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Re: 最強次元師!! ( No.892 )
日時: 2013/02/24 22:24
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 2DX70hz7)

第226次元 消える双子

 白い少女が、輪郭を描く。
 白い少年が、色を加える。
 
 それだけで出来上がった武器の数々が、問答無用にサボコロとエンに襲い掛かる。
 2人はその攻撃から逃げながら、且つ攻撃を放つというのを繰り返していた。
 そうして試合開始から、1時間以上が経つ。

 「何て試合だ……」
 「うん……2人とも、走りっぱなしだよ……」

 体力が無くなると、気力が失われていく。
 そして気力が失われると共に、精神的な面で弱みが出てくる。
 次元師にとってそれが悪循環になっていく事は、2人にも分かっていた。

 「は……あいつら、マジで化け物みたいだな……」
 「ここまで来て汗ひとつ掻かないとはな……とんだ相手だ」

 サボコロは、腕に力を入れる。
 武器型と違って魔法型は自分の体に直接負担がかかる。
 その分技の一つ一つの大胆さでは、武器型に劣らず強い。
 サボコロはエンより遥かに体力がある為、動き回って攻撃するのも当然の事。だが。
 流石に疲れを露にしない相手をずっと見ていると、攻撃出来るものも出来なくなってくる。

 「サボコロ、あの2人は一緒にしたら強いが……1人が欠けるとバランスが崩れるタイプだ」
 「……そう、だな」
 「だからそこを突く。隙を見てコンビネーションを崩すぞ」
 「あぁ……————了解っ!!」

 その場からエンの姿が消える。
 サボコロは会場の中央付近にいたセシルに向かって、にっと笑った。
 常に片割れのテシルと背中合わせの彼女は、少しだけしかめっ面をつくる。

 「じゃあいくぜ——————————炎撃ィィッ!!!!」

 腕を上げ、そのまま下ろし、サボコロの掌から業火なる炎が唸りを上げた。
 その炎の塊は、双子の輪郭を見事捉え、喰らいつこうとする。

 「忘れました? 私達は————————無敵です」

 セシルの上げた筆がまたしても輪郭を描き、その刹那にテシルが色を加える。
 黒い骨組みで描かれた、箱を象る四角い壁が双子の周りに出現した。 
 セシルが、ふっと笑う。

 が、然し。


 その瞬間、その箱は————————何かが割れるような音と共に、崩れ去る。


 「え……——————っ」


 セシルの小さな声は、轟と鳴る炎の渦の中へ消えた。
 そしてふっと、炎の中から2人の影が空中に現れる。
 咄嗟に頭上へ逃げたが、そこでさえ。


 「炎柱——————————ッ!!!!」


 真上に、紅い髪の少年がいた。
 地面から湧き上がった炎の柱が、今度こそ見事に双子を捉える。
 
 「う……ぐぁ——————ッ!!」
 
 セシルと思われる声が響く。
 炎柱が唸り治まると、炎は消えるように散り、双子は垂直に落下した。
 サボコロも地面まで落とされ、また地上にはエンが弓を片手に清清しく立っていた。
 体を若干打ったサボコロは、へへっと笑いながらエンの許へ歩く。

 然しその直後、背後からの鋭い視線に咄嗟に振り向いた。

 「ぐ————ッ!!?」

 サボコロの腹部に、太くて鋭い剣が突き刺さっていた。
 剣を象る黒い輪郭と、それに色を付け加えたような物体。
 そんな双子の次元技はそのまま溶けてなくなった。
 じんじんと伝わる痛みと、止まる事を許さない赤い液体。
 それでも彼は倒れる事なくそこで立ち尽くしたまま。

 「おいサボコロ……大丈夫かっ!?」
 「あ、あぁ……にしても油断してたぜ……」

 後ろには、テシルとセシルが立っていた。
 ここに来て、初めて汗を拭っているのが分かる。
 セシルは、口を開いた。

 「やりますね……2人とも。特にエンさんは何を考えているのか検討もつかない」
 「それは有難い言葉だな……最も、感謝などしていないが」
 「……あの壁を突き破ったのも、貴方ですよね?」

 エンは、頷く事なくただ小さく笑った。
 さっき、作られた箱の壁は一瞬にして砕け散った。
 それは双子の背後でエンが一瞬の内に弓を放ち、打ち砕いたから。
 そして元々双子を上空に追い込む為の策略でありカモフラージュ。
 最後にサボコロが腹部を貫かれたのは誤算だったが、そこまでは見事思惑通り。
 少しだけ気を乱したセシルを見て、サボコロも笑う。

 「その様子じゃあ、戦うのは難しそうですね……。では行きましょうか——————テシルッ!!」

 承知、と小さな声が響き、2人はまた突如消えた。
 静かな空気だけが、会場に残る。
 2人の姿が見えないのは、どうやら僅かに残った煙のせいだけではなさそうだ。

 「あいつら……何で姿を消せるんだ……?」
 「……」
 
 小さなサボコロの声に、エンは何も答えなかった。
 目の前の景色に白い双子の姿は見えない。
 エンは、少し景色を見据える。

 (……——————まさかッ!!?)
 

 と、その時。


 「——————ッサボコロ上だっ!!!」
 「——————!!?」

 突如、遥か上空から雨のように何か固い物が物凄い速さで降ってきた。
 それは小さな槍のような形をしていて、容赦なくサボコロ達に降り注ぐ。
 咄嗟に腕で槍を防ぐが、サボコロもエンも腕に傷が刻まれる。

 「く……ッ、上にいたのか……ッ!!」
 「いや……奴らは上にいないぞッ」

 全ての槍が降り注ぎ、2人がふと上を見上げた時。
 サボコロの背中に、何かがめり込んだ。

 「—————ッ!!?」

 めりり……と、太い棒のようなそれは、サボコロの背中に突き刺さる。
 パキリ、と。そう音が鳴る。
 サボコロは小さな声と、赤い液体を口から吐き出した。
 そして彼は、そのまま倒れ伏せた。

 「さ、ぼころ……————ッ!?」
  
 サボコロが倒れた時、その先には白い少女が冷たい瞳を輝かせていた。
 少し細めの棍棒をその手に、彼女はエンを睨みつける。

 「速さも強さも判断力も————————そして注意力さえ」

 「…………ッ」

 「貴方達には——————欠点が多すぎるのでは?」

 彼女は少し突き放すような口調でそう言った。
 馬鹿にしたように息を吐く彼女の手元から、棍棒が溶け消える。

 「て、ぇめ……ッ!!!」
 「あら……まだ起きられるのですね。流石、野蛮なだけはありますね」
 「——————ッ!!!」

 エンは突如弓を構え、矢を引き、荒い手順で体勢をつくる。
 その速さは迅速なるもので、彼は間も無く一気に指を離す。
 近距離の位置にいた彼女に向かって、弓が走る。

 が。

 「「——————!!?」」

 彼女は、くるりとまわった。
 そうして弓は、彼女を通り過ぎて遠くの壁に向かって進み、そうして突き刺さる。

 「————ああ、あとは冷静さにも欠けてそうですね」

 彼女の声も、口調も、焦りを見せず変わらない。
 これが本当の——————代表となるべき次元師なのだろうか。

 サボコロは起き上がろうと必死に体を動かし、
 エンはただ、弓を片手に立ち尽くす。
 試合開始後から、僅か2時間。

 そしてここから————————双方の間で絶対的な差が、生まれ始める。