コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 最強次元師!! ( No.889 )
- 日時: 2012/10/26 13:56
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 9QYDPo7T)
第224次元 『命』、『心』、『』。
時間は少し遡る。
レトヴェール達エポールチームが控え室で寝ていた頃の事。
その時、ミル達のアシュランチームは第1回戦を迎えていた。
強すぎる太陽の光と、妙に喧しく聞こえる歓声を受け、
ラミアとティリは、傷だらけで立っていた。
「あ、いつら……どうなってんだ」
「……どんな技も、効かない……っ」
2人の前に立っていたのは、白髪の少年少女。
黒いベレー帽を被った少女と、やけに冷たい目をする少年。
白髪の2人は、ラミア達とは対象的に涼しい顔をしていた。
「さて、いきますか? テシル」
「問答無用。敵に情けをかける事はありません」
妙な敬語口調を持つ2人は、そんな会話を交わす。
そして、少女の方が等身大はあるであろう大きな筆を取りだした。
彼女は、少しだけ笑う。
「第七次元発動——————、描空!!」
大きな筆をぐるんとまわし、黒い輪郭を空に描いた。
ナイフのような、剣のような形をしたそれを見て、少年も動く。
「第七次元発動——————、加色!!」
腕をぶん、と輪郭に向かってなげつけた。
そこから飛び出た鮮やかな色が輪郭の中へ溶けていき、やがて色が着く。
ラミアもティリも、半歩退いた。
それを見ていた2人は笑いもせず、唯少女はすっと腕を上げた。
(もう元力も残ってねぇのに——————)
(——————、なんて非道な奴等なの!!)
今度はそれを、ラミア達2人に向かって投げた。
着色された数え切れないナイフの雨。
鮮やかなその絵と色は、途端に普段の色を失った。
真っ赤にそまったそれは、倒れた2人の上で溶けていく。
「そ、そんな……ッ!!」
「ラミア!! ティリ!!!! 返事して————ッ!!」
ミルは思わず立ち上がる。ガネストさえも、体を震わせた。
最後のとどめを刺す前に、2人はもうボロボロだった。
にも拘らず相手2人は、七次元級の技で、2人の体を引き裂いたのだ。
赤く染まった会場で、それでも尚純白の白さを放つ2人の髪はとても無情なものに見えた。
「第1試合——————————セシル・マーレット、テシル・マーレットペアの勝利だァァ!!」
彼女達の名前が叫ばれ、観客も大声を張り上げる。
会場に残された2人は、急遽医務室に運ばれていった。
ガネストも、ミルも、声を出さなかった。
いや、出せなかった。
あれ程非情な人間がいるだろうか。もしかしたら、自分が戦う相手も、そんな人達なのかもしれない。
そう思うと、心が押し潰されそうになった。
自然と、足が竦む。
「僕らは……勝てるのでしょうか」
「……」
「本当に……、レト達と戦う事が、できるでしょうか」
「……、やらなきゃ」
「……っ!」
「進まなきゃ、始まりすらしないから」
ミルの表情は、真剣であった。
ガネストのまた、唇を噛む。
悔しいのは互いに同じ。なら、自分の最善を尽くさねばならない、と。
そう、思った時。
「続いて第2試合——————、ガネスト・ピック対リラン・ジェミニーッ!!」
自分の名前が呼ばれ、ガネストは呼吸をし、会場に向かった。
向こうからやってきたのは、自分より少し小さめの女の子。
白い兎のパーカーを着てフードを被り、少しぶすっとした表情で歩いて来る。
そして、肩には小さなウサギを乗せて。
「ふーん……貧相な奴だね」
「ひ、貧相って君……」
「不戦勝で良いよ」
突然、彼女はそう言い出した。その表情は変わらず、くるりと後ろを向く。
「え……」
「あたしの出る幕じゃないから。じゃーね貧相なお兄さん」
「ちょっとそんなの認め——————」
「——————あんた、見るからに人を撃つような人じゃないしね」
つまんないんだよ、と言い残して彼女はポケットに手を突っ込んだまま戻っていた。
観客も戸惑っていたが、やがて実況の咳が入る。
「え、えーでは——————、勝者、ガネスト・ピック!!」
ガネストも、やりきれない気持ちのまま席へ戻る。
あのウサギの少女は、欠伸をしながら席で寝ていた。
ガネストは、少し気になっていた。
あの言葉を。彼女が残したあの台詞を。
『——————あんた、見るからに人を撃つような人じゃないしね』
何故彼女は知っていたのだろう。こちら側の次元技を。
もしかしたら予選の時からアシュラン・チームの事を見ていたのかもしれない。
相手の次元技を事前に知っての、言葉だったのかもしれない。
「それでは最終試合————————!!
ミルは、ぎゅっと相手を見る。
そして、会場へと足を踏み出した。
「ミル・アシュラン対ロティ・アシュラン——————!!!!」
始まる。
いつかはぶつからなければいけない、越えなければいけない敵との、運命の一戦。
ミルにはそれでも負けない自信があった。
どうしても、譲れないものが、今この時はあったのだ。
「ようミル・アシュラン——————会えるの、楽しみにしてたぜ?」
すらりとした長身の女性。男口調で、袖に余裕のある服装の彼女は、くすくすと笑って現れた。
それでもミルは笑わなかった。それが別に暖かな笑みじゃないと、知っていたから。
ミルは、知っていた。彼女がこの戦いに参加する事を。
『ハルの……お姉さん?』
『ああ……、実は今回の決定戦に参加してるんだ——————お前と戦り合う為に、な』
班長室での出来事だった。
ミルは一人、班長に呼ばれていた。
そしてミルにそんな事を伝えていたのだ。
『それでも行くか? ミル・アシュラン』
班長の声はいつになく真剣で、鋭い目もまたミルを見据えていた。
ミルは一度開いた口を閉じて、そしてうっすらと笑みを浮かべる。
『もしそれが運命なら——————私は喜んでそれを受け入れます』
例え負けてしまっても、例え死んでしまっても。
元々亡くしていたこの命。ハルに救われたこの心。
それがもしハルの為に、そしてその人の為に消えてしまうのなら——————それは決して苦ではない。
ミルはそれも胸に抱いて今日この場所にいる。
この命が燃え尽き、擦り切れるまで戦うと——————誓ったのだから。
ミル・アシュランは戦った。
自分の出せる元力ギリギリまで。
自分の出せる全力ギリギリまで。
然し彼女の思いは、届かなかった。
ハル・アシュランへの思いで、負けてしまった。
彼女は綺麗なまでに残酷な姿で、朽ち果てた。
そして彼女自身も、それを見ていたガネスト、そしてレト達も——————その姿を忘れないだろう。