2試合、僕は不戦勝でした」
「不戦勝?」
「ええ……相手の人に、自分の出る幕じゃないな、と言われ…不戦勝に」
「出る幕じゃ……ないだと」
「……そして今ミルさんが……戦っている……相手が……!!」
そう言って、ガネストは体を震わせた。
涙を我慢して懸命に自分の心と闘う彼には、もう、何も言えない。
4人は同時に見やる。彼女が戦っている相手を。
「もう終わりかよ? ……ミル、お前、強くねぇな」
「————!!?」
「お前の『心』も『体』も——————ズッタズタにしてやるよッ!!!!」
367人分の元力の己の体に宿し、
罪と福の、闇と光のバランスをとり続けてきた彼女。
幸罰という次元技を与えられたその少女は——————散った。
心も体も、彼女が犯した“罪”でさえ。
「お前の犯した罪は重すぎたな……ミル・アシュラン」
ミルより高めの、そのすらりとした体型で会場を去る。
口調な男らしいその人物の声は高く、女性と思わせる容姿。
然し彼女はミルが崩れ去る姿も見ずに、その場から消えた。
謎の篭った言葉を残して。
「勝者——————————“アシュラン”チーム!!!!」
この時、試合の序盤を見ていなかったレト達4人は絶句する。
今、実況を務める彼は何と言ったのだろう。
「ア、シュラン……ッ!?」
「おいおい待てよ待てよ……アシュランってお前らの事じゃ……」
「僕らではありません——————だって彼女の姓も、“アシュラン”なんですから」
ガネストは、呟くように、そう小さな声で言った。
レトは、キールアの背中で腕を組み、はっと思いついたような表情を見せる。
「ハル・アシュラン……の、姉妹か……?」
「ハル・アシュランって……ミルがいた研究所で、一番親しかったっていう……」
「生き別れの姉妹……という奴か」
5人の間に、暫しの沈黙が訪れる。
ガネストは会場に取り残されたままのミルの許へ走った。
誰も口を開くものはいない。
唯そこに時間が流れ、観客の声すら耳には届かない。
会場から戻ってきたミルの瞳も、開かないままだった。
「……おかしいったら」
水色の髪にぴしっときめた黒いスーツ。そして特徴的なその声が洞窟内で響き渡る。
第二次選考試験管のスイタラは、2,3週間前に使用された洞窟の奥をじっと見ていた。
「あら……どうか致しまして? スイタラさん」
「……っ? あれれ、どうしてここに?」
「いえいえ、通りすがっただけですのよ。ところで何がおかしいんですの?」
金髪の長いウェーブを、折りたたんで髪留めで留め、
赤い和服を着て、その細い瞳でスイタラを覗き込んだ。
いつしかレトの試合を見ていた、あの丁寧口調の女性だった。
「実は……ちょっと不思議な事がありましてったら」
「不思議な事、といいますと?」
「洞窟に入って抜け出せなかったのは12チーム中7チームで」
「……そうなんですの?」
「ええ。そして7チームで、えーと28人中5人は脱出したから……」
「23人ですわね」
「そうったら! その23人が……ちょっと……」
金髪の女性は、首を捻って疑問符を浮かべた。
口元が篭って言葉のはっきりしないスイタラを、キッ、と睨む。
それにひぃぃ、と声を上げた彼は一度肩を竦めて、
「洞窟の中に閉じ込められた筈が、いないんったらよ————————“誰一人”」
そう、言い切った。
女性は更に目を細める。そしてくるりと、入ってきた道を進む。
「どうしましたったら?」
「……くすっ」
「?」
女性は、一度笑った。
そして、スイタラの方に振り向く。
「さぁ——————“誰かさん”が連れてってくれたのかもしれませんわよ?」
はぁ? とスイタラなは間抜な声を上げた。
そして彼女はくすくすと笑ったまま、光のある方へ消えていく。
スイタラはもう一度、あの長く暗い、洞窟の先を見つめた。
そんなバカな、ともう一度苦笑して。