コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 最強次元師!! ( No.890 )
- 日時: 2013/04/07 10:29
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 2DX70hz7)
第225次元 白髪の双子絵師
暗い部屋の中。
エポールチームの皆が寝息をたてているのが聞こえる。
レトヴェールはごろんと寝返りをうって、うすらと視界を広げた。
(……アシュランチーム)
そう、今日行われた第1回戦。
ミル・アシュラン率いる蛇梅隊Bのチームは、相手側のアシュランチームに敗北した。
ティリとラミアというペアをなんなく打ち砕き、ガネストに勝ちを譲り、そしてミルが負けた。
あのミルが負けた相手が、次にレト達が当たるチームのリーダー。
強制的に、レトヴェールが当たる事となる。
でもそれは、いつかは通らねばならない過酷な道だという事も、分かっていた。
その為に今、ここにいる。
目の前にある全ての壁を薙ぎ払い、果たすべき目的を胸に抱いて。
「……おし、皆準備できたか?」
「おうよ!! いつでも良いぜ!!」
「万全だ。いつでも行ける」
「うん、あたしもおっけーっ!」
エポールチームの4人は、頷き合う。
そして、部屋をあとにした。
「あ……」
今日も相変わらず観客席はいっぱいで、立っている人もいた。
キールアは、自分達のベンチにガネストとミルがいるのに気付く。
ティリやラミアの姿が見えない。きっと医務室で休んでいるのだろう。
「あの2人、来てくれてるみてえだな」
「うん……あ、あのさ、レト」
「ん?」
「大丈夫、なの……? 昨日あんなにボロボロだったのに……」
キールアは、思わず俯いた。
立ち上がれない程重症だったレトは、今朝になったらけろっとしていた。
それは見せかけで、本当は傷だらけで無理してるんじゃないかと、
そう、キールアは言うのだ。
「……えいっ」
「っ!?」
俯いていたキールアの頭の上に、チョップが下る。
いったぁ!? と言い頭を抑えるキールアの言葉も無視して、レトはすたすたと席の方へ歩いた。
「いらん心配すんなって」
「い、いらんって……!!」
「どんなに酷い状況下だったとしても……あいつなら絶対諦めねぇだろ?」
レトはそう言って、笑った。
キールアは暫しの間にぽかんとする。
「信じてくれよキールア、俺は絶対負けたりしない」
その一言で、キールアの表情も綻んだ。
少し頬を赤く染めながら、そうだねと笑ってみせた。
万全じゃないから勝てませんでしたなんていうものは通じない。
ならば己の体が砕けて散るまで、全力を出し切ってやろうと。
そう、考えたのだろう。
とその時。
あ、あー、というアナウンスが聞こえてきた。
「それでは第2回戦————————エポールチーム対アシュランチーム!!!」
上がる歓声は勢いを増し、レト達を包み込む。
昨日今日で、観客も気分が高揚しているのだろう。
そんな中、相手側のチームもうっすらと姿を現した。
白髪の少年少女2人と、小さな兎を肩に乗せた無愛想な少女。
そしてあの長身の女性も、そこにいた。
「第1試合——————、サボコロ・ミクシー、エン・ターケルド対セシル・マーレット、テシル・マーレット!!!」
昨日と同じ、選手。
見分けがつかない程酷似した2人が、ゆっくりと落ち着いた足取りで会場へ降りてきた。
サボコロとエンもお互いに頷き合う。
歩いている最中、急にサボコロが口を開いた。
「なぁ、エン」
「……何だ?」
サボコロは一度、足を止めた。
「昨日は、その……悪かった」
「……っ?」
「俺、お前の事も皆の事も考えねーで一人で突っ走ってたからさ」
サボコロがそう言って、へへ、と笑った。
恥ずかしそうに笑った彼を見て、エンの口元も歪む。
「……お前だけのせいではない。だから次こそ————————“2人”で勝つぞ」
エンも、サボコロの方こそ見なかったが、強くそう言った。
サボコロの表情が、いつもの彼に戻る。
絶対に勝ってやると、決意に満ち溢れたあの表情に。
「ああ————————ぜってぇ勝つッ!!!!」
そう叫んだ彼の言葉に反応したのか、双子であろうセシルとテシルは振り返った。
少女の方は、くすりと笑う。
「自身がおありなのですね——————、実に微笑ましい」
「ああ?」
「まぁ、勝手な妄想は構いませんけどね」
にこりと、可愛らしく小首を傾げる少女の目は、まるで笑ってはいなかった。
そして。
「「次元の扉発動————————」」
凛とした、それでいて美しい声の調和が耳に響く。
「——————絵生ッ!!」
「——————踊色ッ!!」
相手の2人が、同時に次元の名を叫ぶ。
サボコロとエンも同じく次元の扉を開く。
然し時は待ってはくれない。直後、向こうの2人の姿が消えた。
「な……ッ、き、消えたっ!?」
「うろたえるなサボコロ!! 奴等がどこから来るか分からないぞ!!」
瞬間、
「先手必勝————————、こちらからいきます」
「——————ッ!!?」
「第六次元発動——————描空!!」
一度少年の声がしたかと思うと、今度は幼い少女の声が響いた。
それはサボコロ、エンの背後からで、2人は咄嗟に声がする方へ振り返る。
目の前にあったのは、黒い輪郭で描かれた“剣の絵”。
「第六次元発動——————加色!!」
そして少年が豪快に腕を振るい、色を飛ばした。
剣の絵に色が追加すると、少年はそれを空中で留め、その矛先をサボコロ達に向ける。
「百発百中——————、君達は避けられない」
「「————————ッ!!?」」
刹那。テシルの飛ばした多数の剣がまるで雨のように2人に突き刺さる。
壮絶な爆音、立ち込める煙によって包まれた2人を見据え、白髪の2人はまた並ぶ。
「残念ですが……貴方達に勝つ術はありません」
「絶体絶命、僕等のコンビネーションは、誰にも負けない」
セシルが自身の等身大程ある筆を軽々しく持ち上げ、背中に装着させる。
テシルは持っているパレットを彼の左腕に装着させていた。
2人とも、見た目も口調も似ていて、唯一似てない部分と言えばセシルの方がベレー帽を被っている事くらいだった。
(何だ、よ今の……、まるで避ける暇がねぇ……!!)
(スピードも威力も並ではない……奴等、相当な手練と見た……)
立ちこめた煙の中で、ふらっとしながらも2人は立ち上がってみせた。
荒い息こそしてはいるが、どうやら無事のようだ。
「なるほど……起き上がりますか」
「……七転八倒……、という奴ですか」
ふうーと言いながらサボコロは腕を伸ばす。
そしてエンもサボコロも、急に上着を脱ぎ捨てた。
「こっからが本番だぜ双子野郎」
「“誰にも負けない”……、か。良い心がけだ」
加えて2人とも、笑っていた。
それは昨日のレトと同じような姿で、自然とあの少女の面影が見える。
キールアもレトも、互いに笑い合う。
「頑張れよ、2人とも……」
そんなレトの小さな言葉も、喧しく上がる歓声に呑み込まれる。
先日、ティリナサ・ヴィヴィオとラミア・ミコーテを窮地に追いやり、そして倒した2人組み。
蛇梅隊の中でも天才コンビとして謳われたあの2人を相手に一歩も退かなかった奴等に、果たして勝つ術はあるのか。
後には退けない。昨日の屈辱と悔恨を胸に、2人は加速した。